解散総選挙は、予想通り民主党の圧勝で終わった。今回は社説めいた論調となるが、間もなく発足する新政権には金融政策運営の観点から注文が1つある。

 2008年春の日銀総裁の人選の際に振りかざした「財政政策と金融政策の分離原則」を貫いてもらいたい――ということだ。

財政・金融分離原則にこだわった民主党

米ベアー・スターンズ株主、身売りを承認

ベア・スターンズが破綻の瀬戸際に追い込まれていた頃、日本では中央銀行総裁が不在だった〔AFPBB News

 福井俊彦前総裁の後任人事が迷走し、日銀トップが一時空席になるという異例の事態に発展したのは、今もなお記憶に新しい。当時の武藤敏郎副総裁を推す与党案に対し、民主党など野党が、財務省出身者が日銀総裁になると金融政策が財政政策に取り込まれるのではないかと懸念したからだ。いわゆる「財金分離」の原則に強くこだわった上での反対であった。

 折しも、内外金融市場ではサブプライムローン問題が深刻化し、米名門証券ベアー・スターンズが破綻の瀬戸際に追い込まれていた。金融秩序の番人役でもある中央銀行のトップが空席となるのは許されない時期に、野党第1党であった民主党が敢えて与党案に反対したのは、財金分離をそれだけ重視したからであろう。

 財金分離が本気なら立派だ。人事混迷に落とし前をつける意味でも、是非とも貫徹してほしい。そうでなければ、民主党は、党利党略のために中央銀行トップ人事を弄んだことになってしまう。

 武藤氏に関する民主党の見解を改めて振り返ってみたい。同党のホームページには「財務省そのものの人物であり、日銀の独立性を担保できない」「日銀の国債買い切りオペレーションをこれからも継続するという武藤氏の判断は日銀トップにふさわしくない」などの決議や発言が残されている。

財務省支配に警鐘

日銀、金融政策の「現状維持」を決定

後任選びは迷走しました・・・〔AFPBB News

 マスコミに対し、民主党幹部らは「『財金分離』はどうしてもやらないといけない。財務省のトップを日銀のトップに据える案には簡単にイエスと言う環境ではない」(鳩山由紀夫幹事長=肩書き当時)、「武藤氏は『ミスター財務省』と言ってもいいぐらい次官を(長期間)務めた方で、財務省そのものだ。一方があまりにも支配的な力関係にあるのは好ましくない」(菅直人代表代行)などと主張した。

 これらの発言からうかがえる民主党の日銀像は「与党・財務省に都合良く利用される可哀想な存在」というもの。それゆえに「財金分離」の必要性を痛感し、武藤氏をはじめとする財務省出身者らの登用を強力に阻止したのだろう。

 当然、与党となったからには中央銀行の独立性を一段と重視し、日銀を抑圧状態から救ってくれるはず。過去の民主党のロジックからはそういう結論が導かれる。

 「財金分離」は、それ自体は真っ当な概念だ。民主党が中央銀行の独立性を真に尊重すれば、政権政党としての信頼感が増すのは確実だ。

新日銀法を尊重しなかった自民党政権

 自民党政権は、日銀の法的独立を担保した1998年4月施行の新日銀法を十分に尊重したとは言い難い面があるからだ。日銀が昨年から開示を始めた金融政策決定会合の議事録には、政治的圧力をかけた形跡がうかがえる。