“Windowsタッチ”徹底解剖

Windows 7の新機能「Windowsタッチ」とは何か



 Windows 7で新たに搭載された機能の1つに「Windowsタッチ」がある。Windowsタッチとは、2本以上の指を用いてズームや回転など、さまざまな操作を行なえる機能のことだ。MacBook ProやMacBook AirのトラックパッドやiPhoneに搭載されている「マルチタッチ」と基本的に同一である。マルチタッチ機能に対してマイクロソフトがつけた愛称が「Windowsタッチ」ということになる。

 Windowsタッチの利用にあたっては、マルチタッチ入力に対応したデバイス、例えばディスプレイやタッチパッドが必要になるが、ソフトウェアのモジュールそのものはOSの一機能として組み込まれているため、わざわざ専用のユーティリティをインストールする必要はなく、接続するだけで利用できる。かつてユーティリティをインストールしなくては使えなかったマウスのホイールが、Windows 98 SEから標準で使えるようになった状況とよく似ている。

 なお、Windowsタッチはマイクロソフトが用いている呼称だが、主にホームページなどで用いられており、Windows 7のコントロールパネルにはWindowsタッチという文言はない。後述するようにWindows 7のコントロールパネルでは「ペンとタッチ」という項目内に、Windowsタッチについて設定できる箇所がある。

●Windowsタッチの基礎知識

 まずはWindowsタッチの基礎知識をおさらいしよう。

Q.基本的な操作にはどんなものがあるか

A.以下の通り。

・シングルタップ/ダブルタップ

 1回もしくは2回つつく操作。マウスでいうところのシングルクリック/ダブルクリックに相当する。

・プレス アンド ホールド

 しばらく(1~2秒程度)指で押さえることにより、右クリックとして認識される。

・スクロール

 アクティブなウィンドウの上で指を上下させることでスクロールが行なえる。マウスホイールによるスクロールに同じ。

・ズーム

 2本指を開いたり閉じたりすることで画面の拡大・縮小が行なえる。アップルのピンチイン/アウト(ピンチオープン/ピンチクローズ)に同じ。

・回転

 一方の指を支点にし、もう一方の指で弧を描くことで、写真などを回転させることができる。

・フリック

 指先でウィンドウをひっかくようにすることで、ブラウザであれば前画面に戻ったり、フォトビューアであれば写真をめくることができる。ひっかく方向によって挙動が異なる。

Q.マルチタッチはいわゆるタッチ操作とは違うのか

A.一般的に「タッチ操作」と言えば1本指での操作を指すが、マルチタッチは2本以上の指による操作を指す。つまりニンテンドーDSや一部の電子辞書は、タッチ対応であってマルチタッチ対応ではない。ただし、一般にマルチタッチとして紹介される操作方法には、タップやダブルタップ、スクロールのように1本指で行なう操作も含まれる。

Q.Windows Vista以前との違いは?

A.Windows 7ではマルチタッチ機能が「Windowsタッチ」としてOSに組み込まれているため、Vista以前のように、別途ユーティリティをインストールする必要がない。なお、マルチタッチで動画編集が行なえるコーレルの「Digital Studio 2010」やLoiLoの「LoiLoTouch」のように、マルチタッチに対応したインターフェイスをあらかじめ備えたソフトも登場しつつある。

Q.どうすればWindowsタッチ機能を利用できるか

A.Windows 7ではデフォルトでWindowsタッチが利用できる状態になっているので、マルチタッチに対応したディスプレイなどの入力機器を接続するだけで利用できる。「タッチ対応=マルチタッチ対応」ではないので、手持ちのノートPCにタッチパッドが搭載されているからといって、Windows 7のインストール後に必ずしもマルチタッチが使えるわけではない。

Q.製品によっては、上の表に挙げた以外の操作も行なえるようだが?

A.最大4本指での操作に対応したレノボ・ジャパンの「ThinkPad T400s」のように、Windowsタッチをベースに独自の機能拡張を施した製品もある。また、画面右側にタッチ操作用のパネルを表示できる富士通の「BIBLO MT」のように、タッチ操作を便利にする補助ソフトを添付した製品もある。

Q.Windowsタッチ機能の設定はどこで行なうのか

A.コントロールパネルの「ハードウェアとサウンド」にある「ペンとタッチ」で、各機能のON/OFFや慣性などの項目を調整できる。

ペンとタッチ

Q.ハードウェアの対応状況は?

A.PCメーカー各社からはマルチタッチ対応を謳ったWindows 7搭載PCが続々と発表されているほか、アイ・オーやiiyama、デルからはWindows 7のマルチタッチに対応したディスプレイが発表されている。このほか、マルチタッチ対応のマウス「Mouse 2.0」をマイクロソフトが開発中との報道もある。

Q.マルチタッチ対応の入力機器はどのような動作方式を採用しているか

A.前述のアイ・オーやiiyamaのディスプレイ、さらに日本HPの「HP TouchSmart PC」はいずれも光学センサー式で、指のほか爪やペンでも操作できる。レノボ・ジャパンの「ThinkPad T400s」は静電式(静電容量方式)のため、電気が通らない爪やペンでは動作せず、基本的に指での操作になる。

Q.ソフト側の対応状況は?

