イエス・キリストがユダヤ、ガリラヤで活動したのが紀元(AD)30年くらいまでですが、その後、キリスト教会が生まれ、成長します。信者は、紀元40年頃には1000人程度だったのが、紀元350年頃にはローマ帝国の人口の過半数である3400万人に達した、とする説があります。
これにはどのような理由があるのでしょうか。また、衰退が言われている現在のキリスト教会はどのようなことを学べるでしょうか。
1)直接触れ合う親しい人間関係にわたしたちは愛着を感じますが、その愛着がキリスト教の宣教の一因になる、と考えられます。信頼する家族が信じている神だから自分も信じる、ということです。
2)世の中である程度の恩恵に与っていながらも自分は報われていないと感じていた人びとがキリスト教に改宗したことが考えられる、ということです。
3)古代ローマ帝国はたびたび疫病に見舞われましたが、多神教やギリシャ哲学はそれを説明することも、癒すこともできませんでした。しかし、キリスト教はその苦しみの理由と希望、未来像を提供できた、ということです。
4)疫病が猛威をふるう中、キリスト教徒は病人との連帯と奉仕でこれに対処し、キリスト教徒以外の人びとより生存率が高く、それがあらたな信者を生んだと考えられます。
5)疫病によって社会的ネットワークが破壊されましたが、キリスト教徒のネットワークは生き残り、そこに加わる人びとが多くいて、信者が増えたと考えられます。
6)3)~5)と重なりますが、キリスト教徒は、病人、瀕死の者を労わり、死者を丁寧に葬り、そのことに物惜しみしなかったということです。
7)キリスト教徒は福祉国家のミニチュア版を社会の中に作り上げました。それは「ひとにしてもらいたいと思うことを、人にもしなさい」(マタイ7:12)、「受けるより与える方が幸いである」(使徒20:35)などの聖書の言葉に基づいていました。
8)「神さまが人を愛する、また、神さまが人を愛するから人は互いに愛し合う」という教えは当時の多神教にはなかったそうです。
9)キリスト教徒は「この世の命は前奏にすぎないと確信」(p.116)していたそうです。
10)これに関連して、ヤコブ、パウロ、ペトロと言った紀元60年代の殉教者たちの存在はキリスト教徒を鼓舞したようです。
11)キリスト教の歴史や聖書の研究者たちのあいだでは、女性がキリスト教会の始まりから高い地位と権威を持っていたという共通見解がありますが、当時の他の社会では見られない、このような女性の存在がキリスト教会の成長の一因だと考えられます。
12)殉教者の多くが女性でした。
13)当時の多神教世界では女性は思春期になる前から結婚を余儀なくされていましたが、キリスト教徒の女性はもっと上の年齢になってから結婚し、相手を選ぶこともできたそうです。
14)ローマ社会では女性は生まれた時に間引きされたり、成長しても危険極まりない中絶で死んでしまうことが多く、男性の人口の方が多かったのですが、キリスト信者の間では、そのようなことがなく、女性の方が男性より多かったそうです。すると、一定数の女性たちは非キリスト教徒と結婚することになりますが、その夫がキリスト教に改宗するケースが多かったそうです( 1で述べた「愛着」を思い出してください)。
15)当時のローマ帝国の諸都市にはさまざまな問題がありました。たとえば、貧しい人や家のない人もたくさんいましたが、キリスト教徒は慈善活動をし、この人びとに希望をもたらしました。あたらしく都市に来た人びとにはネットワークを提供しました。孤児と寡婦も多くいましたが、キリスト教徒はその人びとを支えました。こういう考え方は多神教世界にはなかったそうです。
16)多神教の神々は人間に愛情を抱くなどということはありませんでしたが、キリスト教徒の聖書は「神は、その独り子をお与えになったほどに、世を愛された」(ヨハネ3:16)とあり、これは異教徒の教養人には驚くべきことでした。
17)ユダヤ地方から始まり、ローマ帝国の諸都市においても、最初は、その地のユダヤ人の間に伝わったキリスト教でしたが、やがて、その地に集まっていたユダヤ人以外のさまざまな民族にも広まりました。その際に、キリスト教はどんな民族の人びとも受け入れました。
18)「何にもましてキリスト教は、気まぐれな残虐さと他人の死に喝采する風潮に満ちた世界に、人間性という概念をもたらし」(p.270)ました。
19)教会に人があふれているほど、信者が熱心に讃美歌を歌い祈っているほど、それを見た人びとは、自分はとてもすばらしいところに来ているのだ、という思いを強くする、ということです。
ようするに、神さまは愛の神さまである、という教えと、それに基づいた、信仰者の愛の行動が、神さまを信じる人びとを増やしたのではないでしょうか。
むろん、現代社会の文脈の中で、教えの表現、伝達方法や愛の行動のあり方をじっくり考えなければならないでしょう。
