自由になんでもできるのが会社だった──トランペッター、大山渉

昨年惜しまれつつも解散したPE'Zのトランペッター、大山渉が満を持してつくったのは、バンド兼レーベルの機能を備えた会社だった!? 役員、社員はバンドメンバーとバンドスタッフ。やりたいことをやるために会社をつくった大山の考えること。6/10に発売された『WIRED』VOL.23「Good Company」特集より、BimBomBam楽団長の「会社論」を掲載。
自由になんでもできるのが会社だった──トランペッター、大山渉
PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

WATARU OHYAMA|大山渉
1975年茅ヶ崎生まれ。99年に「PE’Z」を結成し、16年間活動したのちに「BimBomBam楽団」を立ち上げる。同じくトランペッターの小林洋介と2人でバンド「TrumpetFactory」としても活動。また、小・中学生向けにトランペットを教える教室の主宰も務める。


ビジネスとミッションは両立できる! VOL.23「いい会社」 特集

「未来の会社」は、ちゃんと稼いで、ちゃんと社会の役に立つ! これからの会社が手にすべき「新しい存在理由」を解明する特集。ビジネスデザイナー・濱口秀司をはじめ、Beats by Dr.Dreプレジデントや新井和宏(鎌倉投信)、椎野秀聰(ベスタクス創業者)らが、これからの会社のあるべきかたちを指し示す。世界で広まりつつある「B-Corp」のムーヴメントや、シャオミ総帥の語る「エコシステム」哲学、Android OSを生んだ男が目指す新たなビジネスを育むプラットフォームづくりを追う。


PE’Zのときからクラウドファンディングやファンクラブ限定ライヴなど、やりたいことをやってきました。ただ音楽活動をするうえで、不自由さを感じてもいました。どうしてもしがらみがあってできないことがある。もともと自由に音楽がやりたくて、バンドを組んだはずなのに、どうしてできないことがあるんだろう?という疑問はずっとあったんです。

PE’Zが解散する少し前、次にやることとして思いついたのが、「おいしい食事と一緒に音楽を届けたい」というコンセプトでした。音楽を忘れちゃうくらいご飯がうまい店で、生の音で音楽が聴けたら最高だなと。その後、ご飯を出しながら演奏ができるような場所を探しているうちに、レストランを自分で経営した方がいいという結論にたどり着きました。そうすると会社をつくるしかないということに気づいて、経営入門書を読んで会社をつくったという流れです。

会社をつくってみて、メリットしかないと感じています。やりたいことをしがらみなくやれるだけではなくて、例えばレコード会社と取引をするときなどの実務的な場面でも、個人と法人だと話の進み方がまったく違うことが多いからです。


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ただ、会社を立ち上げてみて、社長とミュージシャンは違う考え方をする必要があることがわかりました。もともと自分は、音楽をつくるのにマーケティングなんて必要ないと思っていたんです。いい音楽は誰にとってもいいはずなのに、「若者に向けた音楽」なんてバカらしくないですか?

ただ、社長になって経営者として引いた目線でも考えないといけないので、毎日まったく違う経営と音楽づくりを行き来しています。例えばライヴのチケットの値段を考えるなど、悩ましいことも多い。

いま「BimBomBam楽団」は音楽を聴きながら、ご飯を食べられる場所でライヴをやっていますが、これをできる会場はまだ限られています。だから旅行会社と一緒に、松阪牛を食べながら音楽が聴けて、移動のバスではメンバーが演奏しているような旅のプランをつくりました。音楽関係の旅行となると、アーティスト本人と会えることが売りになる場合が多いですが、旅行のなかでいかに音楽を楽しんでもらえるかだけを考えた企画でした。

今年の2月に行われたBimBomBam楽団のツアーの様子。食事を楽しみながら音楽を感じる至福の光景が記録されている。

もともと音楽制作にまつわるすべての関係者が1つの会社に所属すればいいと思っていました。例えば音源をつくるのに必要なサウンドエンジニアやデザイナー、グッズをつくれるアーティストといった、音楽のプレイヤー以外のつくり手が同じ場所にいた方がいいだろうと。だから、会社組織にいるのはバンド関係者のみという現在の状態は、まだ始まりでしかないです。

法人名とした「衣食住音」には、衣食住に限らず音楽に関係するすべてのものがここにあってほしいという思いがあります。不動産業を始めるつもりはありませんが、レストランはもちろんファッションもつくれるようにしていきたいです。フェスを自分の会社だけでつくり上げることができるのが理想です。

別に借金があるわけでもないので、何もしなければこの会社は潰れることはありません。ただ、この会社はバンドです。何もしないとバンドは忘れられてしまう。だから、バンドを続けるために会社をやっているともいえます。最初に音楽を始めたときのように、自由に何でもできる場所を求めてたどり着いたのが会社だっただけなんです。

BIMBOMBAM GAKUDAN|BimBomBam楽団
「食事と人と音楽が溶け合う空間」というコンセプトのもと、2014年に結成されたバンド。トランペッターの大山渉と、ジャズマヌーシュの第一人者である手島大輔を中心に、ヴァイオリニストのTajimi “M.J” Tomotaka、ベースのヤマトヤスオ、パーカッションの奥田真広がメンバー。全員が「株式会社衣食住音」の役員および社員。この会社は現在はレーベル運営と、バンドの音楽活動をバックアップする業務を行っている。最新アルバム『GYPSIYM』は2016年6月15日発売。

PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

TEXT BY WIRED.jp_Y