A.Windows 7に搭載されているIE8やペイントは、マルチタッチに対応したインターフェイスがすでに組み込まれている。このほか、コーレルの「Digital Studio 2010」やLoiLoの「LoiLoTouch」といった動画編集ソフトでマルチタッチに対応したインターフェイスが装備されるなど、ソフト側のマルチタッチ対応も進みつつある。

Q.MacBook AirやiPhoneのマルチタッチとの違いは?

A.ズームやフリックといった基本操作は同じだが、それ以外では操作方法が異なる場合もある。右クリックに相当するプレス アンド ホールドがその代表例。また、例えばズームについても、MacBook AirやiPhoneでは拡大後に再び縮小すると元の座標に戻ってくるのに対し、Windowsタッチでは指の動きに応じて別の座標に移動する場合があるなど、挙動が異なる場合がある。

Q.画面の解像度が高いと操作しづらい?

A.高解像度環境ではボタンなどのパーツが小さいため、使いやすいとは言えない。マイクロソフトではこうした場合、ボタンやコントロールのサイズを大きくすることを推奨している。Windows 7プリインストールPCでも、例えばNECのVALUESTAR W(VW870/VG)では、ユーザーインターフェイスがタッチ向けにあらかじめ大きめに設定されている。

●実際にWindowsタッチを使ってみた

 次に、Windowタッチの実際の使用感をレビューする。マルチタッチ対応の入力機器として、今回はアイ・オーのマルチタッチ対応ディスプレイ「LCD-AD221FB-T」を使用した。PCはエプソンダイレクトの「Endeavor MR3100(Core 2 Duo 6400(2.13GHz)/メモリ2GB/HDD160GB/Intel 965G Express)」に、Windows 7 Enterpriseの評価版をインストールして使用している。

アイ・オーの「LCD-AD221FB-T」。ベゼルの内側に光学センサが装備されたマルチタッチ対応のディスプレイだ

 なお、本稿執筆時点では対応ハードウェアの数が少ないため、特定の挙動がハードウェアに依存するのか、それともWindowsタッチ固有のものなのか、判断がつかない場合が少なからずある。あらかじめご了承いただきたい。

●シングルタップ/ダブルタップ/プレス アンド ホールド

 シングルタップおよびダブルタップは、マウスによるクリックおよびダブルクリックと同じ要領だ。ただし操作に指やペンを使うWindowsタッチでは、同一箇所を正確に連続してタッチするのが難しいため、ダブルタップのつもりがうまく認識されない場合が少なくない。1回目と2回目のタップの場所がずれないよう、マウスによるダブルクリックに比べてすばやくタップするのがコツだ。

 ドラッグについても、マウスによる操作と要領は同じ。ただし高解像度環境では、前述の通りウィンドウをつかみにくい場合も少なくない。

 

【動画】ウィンドウをドラッグ~ウィンドウサイズ変更~ウィンドウを閉じる様子

 また、Windowsタッチでは、1回タップするとその左下にマウスマークが出現する。このマウスマークの左右ボタンをタップすることにより、それぞれ左右クリックとして認識される。補助メニューとして便利なので、うまく活用したい。
1回タップすると画面上に半透明のマウスマークが出現する。このマウスのボタンをタップすればそれぞれ左右クリックとして認識される
【動画】画面をシングルタップすることでマウスマークが表示される様子

 もう1つ「プレス アンド ホールド」と呼ばれる操作方法もある。これは、タップのあと押したままにすると円マークが出現し、指を離すとコンテクストメニューが表示されるというものだ。表示させるまでやや時間がかかるのが難だが、こちらも基本操作の1つとして覚えておくと便利だ。

タップのあと押したままにすると円マークがアニメーション効果を伴って出現するそのまま離すとコンテクストメニューが表示される
【動画】タップのあと押したままにしていると円マークが出現する様子

●ズーム/回転

 ズームについては、ソフトによって挙動がかなり異なる。例えばWindows フォト ビューワーでは、拡大率が無段階でなめらかに可変するが、IE8ではプリセットされた拡大率、つまり50-75-100-125-150-200%といった段階で切り替わるため、カクカクとした動きになりがちだ。

 また、MacBook AirやiPhoneの場合、いったん拡大したのち縮小を行なうと元と同じエリアが表示されるのに対して、Windowsタッチのズームイン→アウトでは、指の動かし方によって元とは異なるエリアが表示される場合がある。また、等倍表示に戻すつもりが縮小されてしまうこともよくある。両者を併用するユーザーは、動きの違いに戸惑うこともあるだろう。

 回転は、Windows フォト ビューワーでは90度刻みでの回転(0、90、180、270度)をサポートし、アニメーション効果などはない。他の操作に比べると操作の難易度は高く、90度回転させたつもりが180度回転させてしまったり、回転させようとしたのに指の間隔が広がってズームになってしまうミスが起こりやすい。

