当研究室では果樹を研究対象にして、果実生産に関わる基本的な問題について研究を進めています。また、果樹育種の効率化をキーワードに実用的な研究も進めています。現在の研究テーマは以下の通りです。


1)カキの甘渋性判別のための分子マーカーの探索と甘渋性制御機構の解明

 交雑育種によって優良な甘柿を作出する努力が農業技術研究機構果樹研究所で進められています。本研究室では農業技術研究機構果樹研究所と共同で、播種後1年で甘渋性を判別するための分子マーカーの探索を行っています。これまでに、早期選抜に利用できる2つの分子マーカーを開発しました。現在、このマーカーを利用して,甘渋性制御機構の解明を目指して実験を行っています。また、日本の甘柿とは異なる脱渋機構をもつ中国の甘柿について、その脱渋制御機構を解明するための研究を行っています。

※イメージをクリックすると拡大写真と説明が表示されます。

完全甘ガキ

非完全甘ガキ



2)バラ科果樹の配偶体型自家不和合性の分子機構の解明

 オウトウやアーモンド、ナシやリンゴなどのバラ科果樹には自己花粉あるいは同じ不和合性の遺伝子型を持つ品種の花粉を受粉しても受精できない自家不和合性という現象があります。本研究室では、国内および欧米の研究者と共同し、この現象の解明に取り組んでいます。これまでにバラ科サクラ属果樹類の自家不和合性雌ずい側因子であるS-RNaseと花粉側候補因子であるSFB (S haplotype-specific F-box protein gene)を同定しました。現在、生化学的な手法や突然変異系統の解析を行うことで、自己非自己認識の分子機構の解明を試みています。

※イメージをクリックすると拡大写真と説明が表示されます。

不和合(花柱上部)

和合(花柱上部)

不和合(花柱基部)

和合(花柱基部)



3)カキ属植物の収集・分類

 わが国で古くから栽培されているカキの起源については現在までほとんど明らかにされていません。カキ属(Diospyros)には400種以上の種が存在しますが、そのほとんどは熱帯・亜熱帯地域に分布しています.本研究室では、タイ王国カセサート大学と共同で、タイに分布している60種のカキ属植物を収集し、これらのカキ属植物と温帯地域に分布するカキ属植物との分類学的な関係を検討しています。
※イメージをクリックすると拡大写真と説明が表示されます。




4)果樹類の組織培養技術の開発

 播種から開花結実まで長期間を要する果樹の育種には、長い年月と多大な労力が必要です。本研究室では組織培養技術を利用して果樹育種の効率化をはかるための研究を行っています。これまでにカキやバラ科果樹類を対象に、胚培養やプロトプラスト培養を利用した倍数性育種、アグロバクテリウム法による形質転換系などを検討し、多くの成果を得ています。また、最近、熱帯果樹類の組織培養法の開発もはじめました。

※イメージをクリックすると拡大写真と説明が表示されます。



5)バラ科果樹類の花芽形成と花序形態を支配する分子機構の解明

 バラ科は、多くの園芸作物が属する園芸学上きわめて重要な科です。バラ科内の変異は大きく、科内がさらにサクラ亜科、ナシ亜科、バラ亜科、シモツケ亜科の4亜科に分類されています。これらの4亜科のうち、バラ科に属する果樹類の多くはサクラ亜科とナシ亜科に属し、前者にはオウトウ類やモモ、スモモなどの核果類が、また後者にはリンゴナシあるいはマルメロやカリンなどの仁果類が属しています。これらの果樹の花序形態や結果習性は多様性に富んでいます。本研究室では、これらバラ科果樹の花芽形成と花序形成の分子機構を解明し、開花や花数の人為制御法の開発に応用するために、花芽や花序形成に関与する遺伝子の解析をおこなっています。

※イメージをクリックすると拡大写真と説明が表示されます。

ニホンナシ

セイヨウナシ

ビワ

リンゴ

マルメロ

カリン



6)熱帯果樹類の分類および生殖生理学

 タイやマレーシア、インドネシアなど東南アジアの研究者と共同して、熱帯の有用果樹遺伝資源を収集、保存するとともに、分子遺伝学的な手法を用いて、これら有用熱帯果樹の分類を再検討しています。また、熱帯果樹の中でも重要な位置を占めるマンゴー・ドリアン・マンゴスチンを材料に、熱帯果樹に特有な受粉や受精の仕組みを解明するための研究も実施しています。

※イメージをクリックすると拡大写真と説明が表示されます。

マンゴスチンの花

マンゴスチンの実

ドリアンの花

ドリアンの実



7)カキの倍数性育種

 食用に栽培されているカキのほとんど全ての品種は2n = 90の6倍体ですが,平核無や宮崎無核など一部の種なしの品種は2n = 135の9倍体であることが知られています。しかしながら,これら種なしの品種は全て渋柿であり、甘柿の種なし品種は存在しません。本研究室では、非還元配偶子(非還元花粉や非還元卵)を利用して、9倍体の完全甘柿の種なし品種の育成を行っています。

※イメージをクリックすると拡大写真と説明が表示されます。




8)in situ hybridizationによる果樹の染色体解析

 染色体は細胞周期の分裂期に構築される核ゲノムの可視的構造です。本研究室では、ラベルしたDNA断片と染色体標本上の染色体DNAの分子雑種を形成させて染色体を解析する手法(in situ hybridization)を利用して、カキやサクラ属果樹類の種間の類縁関係を検討しています。また、主要形質や連鎖地図上の遺伝子マーカーの染色体上での座乗位置も調査しています。

※イメージをクリックすると拡大写真と説明が表示されます。




9)マイクロマニピュレータを用いた果実細胞肥大の制御要因の解析

 水は溶質濃度の低い細胞外から高い細胞内に向かって流れ込もうとしますが、弾性のある細胞壁によって吸水は制限されています。つまり、これらの力のバランスによって細胞の大きさが保たれています。このため、酵素の働きなどで細胞壁がゆるんだり、溶質の蓄積によって細胞内浸透圧が高まると細胞が肥大します。本研究室では、果実細胞肥大の制御要因や果実への糖蓄積機構を明らかにするために、マイクロマニピュレータを用いて、単一の果肉柔細胞の細胞液や液胞液の糖や有機酸、無機イオンなどの分析を行っています。

※イメージをクリックすると拡大写真と説明が表示されます。






TOP▲


Copyright (C) 2003 Laboratory of Pomology. All rights Reserved.