どこまで似れば盗作なのか ~だってウサギなんだから

福井健策(弁護士・日本大学芸術学部 客員教授)2014年06月20日 11時00分

 著作権はどんな情報に及ぶどんな権利で、それは誰が持つのか。一番基本のお話は前回までで終わりました。そこで今回と次回は、読者に作品を見ていただきます。というのは、「人の作品を真似して似た作品を作ると著作権(翻案権)侵害だ」と説明しましたね。でもどんな作品にも、何かしら先人の作品と共通点はあります。

 では、現実にどの程度似ていれば著作権侵害で違法になってしまうのか。いわば、「パクリとセーフの境界」はどこにあるのか。実際に盗作裁判になったケースを見ながら探るのが、この2回です。現に様々な場面で頭を悩ますし、トラブルも起きやすい分野です。

 最初は世界を震撼させた、この裁判から。


 ミッフィー対キャシー事件!

 どうでしょうか。両者静かにたたずんでいますけど、こんなに心躍る対決も滅多にないですね。「ミッフィー」(日本名うさこちゃん)は、いまだに高い人気を誇る、いわばキャラクタービジネスの先駆けのひとつ(一匹)ですね。オランダの作家、ディック・ブルーナさんが1955年に最初の絵本を刊行し、世界中で8500万部以上を売っているそうです。かたやキャシーは、「ハローキティ」の友達という設定のサンリオのキャラクターです。むしろウサギのコスプレをしたキティという感じですね。

 ブルーナ側は怒って、キャシーをオランダで提訴しました。2010年、オランダの裁判所は「キャシーはミッフィーに酷似している」として、「仮処分」という一時的な販売差止を命じたのです。そのため、両者はキャシーが本当に著作権侵害か、正式な裁判で争うことになりました。

 いかがでしょうか。確かに似ているといえば……似ています。もちろんミッフィーの方が先に有名になってサンリオはそれを知っている訳ですから(ハローキティの誕生は1974年)、偶然似たということはない。とすると読者の皆さん、これはクロだと思いますか?「クロ」とは、著作権侵害だということです。その場合、キャシーはいわば存在を許されません。

 実はこの裁判もこれまで随分色々なところで紹介してきました。受講者に二手に分かれて「模擬裁判」をやってもらったこともあります。すると、両陣営ともかなり真剣に(ムキに)なって議論しますから、色々な論点が出てきます。まずはクロ派の言い分を聞いてみましょう。

 「どっちも白い」「どっちも耳が長い」というのもありましたが、まぁさすがに当たり前なので度外視します。真っ先に挙がる点が、どちらもウサギが直立している【1】。服を着て擬人化されている【2】。なるほど、気づきませんでした。確かにそうですね。

 しかし、これに対してキャシー・シロ派から反論がありました。いや、動物が擬人化されて立っているのもキャラ系ではもう当たり前だろう。「ひこにゃん」なんて服どころか兜かぶってるぞ。クロ派は言い返します。それは最近の話であって、元祖はミッフィーなんだ。サンリオはそもそも「擬人化」を真似したんだ。

 ふむ。動物が直立して服を着る元祖はミッフィー……そうでしょうか。

 ……あ、いましたね。直立して服を着た有名なウサギ。


鳥獣戯画(12~13世紀)

 なんだか色々いますね。擬人化動物は。

 そこでシロ派は勢いづきます。「ミッフィー以前にあるじゃないか。動物の擬人化なんて、ありふれてるよ。ありふれた要素は著作物に含まれないって言ってたよね?じゃあ、その点が共通してても問題ないんじゃないの?」と。

 その通りです。ありふれた要素や、あるいはアイディアのレベルで似ていても、著作権侵害にはあたりません(連載第2回第3回参照)。そして、これは「盗作だ」と訴えられた裁判で被告になった側の、かなりオーソドックスな言い分です。

 確かに、この点ではキャシー・シロ派の分が良さそうです。しかし、とクロ派は続けます。単に洋服を着てるだけではないぞ。どちらもワンピースじゃないか【3】。ということは設定は女性だ。しかもどっちも丸エリじゃないか!【4】。なるほど、単なる擬人化を超えて服のセレクトまで似ていますね。これはどうなのか。

 シロ派は反論します。じゃあ体型と年齢を見てくれ。キャシーは(耳を除けば)2頭身以上あって、いわば少女だ。だからワンピースを着ている。リボンもある!でもミッフィーは1.5頭身強しかない。耳を入れたらそれ以下だ。せいぜい幼児だ。だいたい着てるのは本当にワンピースなのか。これはスモックだろう。(※幼稚園児のよく着るあれですね)。そもそもミッフィーは女の子なのか?とシロ派はたたみかけます。まだ性的に未分化だ。一方キャシーは明らかに少女だ。その点は、むしろミッフィーとキャシーの大きな相違点じゃないか。

 キャシー・シロ派の攻勢が続きますね。クロ派は最後の反撃を試みます。いや、手足の形状を見てくれ【5】。単なる擬人化だけじゃなくて、思い切って単純化している。さらに目をみてくれ。目が離れて、しかも点だ【6】。つまりこうした単純化のテイストこそミッフィーの独創であって、写実的なピーターラビット等とは異なる。その点はキャシーも全く同じじゃないか。そもそも「キャラっぽい思いきった単純化」というブルーナの革新性を、サンリオは真似したんじゃないか。

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