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【社会】

東京中央郵便局 日本独自のシンプルデザイン 民営化で解体危機

2007年9月3日 朝刊

保存を求める声が高まっている東京中央郵便局=東京都千代田区丸の内で

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 十月一日の郵政民営化で、解体の危機にあるJR東京駅前のランドマークの一つ、東京中央郵便局の庁舎保存を求める声が高まってきた。庁舎は昭和初期の名建築として知られ、以前から研究者らから保存の要望が相次いでいた。所有する日本郵政公社は、再開発計画を進めていたが、超党派の国会議員による重要文化財指定を求める運動も活発化。公社側も、有識者による委員会をつくり、その活用法について論議を始めた。利潤追求と公益性のはざまで、保存問題は、民営化をめぐるテーマの一つにも浮上してきた。 (浅田晃弘)

 郵政民営化では、これまで制限されていた庁舎の賃貸業務が解禁となる。このため、民営化の準備企画会社・日本郵政は、四月に発表した業務実施計画に「(全国の)中央郵便局を、収益力の高い物件として開発する」ことを盛り込んだ。

 日本郵政によると、内部では、東京中央郵便局の局舎を地上三十七階、地下四階建ての高層ビルに建て替える案も検討しているという。再開発を請け負う設計者も、「設計プランは白紙のまま」(日本郵政)八月に入り早々と決定した。

 庁舎は、古いビルが次々と姿を消したJR東京駅前に立つ。新たな人気スポットとして建て替わった丸の内ビルや新丸の内ビルなどがひしめく周辺では貴重な戦前の建物。パリが本部の近代建築の国際保存団体「DOCOMOMO(ドコモモ)」日本支部と、日本建築学会、日本建築家協会の三団体からは、一昨年から複数回にわたり公社に保存要望書が出ている。しかし、再開発の動きを止めるには至っていない。

 これに待ったをかけたのが河村たかし氏(民主)ら与野党議員二十人以上が名を連ねる勉強会。六月の結成後、郵政公社の西川善文総裁に重要文化財指定を訴え、頻繁に学習会を開いている。

 八月上旬の学習会では、東京都からもヒアリング。「都でも、保存のためできることはないのか」との河村氏の質問に、都の担当者は「仕組みは用意している」と答えた。都には歴史建造物を保存するため、未利用の容積率を転売できる「特例容積率適用地区」の制度がある。東京駅の駅舎保存で使われた手法で、土地の資産活用を図りながら庁舎保存は可能との認識を示した。

 有識者委は、年内にも「全面保存」「部分保存」「建て替え」の三案から、活用について結論を出す。文化庁建造物担当は「庁舎は重文級の価値はあるが、指定には所有者の同意が必要」と、議論を見守る姿勢だ。

 <メモ>東京中央郵便局 旧逓信省営繕課の吉田鉄郎氏の設計で1931(昭和6)年に完成。鉄骨鉄筋コンクリート造りの地上5階、地下1階建て。西洋の様式建築の模倣でない独自のデザインは、海外からも評価され、来日した世界的建築家ブルーノ・タウト氏も絶賛した。必要以上に装飾のないシンプルなデザインは近代オフィスビルの発祥とされ、全国の官庁建築にも大きな影響を与えた。

 

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