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「日本のドラマは論外」 希薄なテレビ業界の意識

安易な企画とタレント頼み、文化の違い──フォーマット販売で健闘している部分もあるが、国内向けテレビ番組のコンテンツ力は世界市場では疑問符。しかも、業界は海外進出の必要性をまだ感じていない。
2007年03月16日 16時31分 更新

台湾で人気のフジドラマ

 「空姐特訓班」──台湾の日本のテレビ番組専門チャンネル「ビデオランド」では現在、昨年4月に放送された「アテンションプリーズ」(フジテレビ系)が放送されている。アジア圏の中で、日本のテレビ局は例外的に規模が大きく、制作する番組の質も高い。

 親日国として知られる台湾には現在、日本のテレビ番組専門チャンネルが3つもある。中でもフジのドラマの人気は若者を中心に高く、毎週月−金曜の午後9時から「富士哈日劇」というフジドラマのレギュラー枠が設置されているほどだ。

 フジはアジアへの番組販売では圧倒的な強さを誇る。販売先の45%が台湾で、中国、シンガポールなど中華圏を合計すると全体の8割近くになっている。

 フジ国際局の田信揆部長は「日本では、ドラマは週1回、3カ月かけて放送するが、アジアでは毎日放送するのが基本なので、2週間で終わってしまう。ソフトが大量に必要なので『新しいドラマなら全部くれ』と言ってくるところも多い」と話す。

 韓国ドラマの席巻がうわさされたが「あちらは視聴者の年齢層が高く、スポンサーはやはり若い層に人気がある日本のドラマを好んでいる。2002〜03年ごろには韓国ドラマに勢いがあったが、最近は収束気味だ」と田部長は分析している。

photo 「テレビ番組の振興はコンテンツ政策の中心テーマ」と語る慶応大学の中村伊知哉教授

 ドラマ人気で、観光振興に結びついた韓国の成功例に力を得て、経済産業省の「コンテンツグローバル戦略研究会」では、映画、アニメ、ゲーム、音楽、マンガ、キャラクターと並んで、テレビ番組を世界に売り出すべきコンテンツとして挙げている。

 慶応大学教授の中村伊知哉氏は「テレビ番組は日本の映像コンテンツの大半を占めており、その振興はコンテンツ政策の中心テーマだ」と断言する。

 テレビの広告市場が巨大とはいえ、インターネット広告に浸食される危機にさらされているのは事実だ。また、最新の家庭用ゲーム機はインターネットにも接続できる。中村教授は、子供たちがゲーム機で米国の動画投稿サイト「YouTube」に接続し、違法投稿された日本のテレビ番組を見ている──という例を挙げ、「こんな状態では、広告主はテレビではなくネットに広告を出した方がよくなる。放送電波というインフラの役割は縮小しつつある。テレビ局自身がコンテンツを多面展開するビジネスを進め、商機を増やすべき」と指摘する。

 日本のテレビ局の番組制作能力は高く、「米国よりももっと多面的なビジネスができるはずだ」と期待するが、一方で番組内容をめぐる不祥事が続いたり、アイドルやお笑いタレントの人気に頼る安易な番組づくりが横行していることを憂慮し、「テレビの魅力は弱まっている。今こそコンテンツの力が問われている」と訴え、海外市場を開拓する過程で、質の向上を目指すべきと提言する。

日本のドラマは論外とデーブ・スペクター氏

 台湾で大人気の日本のテレビドラマだが、海外のテレビ番組に詳しい放送プロデューサーのデーブ・スペクター氏は、米国に比べると「日本のドラマは論外。演技も良くないし、ストーリーに工夫がない。アクションも白々しい。ドラマの質や現実感とは関係なく人気モデルなどを起用し、力のある芸能プロが売り込む俳優やタレントを使わざるを得ない業界構造がある。それでは本当にいいドラマは作れない」と手厳しい。

 国際競争力があるテレビコンテンツの例として、米ドラマ「24」や「プリズン・ブレイク」「ザ・ホワイトハウス(原題ザ・ウエストウイング)」「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」、オーディション番組「アメリカン・アイドル」などを挙げ、「リストアップに限りがない」と秀作の多さを示す。