 ただしこの「ひねる」という動作自体、従来のPCのインターフェイスにはみられないものであるため、不慣れな点を差し引く必要があるだろう。従来のサードパーティ製のマルチタッチ対応製品でも発生していた問題でもあり、どちらかというとユーザビリティに依存する問題ではないかと思う。

【動画】Windows フォト ビューワーで、ダブルタップ~ズーム~回転~フリックを行なう様子。フリックはうまくいかず何度か失敗している

●フリック
フリックのトレーニングが行なえる「フリックトレーニング」。コントロールパネルの「ペンとタッチ」のフリックタブから呼び出せる

 フリック操作については、IE上でフリックによる「戻る」「進む」を行なう場合、ブラウザの「戻る」「進む」ボタンと向きが正反対になってしまうので、慣れるまで直感的に理解しにくい。具体的に言うと、前の画面に戻る際、ブラウザの「戻る」ボタンは左向き(←)であるにもかかわらず、フリック操作だと右向きに弾く格好になるのだ。Windows フォト ビューワーでも同様で、画像を順送りしていたつもりが、実は逆にめくっていたことが何度かあった。

 ちなみにこのフリック操作については、Windows 7の側で「フリックトレーニング」と称した練習用のメニューが用意されており、適切な移動距離やスピードについてアドバイスしてくれる。フリック操作は利用するハードウェアの種類、また指先かペンかによっても操作感が大きく異なるので、うまく操作できない場合はここで練習するとよい。

【動画】Internet Explorer 8で、スクロール~タップ~ズーム~フリックを行なう様子

●その他

 このほか、Windowsタッチ付属の機能として、ソフトウェアキーボードおよび手書きキーボードが挙げられる。画面の左端をドラッグすることで、文字入力のための仮想キーボードを引き出すことができるのだ。基本操作の合間に検索などの文字入力が必要なWebブラウザなどで便利に使える。

仮想キーボード。画面の左端から引き出して利用する。XP/Vistaに搭載されていたスクリーンキーボードに近い機能だ。なお、仮想キーボードはマウス操作を行なっている場合は表示されず、タッチ対応デバイスを用いて操作している時にのみ表示される左上のアイコンをクリックすることで手書きキーボードに切り替えることができる。かな入力が可能
【動画】仮想キーボードを表示させ、ブラウザの検索ボックスにテキストを入力して検索する様子
【動画】仮想キーボードから手書きキーボード切り替え~手書き文字入力を行なう様子。マスの中に一文字ずつ書いていく方式

 以上が基本的な操作についてのレビューである。実際に使っていて1つ気になったのはCPU使用率だ。筆者環境では、マウスを用いてスクロールしている時に20%台だったCPU使用率が、タッチ操作でスクロールしている時は50%超まではね上がった。タッチ操作だとどうしてもダイナミックに動かしがちなので一概に比較することはできないが、やや気になる傾向ではある。

●Windowsタッチの登場と、マルチタッチのこれから

 マルチタッチのメリットは、なんといっても直感的な操作が行なえることだろう。回転やフリックなど多少の慣れが必要な操作は別にして、指先で行なうタップやドラッグ、さらに2本の指の間隔を広げると画像の一部が拡大されるという挙動は、見た目にわかりやすいし、学習効果も働きやすい。

 特にディスプレイのように、実際に画面上に見えているオブジェクトをそのまま動かせるというのは、PCに不慣れな人にとっては親切な設計だと言える。ユーザー層によっては、マウスよりも使いやすいインターフェイスとして評価されることもあるはずだ。

 また、操作そのものを「見せる」用途においても、高い効果が期待できる。例えばパソコンスクールであれば、講師が生徒に説明する際、画面を指し示しながらそのまま操作が行なえる。大画面でのプレゼンテーションでも同様で、人間の動きと合わせた表現力の豊かさは、マウス操作の比ではない。

 ただし、マルチタッチがマウス操作を完全に置き換えてしまうかというと、これはノーだろう。マウスとキーボードでの操作を前提に設計された現在のインターフェイスを操作するのにマルチタッチは小回りが利きにくいし、長時間腕を浮かせた状態でディスプレイのタッチ操作を行なうと腕が疲れてしまうといった事情もある。現状ではスクロールやフリックなどのダイナミックな操作が中心となり、精細な動きはマウスに頼らざるを得ない。

 もっともこのあたりは、今後ソフトウェアがどの程度マルチタッチに対応してくるかによっても変わってくるだろう。例えばタッチ操作の際にメニューバーやツールバー、各種ボタンが拡大されるなど、インターフェイス側からの歩み寄りがあれば、大きく状況が変わってくる可能性はある。

 例えば、10月16日に発表されたNECのVALUESTAR W(VW870/VG)では、ユーザーインターフェイスのデフォルト設定がタッチ向けに大きめに表示されている。FlashやSilverlightのマルチタッチ対応も進んでいることから、Webサイトにおいてもタッチ操作を想定したインデックスメニューが増えてくるかもしれない。Windows 7へのWindowsタッチの搭載が、マルチタッチ普及の起爆剤になる可能性は十分にあると思う。

 次回からは、Windowsタッチ対応のハードウェアを個別にレビューしていく。