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  • 平成25年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
  • 第1節 省庁別の検査結果 |
  • 第14 防衛省 |
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(1)ライセンス契約に基づき作成されたソフトウェアに係るライセンス上の制約から、修理等が行われていない状態となっているF―15戦闘機の近代化改修用通信電子機器について、修理等が速やかに行われるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの


会計名
一般会計
部局等
航空幕僚監部、航空自衛隊補給本部、航空自衛隊第3補給処
物品の分類
(分類)防衛本省 (細分類)防衛用品 (品目)防衛用航空機用機器
近代化改修用通信電子機器の概要
F―15戦闘機の近代化改修を実施するために換装するレーダー・セット、セントラル・コンピュータ等
必要な修理等が行われていない状態となっている機器の数量及び物品管理簿上の価格
レーダー・データ・プロセッサー 5個 13億3439万円
(平成26年6月末現在)
セントラル・コンピュータ 13個 11億5267万円
(平成26年6月末現在)
計 18個 24億8706万円

【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】

F―15戦闘機の近代化改修用通信電子機器の修理等について

(平成26年10月30日付け 防衛省航空幕僚長宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

1 F―15戦闘機の近代化改修用通信電子機器の修理等の概要

(1)F―15戦闘機の近代化改修の概要

貴自衛隊は、主力戦闘機であるF―15戦闘機(以下「F―15」という。)を平成25年度末現在で201機保有している。そして、貴自衛隊は、今後もF―15を長期間にわたり運用することを予定しており、将来における技術的水準の動向に対応し、我が国の防空体制の向上を図るために、16年度から25年度までの間に72機の近代化改修の契約を締結している。改修の内容は、探知能力の向上を図るためのレーダー・セットの換装、この換装に対応した処理能力の向上を図るためのセントラル・コンピュータの換装等となっている。

上記の近代化改修用としてF―15に塔載される通信電子機器のうち、レーダー・セット及びセントラル・コンピュータ(Very High Speed Integrated Circuit Central Computer。以下「VCC」といい、レーダー・セットと合わせて「レーダー・セット等」という。)は、三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)が米国のレイセオン社及びロッキード・マーチン社とそれぞれライセンス契約を締結して製造している。そして、レーダー・セット等は、貴自衛隊に納入された後に、米国のボーイング社とのライセンス契約に基づき近代化改修を実施している三菱重工業株式会社(以下「三菱重工」という。)に官給され、F―15に搭載されることになっている。

レーダー・セット等は、16年度以降、改修機数に合わせて順次調達が行われていたが、21年度に、経費の削減を図る目的で、その後の近代化改修用として必要な数量について一括して調達が行われている。また、既に改修に使用した機器の不具合発生時の交換用(補用部品)としても、レーダー・セット等の調達が行われている。

(2)近代化改修に必要な通信電子機器の概要

近代化改修によりF―15に搭載されるレーダー・セットは、目標を探知及び追尾する装置であり、レーダー・データ・プロセッサー(Radar Data Processor。以下「RDP」という。)等複数の機器から構成されている。これらのうち、RDPは、目標の検出、レーダー・セットの制御、機能管理等を行う機器であり、レーダー・セットを制御、管理等するソフトウェア(以下「レーダー用ソフト」という。)が組み込まれることにより機能するものである。

また、VCCは、レーダー・セット、各種センサー等から供給された情報を元に、機体の航法、武器の発射及び管制並びに表示の処理を行う機器であり、これらの処理を実施するために機体の位置、速度等を計算するソフトウェア(以下「VCC用ソフト」という。)が組み込まれることにより機能するものである。

(3)レーダー・セット等の不具合の処理

レーダー・セット等に機能不良等の不具合が発生し、その不具合事項が瑕疵であると認められた場合は、調達部局である装備施設本部が三菱電機に瑕疵の修補を請求している。また、瑕疵がないと認められた場合等は、貴自衛隊第3補給処(以下「第3補給処」という。)が三菱電機と修理契約を締結し修理を行うことになっている(以下、瑕疵の修補と不具合の修理を合わせて「修理等」という。)。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

前記のとおり、貴自衛隊は、近代化改修のためにレーダー・セット等を多数調達して改修作業を実施しているが、改修後のレーダー・セット等には、様々な理由により不具合が発生することがある。
そこで、本院は、有効性等の観点から、レーダー・セット等について不具合が発生した場合に、速やかに修理等の対応が執られているかなどに着眼して、18年度から25年度までの間に貴自衛隊に納入されたレーダー・セット等を対象として、航空幕僚監部、装備施設本部、貴自衛隊補給本部、第3補給処及び3基地(注)において、レーダー・セット等の契約書、管理換票、物品管理簿等の関係書類を確認するとともに、レーダー・セット等の製造、修理等を実施している三菱電機及び近代化改修を実施している三菱重工において、契約の履行状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注)
3基地  千歳、小松、那覇各基地

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)不具合が発生したレーダー・セット等の状況

近代化改修に使用したレーダー・セット等についてみると、26年6月末までに、RDP5個及びVCC13個(物品管理簿上の価格は、それぞれ計13億3439万円、計11億5267万余円、合計24億8706万余円)に不具合が発生していた。そして、このうち、RDP2個及びVCC4個については、不具合が発生してから3年以上経過していた。