 「米ドラマは制作に潤沢な予算と時間をかけている。地上波放送やDVD化など先々の展開を考え、最高の脚本家とキャストを集め、完成度の高いドラマを作っている。当然おもしろくなるし、世界中で売れる」

 日本のテレビ番組が海外で通用するには何が必要か。

 スペクター氏は「海外進出という考え方に無理がある」という。「日本に興味ある人を除けば、欧米人は苦労して字幕を見たがらない。1時間も日本人キャストを見続けるのはつらい。メキシコや南米の昼ドラマは現地で人気だが、米国ではスペイン語のできる人しか見ないのと同じ」と言葉の壁を指摘する。

 「アジアの中ではドラマの完成度が高いので、アジア向けに絞る手もある。いちばん売れそうなのはクイズ番組のアイデアだが、日本の文化を積極的に海外に売り込む必要はない。ましてネット時代だし、王道を歩めばいい。本当にいいものであれば口コミで伝わり、日本語バージョンを見るなど関心ある人は積極的にアプローチしてくる」

日本臭があると売れない

photo 国内最強のコンテンツ制作集団の吉本興業。「コンテンツ力には自信がある」と語る中井秀範・権利開発センター長

 無論、日本もテレビ番組の2次利用を進めている。1950年代後半までのハリウッドのように、タレントマネジメント、番組制作、配給を一社で抱える吉本興業は国内最強のコンテンツ制作集団のひとつだ。

 ネットコンテンツを手がける東京電力との合弁事業キャスティの社長も兼任する吉本興業のデジタルコンテンツの総括責任者、中井秀範・権利開発センター長は「テレビ放映した番組を収録した1枚3800円のDVDが36万枚も売れる。そういうものを作っているという自負がある」とコンテンツ力に自信を示す。

 番組の2次利用だけではなく、キャラクター商品などにも裾野を広げる。

 「うちは芸人さんを抱え、制作機能を持ってますから著作権処理が簡単、コンテンツビジネスを広く展開しやすい」という。商品販売を左右するのは番組のおもしろさで、コンテンツ力を重視する。

 しかし、海外展開となると質の前に、言語や人種などの問題が立ちふさがる。

 NHKの番組販売を手がける国際メディア・コーポレーション海外販売部の今村研一担当部長は、「NHK臭、もっといえば、日本臭がしないものでないと売れない。たとえば日本人のアナウンサーが出てきた時点で、もう、売れなくなってしまう」と訴える。

 海外の番組を買う場合でも似た状況は起こる。「あるコンテンツマーケットで、マルコポーロを描いた番組に目をつけたが、マルコポーロが謁見した中国の皇帝を演じていたのが白人だった。そのとたん、ああダメだ、となった」

 今村担当部長は「売れるのは自然ものや紀行もの、日本の料理、秋葉原などの先端の街を描いたもの。相撲もストレートなスポーツとしては売れず、文化的な描き方をしたもの。あとは、たとえばインドネシアの災害の時には地震対策の番組などが売れた。ただし、ドキュメンタリーはほとんどの場合買い手がつかない」という。

 また、ドキュメンタリーは買い手がついてもビジネス的にはなりたたない。

 「仮にNHKスペシャルを1本、5000万円かけて作ったとして、できた50分のものを海外に売りに行くと、よくて100万〜200万円になってしまう。アジアに行くと数百ドルということもある。要するに儲からない。そうしたコンテンツを政府主導でドーッと売れるかどうか」

 もちろん、言葉の壁も大きい。「販売するときには、英語の見本版を作らなければならない。それだけで、1本100万や200万円はすぐにかかってしまうが、英語をつけたからって、売れるものではない」

フォーマット販売が威力

photo TBSで放送されていた参加型番組「しあわせ家族計画」チェコ版。欧州やアジアなどにフォーマット販売された

 ドラマの場合も売り込みは難しい。NHK編成局ソフト開発センターの楢島文男統括担当部長は「中国ではなかなか放送してもらえないし、韓国も難しい。タイや台湾はよく売れていたが、近年、台湾もおもしろいものを作ってレベルが上がってきてからは売りにくくなってきた。もちろん欧米は全然だめだ。日本人が出ているドラマを見ようと思わない」

 しかも、海外では本数を要求されることもネックだという。「最近のNHKドラマは6回シリーズ。民放でも連続ドラマは13本くらい。それでも毎日放送する国では2週間で終わってしまう。圧倒的に本数が足りない」

