2008年3月期決算を発表する渡辺捷昭氏
2008年3月期決算を発表する渡辺捷昭氏
[画像のクリックで拡大表示]

 「営業・生産・開発のチームプレーを十分に発揮できた」――トヨタ自動車社長の渡辺捷昭氏は2008年5月8日,都内で開かれた2008年3月期の同社決算発表の席でこう胸を張った。同社の連結決算は,売上高が26兆2892億円,営業利益が2兆2703億円,当期純利益が1兆7178億円で,全項目で過去最高を記録。しかし,それらの前年度比成長率はいずれも鈍化している。2008年3月期の前年度比成長率は,売上高9.8%,営業利益1.4%,当期純利益4.5%。2007年3月期がそれぞれ13.8%,19.2%,19.8%だったのに比べると,特に利益で鈍化している。

 背景にあるのは,円高の影響と原材料価格の高騰だ。中でも原材料価格の高騰は「もはや当社だけの努力で吸収できる域を超えている」(渡辺氏)。それでもなんとか増益につなげられたのは,原価低減(VI)活動の成果によるところが大きい。2005年から本格化した同活動は,2008年2月にフルモデルチェンジしたクラウンから特に大きな成果を上げているという。例えば,樹脂部品を設計から見直すことで材料使用量を30%以上低減したり,それまで600種類使用していた鋼板の種類を2割削減して合理化を図ったりした。今後はこれを他の車種にも展開していくという。

 成長率鈍化の要因はほかにもある。販売台数の伸びの低迷だ。同社の2008年3月期販売台数は,日本で前年度比で8万5000台減少したものの,アジアで同16万7000台増,中南米・中近東などの「その他」で同23万1000台増となり,全体でも前年度の852万4000台から891万3000台に増えた。ただし,成長率にすると4.5%。2007年3月期の6.8%に比べて下がっている。

 その理由の一つが,海外市場を取り巻く環境の急激な変化だ。渡辺氏も「サブプライムに端を発するアメリカ経済の低迷,欧州経済の低迷の予兆,資源・新興国市場の急拡大により,市場の構成が著しく変化している」とする。同社は,現地生産体制をすばやく確立することで為替変動の影響を最少化し,原価低減を図ってきたが,「資源・新興国市場の成長は,現地生産体制の増強スピードを上回る速さだ」(同氏)という。市場の変化に合わせていかに現地の生産体制も変動させるかが今後の課題になりそうだ。

 また,成長が低迷する先進国市場における対策について,渡辺氏は「環境」をキーワードに上げた。ハイブリッド車の国内外の販売台数は2008年3月までで141万台。需要が急速に高まっていることを例に挙げて「環境は顧客が求める『性能』の一つになった。年内には超高効率で高燃費を売りにした『iQ』を市場に投入し,新たな市場の創造を狙う」と渡辺氏は意気込む。

 2009年3月期の見通しは,売上高が25兆円,営業利益は1兆6000億円,当期純利益は1兆2500億円。それぞれ前年度比4.9%減,29.5%減,27.2%減の厳しい予測を打ち出した。

この記事を英語で読む