しかし、貴自衛隊は、次のようにライセンス契約に基づき作成されたソフトウェアに係るライセンス上の制約から、上記RDP及びVCCの修理等に着手していなかった。

  • ア レーダー用ソフト及びVCC用ソフトは、三菱重工において近代化改修を実施する際又は貴自衛隊においてF―15に搭載されているRDP及びVCCを交換等する際に組み込まれるもので、三菱重工がF―15の製造に当たり米国のボーイング社と締結したライセンス契約に基づいて作成されているものである。このライセンス契約によれば、これらのソフトウェアの技術情報は、防衛省、契約の当事者である三菱重工等及びライセンス契約上認められた外注会社(以下「二次ライセンシー」という。)しか閲覧できないこととされており、26年6月末現在で、閲覧が認められている二次ライセンシーは存在していない。
  • イ レーダー用ソフト及びVCC用ソフトが組み込まれた状態でRDP及びVCCの修理等を実施する場合、これらのソフトウェアの技術情報が閲覧可能な状態になるが、上記のライセンス契約上、三菱電機は二次ライセンシーではないため、その状態のままで三菱電機に引き渡して修理等を行うことは認められていない。
  • ウ 三菱電機が前記のライセンス契約により二次ライセンシーとなってRDP及びVCCの修理等を実施しようとする場合、修理結果等の技術情報を三菱重工に提供する必要が生ずることになる。しかし、三菱電機がRDP及びVCCの製造に当たり米国のレイセオン社及びロッキード・マーチン社と締結したライセンス契約では、同契約で認められた者以外に技術情報を提供することができないことから、三菱電機は二次ライセンシーになっていない。
  • エ 三菱電機がレーダー用ソフト及びVCC用ソフトの技術情報を閲覧することができないよう、これらのソフトウェアを消去するなどした上で修理等を依頼すればライセンス契約上の問題は生じないが、貴自衛隊は、この消去等を行うことができる機材を保有していなかった。

(2)修理等に関する貴自衛隊の検討状況等

貴自衛隊は、不具合が発生したRDP及びVCCの修理等の方法を検討するなどしているが、現在の状況は次のとおりであり、修理等が進展していないと認められた。

ア RDPについて

貴自衛隊は、ライセンス契約において技術情報の閲覧が認められていない者が閲覧しても支障のないソフトウェアを作成して、これをレーダー用ソフトに上書きする手法を採用することとして三菱重工と調整している。一方で、ボーイング社等とも調整が必要であり、このソフトウェアを作成するために要する期間及び費用が確定していないことから、RDP5個は修理等が可能な状態となっていない。

イ VCCについて

貴自衛隊は、ライセンス契約においてVCC用ソフトの技術情報の閲覧が認められていない者に対してこれを閲覧させない手法として、三菱重工が保有する機材を活用して消去等を行うこととし、第3補給処は、26年3月31日に、修理等が必要なVCC8個について上記の消去等を実施させるため、三菱重工と役務契約を締結し、同年8月29日までにこれを完了した。しかし、VCC5個については、消去等が行われていないこと、修理等は、消去等を実施した後に三菱電機で実施されることから、同年8月末現在で前記のVCC13個は使用可能な状態となっていない。

(是正及び是正改善を必要とする事態)

貴自衛隊は、将来の近代化改修のために一括調達していたレーダー・セット等を不具合が生じた機器の代わりにF―15に搭載しているため、現時点でF―15の運用に支障は生じていないが、近代化改修が進捗した際には、必要となるレーダー・セット等が不足するおそれもあることから、不具合が発生したRDP及びVCCの修理等が行われていない事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴自衛隊において、近代化改修用通信電子機器の新規導入に当たり、RDP及びVCCの修理等に支障を及ぼす点の検討が十分でないことによると認められる。

3 本院が要求する是正の処置及び求める是正改善の処置

通信電子機器に不具合が発生しているのに、必要な修理等に着手するまでに長期間を要することは、通信電子機器が有効に活用されないこととなり、貴自衛隊において防空任務を遂行するための主力戦闘機であるF―15の運用にも支障が生じて貴自衛隊の任務に重大な影響を及ぼすおそれがある。

また、貴自衛隊において、今後もF―15の通信電子機器をはじめ多数の高度化、複雑化した装備品を調達することが見込まれており、本件のようにソフトウェアを含めた権利関係も複雑になっている状況である。

ついては、貴自衛隊において、装備品の修理等が確実に行われるよう、ア及びイのとおり是正の処置を要求し並びにウのとおり是正改善の処置を求める。

  • ア RDPについて、必要となるソフトウェアを調達するなどした上で、早急に修理等に着手すること
  • イ VCCについて、技術情報を閲覧させない処置が行われていない5個の消去等を進めるとともに、早急に13個全ての修理等に着手すること
  • ウ 今後レーダー・セット等のようなソフトウェアを組み込んだ上で使用する通信電子機器を新規に導入する際は、修理等に支障を及ぼす点がないか十分に検討し、支障がある場合には導入までに所要の対策を執ることとすること