 特殊事情もある。「量なら大河ドラマと朝の連続テレビ小説だが、ドラマのなかに戦争が描かれると、アジアではとたんに売れなくなる」と説明する。

 そういう意味で、NHK最強の国際コンテンツは「おしん」だった。アジアや中東、南米では強さを見せ、当初は外務省の外郭団体を通じて無償提供されていたものが、いまも売れ続けている。

 「貧しい暮らしのなかでおしんが成長していく物語を、広く観てもらえた。当時の貧しい国に日本も仲間としてみてもらえた部分もある。そういう点では『おしん』の国際貢献度はすごい。ただ、そこまでのドラマは『おしん』だけだ」

 文化や人種に対する反発を解決する販売手法が、番組のアイデアやノウハウを売るフォーマット販売だ。TBSはこの分野で欧米への番組販売に強み見せる。

 事業本部コンテンツ事業局の杉山真喜人部次長は「アニメ以外の実写ものは、アジア以外ではなかなか売れないのが現状」という。どれほど面白い番組でも、映像的に強い違和感を覚えるからだ。そこで枠組みだけを売り、現地で作り直す「フォーマット販売」方式が採用されることとなった。

 同社では1988年に「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」の「おもしろビデオコーナー」フォーマットを米ABCに販売。現在も続く長寿番組として人気を呼んでいる。

 このほか、「しあわせ家族計画」や「未来日記」「わくわく動物ランド」などさまざまな番組のフォーマットを約100カ国に販売。その内訳は北米25%、欧州20%、中国・韓国など東アジア25%となっている。

 「タレントの力に頼る番組は、そのタレントを知らない海外では通用しにくい。TBSは伝統的にアイデアや企画で勝負するソフトが多かったので、フォーマット化しやすかった」と杉山次長は話す。

 フォーマット販売では、最初の企画会議からの流れや人員配置など、ありとあらゆるノウハウを書いた「バイブル」を作成する必要があるなど、制作現場への負担が大きい。

 しかし、米版「おもしろビデオコーナー」への投稿ビデオが「さんまのスーパーからくりテレビ」で使われたり、海外のテレビ局が加えたアレンジから番組のリニューアルへのヒントが得られたり、とメリットも大きいことに制作サイドが気づき、協力が得やすくなっているという。

 「カンヌの国際テレビ番組見本市などを見ると、日本の番組の方が明らかに手間とアイデアを投入している。これまで流通していた欧米流のテレビ番組にあきている国から、強い関心をもたれており、将来性は非常にあるビジネスだ」と杉山次長は話す。

希薄なテレビ業界の意識

 政府の期待に反して、海外展開に対するテレビ業界の意欲は低い。「日本には6兆円という巨大な広告市場があり、国内で十分すぎるほどの利益を上げられる。広告市場が50億ドル程度の韓国と違い、海外市場に向かう必要性がさほどない」(業界関係者)ことが理由だ。

 事実、フジの海外番組販売の売り上げは、全売り上げおよそ4000億円のわずか0・5%程度に過ぎない。フジでは「メディアの増加や広告費の頭打ちなどで、われわれも海外に出て行かざるを得ないのは確か。しかし、現状でこの規模の事業に、全社を挙げて取り組むのは難しい」と時期尚早の認識を示す。

 また、TBSは「政府にバックアップをしてもらうのはありがたいが、番組販売は権利ビジネスで、工業製品を売るのとは意味合いが違うことをもっと理解してほしい」と政府と業界の調整の必要性を語る。

 NHKでは「テレビ番組は地域と文化を反映しています。とりわけドキュメンタリーなどでは日本と海外では興味の持ち方、番組の作り方が違います。それを知財の枠組みでまとめて『日本船団』として見本市などに持って行って売ります、と言われても…」と困惑を隠さない。

 テレビ局が抱えるコンテンツを“宝の山”とみて買収に乗り出したネット企業もあったが、世界市場を考えたとき、国内向けに作ったテレビ番組のコンテンツ力には疑問符がついている。しかも、業界は海外進出の必要性をまだ、感じていない。マンガ、アニメ、ゲームなどの他のコンテンツにも増して課題が多い。

[産経新聞]

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