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弱点つかれた坂の町 呉市


'01/3/28

 地震の直撃を受けた広島県内の市町村で、家屋損壊が二千六百棟 を超えて最も多かった呉市。被害は、すり鉢状の斜面にに密集する 木造住宅に目立った。入り組んだ狭い道が、震災からの復旧作業も 阻み、手が付けられない家屋や石垣などが無残な姿をさらしてい る。余震も続く中、住民は「災害にもろい坂の町」に不安を募らせ ている。

 市街地の北斜面に位置する江原地区。避難所になった近くの片山小は、二 十七日までに延べ十五世帯、四十人が身を寄せ、市内八カ所の避難 所で最も利用者が多かった。

 同日午前、市営アパートに転居した会社員宇津見俊洋さん(52) は、大きく傾いた自宅に戻り、荷物の整理に追われた。

 引っ越しは三日がかりだった。玄関は石段の途中にあり、近くの 道はトラックが入れない。近所の人の協力で家財道具を大通りまで 運んだ。

 「いつ家に戻れるのか、分かりません」。垂直に切り立った隣の 石垣を見つめた。二階建ての自宅には、隣家の高さ約八メートルの石垣が 崩れて、押し寄せた。トイレがつぶれ、階段はゆがんだ。「石垣の 工事で、自宅の一部を撤去しなければならないかも…」と肩を落と した。

 市内には、県の指定する急傾斜地崩壊危険区域は五百カ所以上あ る。市指定を含めた、がけ地危険区域は約九百カ所。同区域内に、 約一万四千六百世帯が暮らし、市全体の約二〇%を占める。

 現在の二倍近い人が住んだ戦中から戦後にかけて建設された住宅 も多い。西片山町自治会の山口知会長(80)は「古い町の弱点を突か れた」と受け止めている。「余震や車の振動で石垣が再び崩れるの では」と心配する。

 被災者たちは、がれきを運び出すために、車の通れる道にある収 集場まで何度も往復した。震度5強の揺れを体験し、「救急車が入 れない道がある」「火災が起きれば一気に燃え広がってしまう」な どの不安をあらためて口にする住民は多い。

 市は一九九五年の阪神大震災を機に、地形に配慮した震災対策マ ニュアルを作成した。しかし、急傾斜地独自の対策は盛り込んでな い。

 私有地の斜面の改良は、所有者負担が原則。急傾斜地崩壊危険区域に指 定されれば、県が工事をするが、土地の提供を敬遠する住民もお り、進みにくい現実もある。

 九九年六月の豪雨災害で八人の犠牲者が出た呉市。市総務課の神 垣泰造課長は「二年前の豪雨災害以来、所有者の理解が得られやす くなっている。古い家が密集する地形を変えることは難しいので、 防災工事を進めるしかない」と話している。

【写真説明】崩れ落ちた石垣が、下の民家を直撃した呉市江原町の災害現場


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