キリスト教発展の歴史分析として、あるいは、現代のキリスト教宣教のヒントとして、適切でないものもあるかもしれませんが、適切なものも多く見受けられるのではないでしょうか。
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キリスト教とローマ帝国 単行本 – 2014/9/19
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購入オプションとあわせ買い
帝国の辺境で生じた新興宗教が、短期間に多くの信徒を獲得し、ローマ帝国を席巻できたのはいったいなぜか。古代史の最大の疑問に対して、アメリカの代表的な宗教社会学者がカルトや新興宗教の消長を分析する際に有効な手法を応用して、その秘密に迫った話題作。初代教会における人々のネットワーク構築への着目はその後の議論にも大きな影響を与えた。1996年の原書はピューリッツァー賞の候補ともなった。待望の邦訳。
- 本の長さ306ページ
- 言語日本語
- 出版社新教出版社
- 発売日2014/9/19
- ISBN-104400227235
- ISBN-13978-4400227236
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商品の説明
著者について
ロドニー・スターク(Rodney Stark)は1934年アメリカ・ノースダコタ州生まれ。UCバークレーで学位を取得。長くワシントン大学とベイラー大学で教鞭をとった。30冊以上の書物を精力的に発表している。学界を代表する宗教社会学者である
登録情報
- 出版社 : 新教出版社 (2014/9/19)
- 発売日 : 2014/9/19
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 306ページ
- ISBN-10 : 4400227235
- ISBN-13 : 978-4400227236
- Amazon 売れ筋ランキング: - 196,117位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 701位キリスト教・ユダヤ教 (本)
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2018年9月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
多神教国のローマが「どのような過程でキリスト教国になったのか」、そして「なぜキリスト教国になったのか」を検証した本です。
著者は、自分が信仰しているキリスト教の優位性をあからさまに出したい欲求を、ぐっとこらえて、できるだけ客観的に書こうとしてる。その姿がほほえましく思えた。そうして、最終章でキリスト教を信じることへの誇らしさを解放させる。歴史への好奇心、論理組み立てのスリル、愛する思いを吐き出す終章のカタルシス、どれをとっても素晴らしい記述になっています。
他宗教へ不寛容な一神教(ユダヤ・キリスト・イスラム教)は、寛容な多神教よりも信者獲得には優位であることをみとめつつ、キリスト教の教え自体にも広がる理由があることを解き明かしていきます。
① 人はもともと多神教を想定しやすい。ただ、それは神々のオペラを観劇するようなもので、神と人との対話は一神教の出現を待たねばならなかった。
② 多神教の神の善悪への振り分けがあって、光と闇の二元論が生まれ、それは「最古の一神教」とも解釈できる。
③「願いを訴えて叶えてもらおうとする宗教」から、「神のまなざしや愛を感受することそのものが幸せなのだという宗教」への跳躍は一神教のとりわけキリスト教がなしえたことだ。
④ 今から2000年前の世界は不潔不衛生病苦にまみれた世界で、その中で結束固く助け合い、抜け駆けするタダ乗り信者を許さない一神教キリスト教は、やさしさだけでなく生存への実利もあったはずだ。
⑤ 上記①~④を、史料不十分かもしれないがと念をおしつつ、過去の研究家が発表した数量データを参考に論理組み立てしていく。
正直言って論理飛躍と思える箇所も何か所かあったが、そこは著者も認めていて、できるだけ冷静に多数の史料を突き合わせてのフォローに努めている。
実は、私は日本神道信者ですが、その私にとって非常に勉強になる本でした。神道を考えていくうえで、その考え方をまなぶことのできる素晴らしい本でした。
著者は、自分が信仰しているキリスト教の優位性をあからさまに出したい欲求を、ぐっとこらえて、できるだけ客観的に書こうとしてる。その姿がほほえましく思えた。そうして、最終章でキリスト教を信じることへの誇らしさを解放させる。歴史への好奇心、論理組み立てのスリル、愛する思いを吐き出す終章のカタルシス、どれをとっても素晴らしい記述になっています。
