先日開催された「ReMIX Tokyo 09」(レポートはこちら)のキーノートで披露されたヤフーのSilverlightアプリケーションについて関係者に話を伺いました。ヤフーは、国内で最も早くSilverlightの採用を決定した企業のひとつであり、動画サービスを中心に積極的にSilverlightコンテンツの開発を進めています。昨年は、世界で初めてSilverlight 2でDRM技術を利用した動画配信を行った「MAJOR.JP」(サービス終了)などが注目されました。

ヤフー パートナーソリューション本部 ビジネス開発部 リーダー 稲垣公裕氏(写真左)と同社マーケティング部広報 齋藤正大氏に話を伺った

――キーノートのデモンストレーション、拝見しました。ブラウザで表示されるオークションのページとはUXがガラっと変わっていて同じデータを使っているとは思えないと驚きました。最初に、Silverlightを選択した理由について聞かせてください。

稲垣 Silverlightは、2年ほど前にマイクロソフト様から紹介していただきました。我々もお客様を飽きさせないサービスをやっていこうと、どんどんと新しい技術を取り入れていこうという姿勢があります。その一環で、新しいテクノロジであるSilverlightをいろんなサービスで使っていこうかなと考えたのがきっかけとなっています。Flashではできないような新しいものをSilverlightを使ってできる可能性を感じました。

ReMIX 09ではYahoo!オークションの情報をさまざまな角度で確認できるSilverlightアプリが披露された

――現段階で、Silverlightのメリットを感じられた部分はありますか?

稲垣 今まで、お客様からのご要望で多かったのはYahoo! JAPANの動画がMacで見れないというものでした。これを解消したいというのが我々の中で大きく、Silverlightを採用することで、Windowsユーザーに加えてMacユーザーにもサービスをお届けできるようになりました。

――Macユーザーが御社の動画サービスを見れなかったのはWindows Mediaを使っていることが原因だった思います。他の動画サービスではFlashが多く使われています。コンテンツの保護に関しても「Flash Media Rights Management Server」を使えば同様のサービスを実現できたかと思いますが、それでもSilverlightを選択したわけですね。

稲垣 はい、ユーザーの操作性や帯域の管理でもSilvelrightが優れている面があると感じました。

図01 Yahoo! JAPAN のヱヴァンゲリヲン特集サイト。コンテンツの再生に Silverlight が用いられている。(C)カラー

Yahoo! JAPANの多くの動画はWindows Mediaで運用されているため、Flashへ移行するとなると既存の資産を活用できないという問題が大きかったようです。Silverlightであれば、Windows Mediaをクロスプラットフォームで再生することができる上、Silverlight 3からはH.264や独自コーデックの拡張に対応したので幅広くメディアを扱えるようになりました。

メディアの帯域制御やメディアに対する操作のロギングでもSilverlight 3で大きく改善されており、特にクライアント側のCPUや帯域の状態に応じて最適な映像品質をリアルタイムで自動選択して配信するSmooth Streamingは他の競合製品には見られない新しい技術です。

図02 Smooth Streaming によって受信する動画のビットレートが動的に変化(左下のグラフ)している

――では、今後もSilverlightを使ったコンテンツを拡大していく考えはありますか?

齋藤 そのつもりでサービスのほうも動いています。ただ、ユーザーの利便性やリソースの問題もあるので、そこはサービス側と調整しながら、どこをSilverlight化すればお客さまにとって使い勝手が良くなるかを考えながらサービス構築の順番づけをしていきます。やはり、動画のところは魅力的なので、動画サービスは速いスピードで対応していくと思います。

――従来のWebコンテンツとSilverlightの違いとか、魅力ってなんでしょう? 基本的な部分は同じだと思います。見せ方が違うだけでSilverlightを使わなくても、同じこと(データの閲覧や操作)はブラウザでもできる。それでもあえて、Silverlightを使うのはなぜでしょう。

稲垣 我々は、お客様にいろんな体験を提供したいなと思っています。今までだとFlashや、もっと昔だとGIFを使ったりしました。新しいテクノロジを取り入れていくことで、我々エンジニアには良いサービスを作っていこうと刺激になります。たぶん、お客様にとってそんなに見た目はFlashと変わらないと思うんですけど、開発者のモチベーションや、お客様からのフィードバックが良いスパイラルになってサービスが盛り上がることを期待しています。

――こうした新しいサービスが出ると、お客さんは反応してくれるものですか?

稲垣 そうですね。見た目がガラッと変わると、良いも悪いも、色々と反応が返ってきますね。そういったものを吸収しながら、新しいサービスを作っていくという形で進んでいます。

一方で、Silverlightのような新しい技術を採用するにはユーザーが利用してくれないことには始まりません。多くのコンピュータへのインストール実績を持つFlashに比べ、後発のSilverlightはクライアントPCへのインストールが進んでいるのか気になります。

――Yahoo! JAPANのサービスを使っているユーザーではSilverlightのインストールは進んでいると思いますか?

齋藤 我々が Silverlight 対応のサービスを増やしていくことで、(Silverlightを)ダウンロードしているお客様の数は増えていっているという実感はあります。

――Webブラウザのプラグインという場合、それ自体は魅力的だけれどもインストール率が低くて採用できないというケースがあると思います。そういった不安はありませんでしたか?

稲垣 もちろん、あります。最初は「Silverlightって何?」というお客様が圧倒的に多かったんですね。ここにきて、ようやくSilverlightの認知も上がってマイクロソフトのプラグインなんだと理解されてきています。でも、そこに至るまでの間は、お客様に対してSilverlightとはこういうものですとサイト上でご案内させていただいて、なるべく安心してインストールしていただけるような環境を用意しています。

最後に、マイクロソフトが沈黙を守っているSilverlightのモバイル版への期待について聞いてみました。2008年に発表されたものの、それ以来、同社からSilverlightのモバイル版について新しいアナウンスはありません。関係者によると、近い将来Windows Mobileの新バージョンと共に発表されるだろうとのことです。

――モバイルへの展開も検討されていますか?

稲垣 はい、幾度となくご要望はマイクロソフトさんに差し上げております。モバイルへの対応も検討してまいります。

日本では携帯電話でネット上のコンテンツを利用するユーザーが多いので、Silverlightのモバイル版に期待している企業も少なくないでしょう。iPhoneやAndroidに比べてUXという点で後れを取っているWindows Mobileですが、SilverlightがWindows Mobile上で動作するようになればWebサービスと連動した新しいアプリケーションの登場も期待できます。

ヤフーのように、多くのコンテンツを持っている企業であれば、コンテンツの見せ方やアクセス方法を改善することでユーザー体験を大きく向上させられるでしょう。今後のサービスの展開にも注目です。

著者プロフィール:赤坂玲音

フリーランスのテクニカルライタ兼アプリケーション開発者。主にクライアント技術、プレゼンテーション技術が専門。2005年から現在まで「Microsoft MVP Visual C++」受賞。技術解説書を中心に著書多数。近著に『Silverlight入門』(翔泳社)などがある。