【AFP】国連(UN)の旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(International Criminal Tribunal for the Former YugoslaviaICTY)の元検察官が最近出版した著書のなかで、コソボ紛争(1998-99)中にコソボ解放軍(Kosovo Liberation ArmyKLA)の指導者らがセルビア人捕虜の臓器売買を行っていたと明らかにし、衝撃が広がっている。

 この本は同法廷の主任検察官を務めたカーラ・デルポンテ(Carla Del Ponte)氏の『The Hunt: Me and War Criminals(追跡:私と戦犯たち、イタリア語原題:La Caccia: Io e i criminali di guerra)』。クロアチア系米国人の米ニューヨーク・タイムズ(New York Times)紙記者、Chuck Sudetic氏との共著で、現在のところイタリアでのみ出版されている。

■約300人から臓器を摘出、海外に販売

 コソボ紛争に触れた「コソボ 1999-2007」の章によれば、コソボ紛争最中の1999年頃、KLAが囚人を拉致しアルバニア内の収容所に身柄を移送。そこで監禁し臓器を摘出していたという。拉致された人の中には女性やセルビア人以外のスラブ系住民もいたとしている。摘出された臓器はアルバニアの首都ティラナ(Tirana)の空港から海外の民間医院に輸送され、料金を支払った患者に移植された。

 腎臓などを摘出された捕虜らは、再び収容所などに戻されて殺害され、他の致命的な臓器を摘出されたという。こうして約300人が犠牲になったとみられる。

  2003年にICTYが現場を調査した際、「血痕(中略)注射器、外科手術に用いられた薬品の空き瓶」を発見したが、「残念ながら証拠としては不十分」だったという。

 デルポンテ氏は、KLAの中堅からトップレベルの幹部はセルビア人捕虜の臓器売買についてよく知っており、積極的に関与していたとみられるとしている。コソボの首相を務めた元KLA指導者には、ハシム・サチ(Hashim Thaci)現首相やアギム・チェク(Agim Ceku)前首相、「民族浄化」の罪に問われたものの旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷で3日に無罪を言い渡されたラムシュ・ハラディナイ(Ramush Haradinaj)元首相がいる。

■公判は公正だったのか

 デルポンテ氏はKLAによる犯罪の「目撃者に対する暴力」に繰り返し遺憾の意を表している。3日のハラディナイ氏の判決公判でも、裁判長は公判が、目撃者が身の安全を感じられるような雰囲気で行われなかったことを認めた。

 セルビアのボリス・タディッチ(Boris Tadic)大統領は、判決の直後デルポンテ氏の後任であるセルジュ・ブランメルツ(Serge Brammertz)氏を呼び、入手した同書の抜粋を手に、「ハラディナイの裁判で目撃者は証言することを恐れ、証言しないよう殺されたものもいると、カーラ・デルポンテは書いている」と延べ、ICTYの決定に抗議した。

 同書は、臓器売買の事実の情報源については明確にしておらず、「国連コソボ暫定行政ミッション(UNMIK)関係者」および「信頼できるジャーナリストたち」とのみ記している。

 スイス人弁護士のデルポンテ氏は、 2007年末の任期満了までの8年間、オランダ・ハーグ(Hague)の旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷で主任検察官を務めた。

 アルバニア人が多数を占めるコソボは2月にセルビアからの独立を宣言し、米国や欧州連合(EU)の多くの国から承認されている。(c)AFP