他宗教へ不寛容な一神教(ユダヤ・キリスト・イスラム教)は、寛容な多神教よりも信者獲得には優位であることをみとめつつ、キリスト教の教え自体にも広がる理由があることを解き明かしていきます。
① 人はもともと多神教を想定しやすい。ただ、それは神々のオペラを観劇するようなもので、神と人との対話は一神教の出現を待たねばならなかった。
② 多神教の神の善悪への振り分けがあって、光と闇の二元論が生まれ、それは「最古の一神教」とも解釈できる。
③「願いを訴えて叶えてもらおうとする宗教」から、「神のまなざしや愛を感受することそのものが幸せなのだという宗教」への跳躍は一神教のとりわけキリスト教がなしえたことだ。
④ 今から2000年前の世界は不潔不衛生病苦にまみれた世界で、その中で結束固く助け合い、抜け駆けするタダ乗り信者を許さない一神教キリスト教は、やさしさだけでなく生存への実利もあったはずだ。
⑤ 上記①~④を、史料不十分かもしれないがと念をおしつつ、過去の研究家が発表した数量データを参考に論理組み立てしていく。
正直言って論理飛躍と思える箇所も何か所かあったが、そこは著者も認めていて、できるだけ冷静に多数の史料を突き合わせてのフォローに努めている。
実は、私は日本神道信者ですが、その私にとって非常に勉強になる本でした。神道を考えていくうえで、その考え方をまなぶことのできる素晴らしい本でした。
2018年12月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
疫病が蔓延し、祈りも医学も全く役立たない世界で、一生懸命キリスト教徒が疫病患者を看護し自らも病を患い殉教していく、、、。当然、看護された人々は生存率が高まり感謝するだろうし、キリスト教に帰依するだろう、、、これこそが、キリスト教拡大の要因である。名もなきキリスト教徒の働きに感動したしだい。これは、歴史書と言うより、信仰を鼓舞する本だ。僕も多くのキリスト教関係の本を読んだが、その中でも飛びぬけて良い本だ。
2014年12月31日に日本でレビュー済み
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英語の原本は、すでに広く読まれていたので、その翻訳として貴重な文献となります。
2021年8月20日に日本でレビュー済み
素晴らしい、興味深い本だか、高価すぎる。せめて2500円ならもっと読者が増えただろうに。残念なことである。
2015年3月7日に日本でレビュー済み
初期キリスト教史の専門家ではない宗教社会学の大家が膨大な二次文献と格闘して著した本書が語る最大のメッセージは、(1)「キリスト教の拡大には社会学的に見て異例な点はない。新興宗教の一般的な拡大パターンそのものである。」ということと、(2)「キリスト教の優れた教義と組織が社会的に病んだローマ帝国の再生に有効な手立てを提供した。」ということ、この二つでしょう。歴史学にとって本書の新味は、統計的手法で示された第一のメッセージのほうなのでしょう。第二のメッセージはそれほど意外感はないと思うので。
しかし、本書の最大の意義は、人間が特定の環境条件の中でどう判断し行動していくはずかをシミュレーションして考えることの大切さを教えてくれていることのような気がする。優れた歴史家の著作では陰に陽にこうしたシミュレーションは行われているし、そのリアリティこそが歴史家の叙述の質を決めているのだと思うが、歴史家個人のセンス任せで理論的な考察を欠いている。人間の社会的行為についての数々の理論的命題を提起してきた社会学からすればその点はどうしても不満になる。
ほとんど全てのデータを現代社会から得ている社会学の理論的命題が全然異質な古代世界に適用できるはずがないと決めてかかる理由はないと社会理論の訓練を受けた自分のような人間は思うし、実際、現代も古代も同様に分析できることを本書は証明していると確信するが、ここはけっして自明な点ではないと思うので、読者一人ひとりが本書を読んで考えてみて欲しいと思う次第。
しかし、本書の最大の意義は、人間が特定の環境条件の中でどう判断し行動していくはずかをシミュレーションして考えることの大切さを教えてくれていることのような気がする。優れた歴史家の著作では陰に陽にこうしたシミュレーションは行われているし、そのリアリティこそが歴史家の叙述の質を決めているのだと思うが、歴史家個人のセンス任せで理論的な考察を欠いている。人間の社会的行為についての数々の理論的命題を提起してきた社会学からすればその点はどうしても不満になる。
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