ローコストキャリア(LCC)のPeach Aviationは10月23日、新しい自動チェックイン機の試験導入を関空から始めた。LCCの命題でもあるコストマネジメント、そして、"イノベーション"の体現を目指すPeachが開発した機械は、なんと段ボールでできている。また、この機械で導入された技術に関しては、IT系でPeach初となる特許を出願しているという。開発の経緯をイノベーション統括部の前野純氏にうかがった。

10月23日より、関空では新しい自動チェックイン機を導入

変化は「段ボール製」だけじゃない

従来機と今回の新機の主な違いとしてまず、表示画面が15インチから32インチとなることで表示できる情報が約2倍となった。この2倍になった画面を用いて、現在特許を出願中のトータルエクスペリエンスの改善が行われている。

また、従来機では木だった素材を段ボールとスポンジにすることで、素材にかかるコストダウンを図った。「本当はスポンジだけでできた自動チェックイン機を作りたかったんですが、それに足るスポンジとなるとコストが高くなってしまうため、段ボールを併用した現在のスタイルになりました」と前野氏は話す。

Peach就航時から運用している従来型の自動チェックイン機。実は木でできている

それらの開発は、従来機に引き続き新機も自社開発で対応した。同様のものを外注すると億単位の費用がかかる中、Peachはその数百分の1程度の費用で製作している。画面が大きくなったことでコストはアップしているが、その分、素材を段ボールとスポンジにすることでトータルのコストは変わらず、結果、同じコストで利便性を追求することができたという。

現在、関空では自動チェックイン機を15機設置しており、10月23日より国際線チェックイン前に新機5機を導入する。年内には関空内の全機を新機に入れ替え、その状況を見ながら今後、全国の空港に展開を広げていくという。

収益を生み出す機械に

段ボールを用いるメリットはコストダウンだけではない。Peachは現在、搭乗券に広告を表示しているが、今後は自動チェックイン機そのものへの広告掲載も検討しており、実際にそうした要望の声も企業などからあるという。その際に便利なのが段ボールの壁面だ。

見た目ではなかなか分からないが、新機をよく見ると壁面が段ボールであることが分かる

4側面で1枚になった段ボールは交換も簡単で、素材が紙であるためデザインも容易。1機単独での広告のほか、例えば5機でひとつのデザインになるような広告展開も可能となる。なお、段ボールの中でも強度のある素材を使用することで機械全体の強度にも配慮している。前野氏は、従来機でも搭乗券の広告収入によって開発費がまかなえていると話すが、通常、投資でしかない設備である自動チェックイン機が、今後はお金を生み出す可能性を秘めることになる。

段ボールは4側面で1枚になっており、簡単に交換ができる

トータルで"世界最短チェックイン"を狙う

また、今回の開発で新しくなった機能として、言語選択のオートメーション化がある。Peachでは現在、5言語(日本語、英語、中国語繁体字・簡体字、韓国語)に対応し、自動チェックイン機で言語選択の作業をはさんでいたが、新機では予約コードを読み込むとインターネット予約時の言語がそのまま自動チェックイン機でも表示されるようになる。この機能を活用した新しいサービスとして、乗客の属性に合わせた広告展開も検討しているという。

さらに、新機は190cmと高さを持たせているのにも理由がある。Peachは従来機の自動チェックイン機で、5秒で作業が完了できる"世界最短チェックイン"をうたっている。新機ではチェックイン処理中の時間をさらに短くすること以外にも、空港に入ってからチェックインを完了するまでの全工程でも、"最短"を実現するための工夫を考えた。

それが、遠くからでも一目でも機械の位置が分かる視認性の向上、そして、大きくとられた画面による操作画面と補助画面の使い分けである。画面では作業中の人への案内のほか、後列の人に「チェックイン受付中」「お並びの方は旅程表とパスポートをご用意ください」などの情報を提示することで、チェックインを待っている間に準備を促す役割も果たすという。こうしたソフト面の技術をトータルして、現在特許を出願している。

画面上部には「チェックイン受付中」などとチェックイン待ちの人にも情報を発信

デザインや素材は地元・関西から

ただし、従来の自動チェックイン機でも特に不具合があったわけではない。「従来機でも他にはないものを作ろうという想いがあり、その結果、木を用いた機械を作りました。ただ、当時はなんとか就航に間に合わせなければいけなかったため、悪く言えば"ありあわせ"という部分もあったかもしれません。そのため、これまでの3年間のノウハウを結集し新しいことにチャレンジしようということで、約1年かけて開発しました」と前野氏は言う。

ちなみに、段ボールやスポンジなどの素材、また、デザイン案もPeachの地元・関西の企業に発注している。素材に段ボールとスポンジを用いた理由は単純に素材のコストダウンのほか、梱包に使われる素材をそのまま使用することで、自動チェックイン機の運搬コストの低減も狙っているという。

加えて、段ボールとスポンジということで機械の軽量化も図られている。これは業者ではなく自社スタッフでも運送できる重さにすることで、設置作業にかかるコストの削減も視野に入れたデザインとなっている。

内部はスポンジになっている

「段ボールで機械を作るって『ふざけている』って思うでしょ? 初めて井上慎一CEOに話した時も『またバカなことを考えているな』というような反応でしたが、まずやってみることが大事だと思うんです。

例えば、いままで機内食でたこ焼きはにおいがあるためNGと言われていましたが、実際に導入してみたら人気商品となりました。においがある分、周りの人も『食べてみたい』と自然に想起させられるようです。もちろん今回の新開発は、ただ奇抜さを求めるのではなく利便性も追求しています。特許を出願することでPeachの競争力も上がるでしょう」(前野氏)。

ちなみに、新機に取って代わった従来機はそのまま処分するわけではない。Peachは自動チェックイン機のラックはボーディング時に使用しているラックと同じタイプのものなので、新規路線を就航した際に新しい空港でボーディングのデスクに使用するほか、個人ブース用として社内に設置するのもいいのではという案もあるという。

自動チェックイン機の操作方法が分からなければ、スタッフがサポートしてくれる

Peachでは現在、乗客の約9割がカウンターではなく自動チェックイン機を使用しているという。関空以外での新機導入は未定だが、Peachのノウハウと"遊び心"が詰まった新自動チェックイン機の使い心地をぜひ体感していただきたい。