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日常化する「ネットいじめ」 匿名の闇に泣く子ども

 ◇勝手に電話番号を公開/「死ね死ね」メール数十通/着替える写真ばらまき

 掲示板への中傷書き込みや悪口メールなどのネットいじめが、子どもの間で日常化している。手段は年々巧妙化し、知人の女子中学生になりすまして援助交際を呼びかけたり、友達の写真をこっそり携帯電話で撮影して中傷メールに添付してばらまくケースも。加害者を突き止めることは難しく、被害を受けた子どもたちは匿名性の高いネットの闇に泣いている。【山本紀子】

 ある女子高校生は、知らない男から携帯電話や自宅に頻繁に電話がかかるようになった。わいせつな言葉を言われ、父親が出ると切れる。チャイムが鳴るのでインターホンをのぞくと、男が立っていることも。誰かが勝手にプロフィルサイトを作り、写真や自宅の住所、電話番号が無断公開されていることが友人の通報で分かった。ストーカーまがいの行為をする男は複数に上った。

 誰の仕業か見当がつかなかった。サイトの運営者に連絡し問題のプロフを削除したが、いやがらせはやまない。警察に訴えても「具体的な被害がない」と捜査してくれなかった。

 ネットや電話でいじめ相談を受け付ける「全国webカウンセリング協議会」(東京都中央区)のアドバイスで自宅と携帯の電話番号を変え、女子生徒も自宅を離れ別宅に避難し、ようやく被害が止まったという。

 協議会の安川雅史理事長は、「誰でも他人になりすますことができ、匿名で中傷できるのがネットの恐ろしさ。相手が分からないと怖さが増し、誰も信じられなくなる」と話す。

 協議会には、ネットが絡んだいじめ相談が1カ月に100件近くある。「死ね死ね」と書いたメールが1日に数十通届くとのケースも少なくない。無料のメールアドレスを大量に取得して時間差をつけて送りつけ、クラス中の皆から嫌われていると思い込ませる手段だという。また、部活の着替え中の写真を撮影し、中傷メールに添付して学校中にばらまく被害も報告されている。

 東京都内の通信制高校に通う男子生徒(16)は、中学3年生の時、学校仲間の悪口を言う掲示板で「あいつ生意気じゃない?」と書き込まれた。書き手はもちろん匿名。どきっとして「いいヤツだよ」と同じく匿名で、第三者を装い反論した。それからその掲示板が気になり、毎日見るようになった。

 また、突然、携帯電話に知らない人から電話がかかるようになった。不良グループのような男子生徒から「これから出てこい」などと誘われることも。電話は1日10本近くあり、見覚えのない電話番号や番号非通知の電話には出ないようにして、最後は電話番号を変えた。

 調べると、中高生向けの掲示板に、自分の名前や電話番号が公開されていた。誰の仕業かわからなかったが、最近トラブルがあった友人の一人が「犯人だろう」と推測し、その子の名前や電話番号を同じ掲示板で勝手に公開してしまった。

 この男子生徒は、「相手にどんな被害があったかわからないが、深く考えずにやってしまった。けんか友達からメールで『死ね』『キモイ』と書かれ、同じ言葉をメールで返したこともある」と話す。

 ネットいじめのまん延は、有害情報のアクセスを制限するソフト開発会社「ネットスター」(東京都渋谷区)の調査でも裏付けられている。同社が中学生500人を対象に聞いたところ、ネットで知り合いから中傷・いたずらされたことが「ある」と答えた子は9・1%で、ネットいじめを身近で見聞きしたことがある子は42・1%に上った。

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 ◇ジャングルで放し飼い状態--下田博次・群馬大大学院教授

 中高生の携帯電話利用の問題に詳しく、ネットでの危機回避法を教える「ねちずん村」を主宰する群馬大大学院の下田博次教授に、ネットをめぐる現状と保護者の役割について尋ねた。

      ◆

 ネット絡みのいじめについて最初に相談を受けたのは7年前。女子生徒が仲間から「学校に来るな」との携帯メールを受け、無視したらカッターナイフの入った封筒が郵送されてきたと訴えた。

 カメラ付き携帯による「写真付きメール」や、掲示板の普及で手口は悪質化している。自己紹介サイト「プロフ」でも「なりすましいじめ」が絶えず、ある女子中学生は勝手に写真を掲載され「エッチしたい」と偽メッセージを書き込まれた。

 生徒が運営する「学校裏サイト」での中傷、わいせつ画像の流出も目につく。交際中の男女生徒が互いの裸を携帯電話で撮影し、ネットに流す。「顔さえ見えなければ」との軽いノリで、わいせつ物頒布罪に当たると分かっていない。

 違法な薬物や凶器も手に入り、自殺ほう助サイトや売春サイトにもつながる。子どもはネットジャングルで放し飼いになり、食うか食われるかの危険にさらされている。

 保護者は、携帯電話を持たせれば連絡がとれ安心と考えがちだが、実際は逆だ。子どもを守るため、群馬県では行政と市民が協力し、インストラクター養成や講演活動をしている。ネットの特性を理解する親を育て、地域ぐるみで子どもを見守る必要がある。

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 ■ネットいじめの実例■

99年11月 同級生から金を要求するメールを受けた千葉県内の私立男子高生が、遺書を残し自殺

02年 4月 愛知県の女子中学生が、裸の写真を携帯電話のカメラで先輩に撮影され仲間に電子メールで送られる

06年 3月 兵庫県立高の男子生徒3人が、仲間に携帯電話で中傷メールを送ったり、暴行したりして書類送検される

   10月 ブログに中傷を書き込まれた山梨県内の女子高生が、精神安定剤を飲み自殺未遂

   11月 奈良県内の公立中で、携帯電話のメールで仲間を中傷した男子生徒2人が補導される

07年 3月 奈良県内の公立中の男子生徒2人が、女子生徒に500通以上の嫌がらせメールを送り、書類送検される

    6月 男子高校生がけられる動画がネットに流出。いじめ加害者として現場を撮影したさいたま市の私立高校生を、学校が厳重注意

       栃木県内の市立女子中学生が体操着をまくりあげられた上半身を携帯電話のカメラで撮影され、画像を同級生34人にメールで送られる

毎日新聞 2007年9月3日 東京朝刊

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