社説:サッカーとバナナ 人種差別を根絶しよう

毎日新聞 2014年08月26日 02時30分

 バナナが悪いわけではない。バナナが人種差別の象徴的記号となってしまっていることを私たちは知らなければならない。そして、あらゆる差別をスタジアムと社会から根絶しなければならない。

 横浜市で23日に行われたサッカーJ1の横浜F・マリノス−川崎フロンターレ戦で、横浜マの10代後半の男性サポーターがピッチに向けてバナナを振る行為があった。川崎のブラジル出身の選手が相手ゴールに攻め込んだが得点できず、引き揚げようとした時、ゴール裏のスタンドにいた男性がバナナを振った。

 横浜マの事情聴取に対し、男性は「挑発行為はしたが、特定の選手に向けたものではない」と説明したという。この言葉には、国際サッカー連盟(FIFA)や欧州サッカー連盟(UEFA)、各国リーグが根絶に取り組んでいる差別に対する意識の希薄さが表れている。

 バナナをピッチに投げ入れるなどの行為は「お前はサルだ」という意味で、人種差別の常とう手段だ。欧州では1970年代以降、アフリカ生まれの黒人選手らがプレーするようになり、バナナによる差別行為が頻発した。多民族化、多人種化が引き起こした負の側面と言えよう。

 スペインリーグでは4月、バルセロナに所属するブラジル代表の選手がコーナーキックを蹴ろうとした時、足元にスタンドからバナナが投げ込まれた。その選手はバナナを拾って皮をむき、食べた後、何事もなかったかのようにボールを蹴った。

 差別に対してユーモアを交えた行動で応じたこの行為は世界中の共感を呼び、選手だけでなく、イタリアの首相もバナナの皮をむいて写真に納まり、フェイスブックなどで発信した。だが、残念ながら欧州では同様の行為が絶えない。

 Jリーグでは3月、浦和のサポーターによって人種差別横断幕「JAPANESE ONLY(日本人以外お断り)」が埼玉スタジアムに掲げられ、浦和に史上初の無観客試合が科された。観客から指摘を受けながら、クラブ側が試合終了まで放置したことも問題だった。

 この反省と教訓が今回、横浜マの素早い対応につながったと言えるだろう。その日のうちに男性に対し無期限の入場禁止処分を下すことを決め、週明けの25日には社長がJリーグに出向き、村井満チェアマンに「差別的挑発行為」と報告した。Jリーグは早期に制裁を科す方針だ。

 スタジアムと社会はつながっている。差別は絶対に許さないというメッセージを社会に発信する契機ととらえ、JリーグはFIFAなどにならい、「ノートレランス(非寛容)」の精神で臨むべきだろう。

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