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健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの


(40)健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの

会計名及び科目 厚生保険特別会計 (健康勘定)  (款)保険収入  (項)保険料収入
(年金勘定)  (款)保険収入  (項)保険料収入
部局等の名称 北海道ほか25都府県(212社会保険事務所)(平成11年度以前)
北海道社会保険事務局ほか11社会保険事務局(111社会保険事務所及び11社会保険事務局事務所)(平成12年度)
保険料納付義務者 1,874事業主
徴収不足額 健康保険保険料 1,297,857,615円 (平成9年度〜12年度)
厚生年金保険保険料 4,618,428,012円 (平成9年度〜12年度)
5,916,285,627円

1 保険料の概要

(健康保険、厚生年金保険)

 健康保険は、常時従業員を使用する事業所の従業員を被保険者として、業務外の疾病、負傷、分娩等に関し医療、療養費、傷病手当金、出産手当金等の給付を行う保険である。また、厚生年金保険は、常時従業員を使用する事業所の65歳未満の従業員を被保険者として、老齢、死亡等に関し年金等の給付を行う保険である。

(保険料の徴収)

 保険料は、被保険者と事業所の事業主とが折半して負担し、事業主が納付することとなっている。
 そして、これらの事業主は、都道府県(平成11年度以前)又は地方社会保険事務局(12年度以降)の社会保険事務所等に対し、健康保険及び厚生年金保険に係る次の届け書を提出することとなっている。
(ア)新たに従業員を使用したときには、資格取得年月日、報酬月額等を記載した被保険者資格取得届
(イ)毎年8月には、同月1日現在において使用している被保険者の報酬月額等を記載した被保険者報酬月額算定基礎届
(ウ)被保険者の報酬月額が所定の範囲以上に増減したときには、変更後の報酬月額等を記載した被保険者報酬月額変更届
 これらの届け書の提出を受けた社会保険事務所等は、届け書に記載された被保険者の報酬月額に基づいて標準報酬月額(注1) を決定し、これに保険料率を乗じて得た額を保険料として徴収している。

標準報酬月額 健康保険では第1級92,000円から第40級980,000円まで、厚生年金保険では第1級92,000円から第30級590,000円までの等級にそれぞれ区分されている。被保険者の標準報酬月額は、実際に支給される報酬月額をこの等級のいずれかに当てはめて決定される。

2 検査の結果

(検査の着眼点及び対象)

 本院では、毎年度の決算検査報告において、特別支給の老齢厚生年金(注2) の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者(後掲の「厚生年金保険の老齢厚生年金及び国民年金の老齢基礎年金の支給が適正でなかったもの」 参照)を使用している事業主が届出を適正に行っていなかったため多額の保険料が徴収不足となっている事態を掲記している。さらに、平成8年度決算検査報告からは、派遣労働者を使用している労働者派遣事業の派遣元の事業主が届出を適正に行っていなかったため保険料が徴収不足となっている事態を掲記している。
 また、近年、短時間就労者(いわゆるパートタイマー)が増加傾向にあり、特に多店舗展開しているスーパーマーケット等の小売業及びレストラン等の飲食業においては、就業形態の多様化により多数の短時間就労者を使用している。そして、平成10年度決算検査報告に掲記した事態の中にはこれら小売業及び飲食業の事業主が短時間就労者に係る届出を適正に行っていなかったものもあった。
 これらのことから、本年の検査に当たっては、北海道ほか25都府県及び北海道社会保険事務局ほか11社会保険事務局の213社会保険事務所等管内の事業主のうち、次の3,985事業主について、社会保険事務所等における9年度から12年度までの間の保険料の徴収の適否を検査した。
(ア)短時間就労者等を使用している小売業及び飲食業の事業主
(イ)派遣労働者を使用している派遣元の事業主
(ウ)特別支給の老齢厚生年金の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者を使用しているなどの事業主

特別支給の老齢厚生年金 厚生年金保険において行う保険給付であり、厚生年金保険の被保険者期間が1年以上あって老齢基礎年金に係る保険料納付済期間が25年以上ある者などに60歳以上65歳に達するまでの間支給される。そして、受給権者が厚生年金保険の適用事業所に使用され被保険者である間は、その者の標準報酬月額等に応じて年金の額の一部又は全部の支給が停止される。

(徴収不足の事態)

 検査したところ、上記の26都道府県及び12社会保険事務局の212社会保険事務所等管内における3,979事業主のうち1,874事業主について、徴収額が5,916,285,627円(健康保険保険料1,297,857,615円、厚生年金保険保険料4,618,428,012円)不足していた。
 これを、前記の事業主別にみると次のとおりである。

(ア)短時間就労者等を使用している小売業及び飲食業の事業主に係るもの
494事業主 徴収不足額 3,115,042,936円
(イ)派遣労働者を使用している派遣元の事業主に係るもの
20事業主 徴収不足額 146,301,011円
(ウ)特別支給の老齢厚生年金の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者を使用しているなどの事業主に係るもの
1,360事業主 徴収不足額 2,654,941,680円

 このような事態が生じていたのは、事業主が次のように届出を適正に行っていなかったのに、上記の26都道府県及び12社会保険事務局の212社会保険事務所等において、これに対する調査確認及び指導が十分でなかったことによるものである。

〔1〕被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの
1,651事業主 徴収不足額 5,517,005,188円
〔2〕資格取得年月日の記載が事実と相違していたもの
187事業主 徴収不足額 367,598,347円
〔3〕被保険者資格喪失届を誤って提出していたものなど
36事業主 徴収不足額 31,682,092円

 このように事業主が届出を適正に行っていなかったのは、制度を十分に理解していなかったり、従業員が受給している特別支給の老齢厚生年金が支給停止となる事態を避けようとしたりしていたことなどによる。
 なお、これらの徴収不足額については、本院の指摘により、すべて徴収決定の処置が執られた。
 徴収不足額の大部分を占める被保険者資格取得届の提出を怠っていた事態についての事例を示すと次のとおりである。

<事例1>
短時間就労者等を使用している小売業の事業主が被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの

 A会社は、物品の販売等の業務に従事する従業員3,978人を使用していた。同会社は、これら従業員のうち2,670人については、勤務時間が短く常用的な使用でないなどとして、社会保険事務所に対して被保険者資格取得届を提出していなかった。
 しかし、上記の2,670人について賃金台帳、雇用契約書等により調査したところ、同会社はこのうち163人を常用的に使用しており、被保険者資格取得届を提出すべきであった。
 このため、健康保険及び厚生年金保険の保険料63,602,117円(健康保険保険料21,495,402円、厚生年金保険保険料42,106,715円)が徴収不足になっていた。

<事例2>
特別支給の老齢厚生年金の受給権者を使用している事業主が被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの

 B会社は、清掃等の業務に従事する従業員75人を使用していた。同会社は、これら従業員のうち17人については、年金の受給権者である従業員から、被保険者資格取得届が提出されると受給している特別支給の老齢厚生年金が支給停止になるとの申出を受けるなどしたため、社会保険事務所に対して被保険者資格取得届を提出していなかった。
 しかし、上記の17人について賃金台帳、雇用契約書等により調査したところ、同会社はこれら17人を常用的に使用しており、被保険者資格取得届を提出すべきであった。
 このため、健康保険及び厚生年金保険の保険料8,536,940円(健康保険保険料3,370,546円、厚生年金保険保険料5,166,394円)が徴収不足になっていた。

(都道府県等ごとの徴収不足額)

 これらの徴収不足額を都道府県等ごとに示すと次のとおりである。

これらの徴収不足額を都道府県等ごとに示すと次のとおりである。