特集
音楽の新常識20
ヒットチャート

ヒットの“裏技”を深読みしよう!

メガヒットの連発で一見華やかなヒットチャートにも数字のマジックがある。
メーカー各社のアイデア勝負に注目だ。

水曜ヒット率、90%を突破?
CDの発売日が水曜日に集中する、業界的なウラ事情とは?


 CDの発売日が毎週水曜日に集中しており、その傾向が年々強まっているとの話を聞きつけた。本当だろうか、と最近のヒットチャートを調べてみると、ベスト50位以内のシングル曲の実に9割が水曜日発売だった。3年前のチャートでは水曜日発売は約5割、確かに水曜日比率は高まっているようだ。

 まずはどうして水曜日なのだろうか。レコード会社の販売担当者は「オリコン対策ですよ」と教えてくれた。ランキングとして最も影響力のあるオリコンの集計期間は毎週月曜から日曜。この期間にうまく当て込むなら月曜発売がいいように思うが、そうはならない。

すべては「初登場○位」対策

 「水曜発売」のCDの場合、水曜日には全国どこの店でも買えますという保証を意味する。この場合、商品の発送は月曜、流通事情のよい大都市の店には火曜の午前に入荷され、午後には店頭に並ぶ。週末は流通業者が休みのため、発売日を月曜、火曜に設定すると、商品は前週の土曜に入荷され、店に並んでしまう。そのため、売り上げの一部が前の週の集計にカウントされてしまうのだ。

 次に、この1〜2年で水曜日発売率が極端に高まっているのはなぜか。それはCDが売れなくなっているから。以前は「○万枚突破」と、累計の売上枚数が宣伝文句となっていたが、その数字が落ちているため、発売1週目の売り上げ、つまり「初登場○位」が重視されている。毎月の発売日を10日と25日などと設定しているメーカーでも、チャート上位が期待できる曲は例外扱いで、水曜発売なのだ。

 実際、水曜発売にこだわっているのは邦楽の一部タイトルのこと。今回、調べたシングル50位の中でも水曜発売でなかったヒステリック・ブルー、山口由子、DOUBLE、19(ジューク)に代表されるように、新人組などじっくり売っていきたい楽曲や演歌などは、水曜発売への偏重はないようだ。


オリコンのシングル50位以内ランキング曲の発売曜日を比較した(調査対象は99年4月5日号と、96年4月1日号)。99年については3月22日(月)の振替休日の影響で、本来24日(水)発売のものが翌25日(木)発売にずれたため、25日発売分を水曜発売分としてカウントしている。

マキシシングルが増えているのはナゼ?
ジャケ買い狙いだけではない、マキシ発売の深い意味。

 シングルCDにはアルバムより一回り小さい8p盤と、アルバムサイズと同じ12p盤、いわゆるマキシシングルがある。元々、8p盤はアナログ盤からCDに移行する時に、レコード店で使っていた棚を再利用できるようにと作られたサイズで、日本独自のものだ。

 日本でマキシの発売が目立ち始めたのは、90年代初頭、フリッパーズ・ギターなど渋谷系アーティストから。ジャケットデザインが映えることも理由だったが、一番のポイントは彼らのセールスの中心となっていた、外資系CD店の棚構成にあった。洋楽主体の外資系の店では、シングル用のスペースは少なく、在庫を切らさず末長く売るには、アルバムの棚に並ぶサイズの方が有利だったのだ。

 その後もしばらくは「外資系中心の都市型アイテムはマキシ、全国セールスでチャートを狙うなら8p」と棲み分けられてきたが、ここにきてSPEED、鈴木あみなどチャート上位のランクインが期待されるアーティストも、マキシ発売に踏み切るようになっている。

 その背景には、CDセールスの主流が、昔ながらの駅前のCD店から、全国展開が進んだ外資系CD店に移行している状況がある。そしてもう一つの理由が、レンタル店対策。レンタル店では8p盤の貸し出しは発売直後に行えるが、12p盤は発売後2週間を待たなければならない。シングルセールスの落ち込む中、マキシで出せばレンタルされずに、少しでも多くの人に買ってもらえることを期待しているのだ。


アルバムすべてがベスト盤化の時代
ヒット曲が5、6、7…これってベスト盤なの?

 アルバムからのシングルカットが多い、欧米とは違って、日本ではシングルを3枚リリースして、それを含めたアルバムを発売、というのが一般的なローテーションだった。ところが今年になって“掟破り”のアルバムが出てきた。浜崎あゆみの『A Song for××』にはシングルを5曲収録、さらに鈴木あみの『SA』は6曲、ZARDの『永遠』には実に7曲ものシングルヒットが収められている。オリジナルアルバムの“ベスト盤化現象”が進行中なのだ。

 3枚のアルバムはいずれもミリオンセールスを記録し、市場に受け入れられている。こんな妙な現象が起きているのも、やはりシングルセールスの落ち込み対策。カラオケ練習用にシングルがバンバン売れていた頃に比べると、気に入った曲があってもレンタルで済ます人が増えている。でもシングルがいっぱい入ったアルバムなら「買ってもいいかな」と食指が動く。アルバム待ち状態の人が増えているのだ。

 これに対応して浜崎、鈴木あみは2〜3カ月間隔で次々にシングルを切って、デビュー1年を待たずにシングルコレクション的なアルバムを発売するに至った。シングルではミリオンを記録してなかった2人が、アルバムではミリオンとなるのもうなずける話だ。

 昨年のシングル同時発売など、ヒット曲を5曲、6曲とためこんでいるラルク・アン・シエルなどもこの現象に乗ってくるのか? “ベスト盤化現象”は、まだまだ続いていきそうだ。


出血大奉仕!シングルにも特典
ビジュアル系バンドが火をつけたおまけブームが、演歌歌手にまで波及!?

 ポスターがついたりパズルがついたりと、アルバムの予約・初回特典は珍しくないが、最近はシングルにまで様々な特典がつくようになっている。昔もシングルにシールやカードなど特典がつくことはあったが、その中心はアイドル歌手だった。一方、現在のおまけブームに火をつけたのはいわゆるビジュアル系バンド。メンバー1人ずつのトレーディングカードを封入するなど、ファン心理に訴える、彼らの売り方にはアイドルと共通するものがありそうだ。

 実際のところ、アルバムに比べて単価が安いシングルに付録をつけるのは、レコード会社にとって出血大サービス。少しでも、発売1週目のチャートが上がるようにと、各メーカーが頭をひねったアイデア例を左に紹介した。

 ここ最近で話題になったのは、GLAYの特大ポスターと篠原ともえのCDホルダー。GLAYの場合は200万枚セールスを目標に掲げ、少しでも予約客を確保したいという狙いがあった。また篠原の場合は、彼女が所属する新レーベルのお披露目を兼ねた、話題作りという面もあったようだ。

 一方、今も昔も一番多いのはパッケージの中に封入できる“紙モノ”。トレーディングカードやオリジナルシール、着メロカードなんかも増えている。中でも、アイデア賞を贈りたいのは藤あや子の「振り付けガイド」。演歌歌手のCD需要はこんなところにもあったのか、と妙に感心してしまった。

INDEXへ
All Rights Reserved, Copyright (c) 1997 Nikkei Entertainment