第十四「カフィズマ」


第百一聖詠[編集]

困苦の人の祈祷、其の憂いて主の前に己の哀情を傾くる所。

主よ、我が祷を聴き給へ、願はくは我が呼ぶ聲は爾に至らん。

爾の顔を我に匿す毋れ、我が憂いの日に爾の耳を我に傾け給え、我が爾に呼ばん日に速やかに我に聴き給え、

蓋我が日は煙の如く消え、我が骨は燃え杭の如く焚かれたり、

我が心は撃たれて、草の如くに枯れ、我我が餅を食らうを忘るるに至る、

我が呻吟の聲に依りて我が骨は我が肉に貼けり。

我は野に在る鵜の如く、荒舎に在る木菟の如くなれり、

我が眠らずして坐するは、屋根に在る離れ鳥の如し。

我が敵は日々に我を謗り、我を恨む者は我を指して誓う。

一〇我は灰を餅の如くに食らい、我が飲み物に涙を和う、

一一爾の怒りと爾の憤りに因りてなり、蓋爾嘗て我を挙げ、復我を墜せり。

一二我が日は傾ける日陰の如く、我が枯れしこと草の如し。

一三唯主よ、爾は永く存す、爾の記憶するは世々に在り。

一四爾起きて憐れみをシオンに垂れん、蓋此を憐れむ時至れり。蓋時来れり、

一五爾の諸僕は其の石をも愛し、其の塵をも惜しめばなり。

一六諸民は主の名を畏れ、地上の諸王は爾の光榮を畏れん。

一七蓋主はシオンを建てて、己が光榮の中に顕れん、

一八頼り無き者の祷を顧みて、其の願いを軽んぜざらん。

一九是れ後の世の爲に記されん、未来の民は主を崇め讃めん、

二〇蓋彼は其の聖なる高き所より俯し臨み、主は天より地を鑑みたり、

二一俘の呻吟を聞きて、死の子を解かん爲、

二二彼等が主の名をシオンに伝へ、其の誉れをイエルサリムに伝へん爲なり、

二三是れ諸民諸国が均しく集まりて、主に事えん時に在り。

二四彼は途中に於いて我が力を弱くし、我が日を短くせり。

二五我謂えり、我が神よ、我が日の半ばに於いて我を取り上ぐる毋れ。爾の年は世々に在り。

二六主よ、爾初めに地を基づけたり、天も爾が手の造工なり。

二七此等は亡びん、然れども爾は永く存す、此等は皆衣の如く古び、爾衣服の如く之を更え、此等は易らん、

二八然れども爾は易らず、爾の年は終わらざらん。

二九爾の諸僕の子は生き存らえ、其の裔は爾が顔の前に堅く立たん。

第百二聖詠[編集]

ダワィドの詠。

我が霊よ、主を讃め揚げよ、我が中心よ、其の聖なる名を讃め揚げよ。

我が霊よ、主を讃め揚げよ、彼が悉くの恩を忘るる毋れ。

彼は爾が諸々の不法を赦し、爾が諸々の疾を癒す、

爾の生命を墓より救い、憐れみと恵みとを爾に冠むらせ、

幸福を爾の望みに飽かしむ、爾が若返えさるること鷲の如し。

主は凡そ迫害せらるる者の爲に義と審判とを行う。

彼は己の途をモイセイに示し、己の作爲をイズライリの諸子に示せり。

主は宏慈にして矜恤、寛忍にして鴻恩なり、

怒りて終わりあり、憤りを永く懐かず。

一〇我が不法に因りて我等に行わず、我が罪に因りて我等に報いず、

一一蓋天の地より高きが如く、斯く主を畏るる者に於ける其の憐れみは大いなり、

一二東の西より遠きが如く、斯く主は我が不法を我等より遠ざけたり、

一三父の其の子を憐れむが如く、斯く主は彼を畏るる者を憐れむ。

一四蓋彼は我が何より造られしを知り、我等の塵なるを記念す。

一五人の日は草の如く、其の榮ゆること田の華の如し。

一六風之を過ぐれば無きに帰し、其の有りし處も亦之を識らず。

一七唯主の憐れみは彼を畏るる者に世より世に至り、

一八彼の義は其の約を守り、其の誡めを懐いて、之を行う子々孫々に及ばん。

一九主は其の寶座を天に建て、其の国は萬物を統べ治む。

二〇主の諸々の天使、能力を具え、其の聲に遵いて其の言葉を行う者よ、主を讃め揚げよ。

二一主の悉くの軍、其の旨を行う役者よ、主を讃め揚げよ。

二二凡そ主の悉くの造工よ、其の一切治むる處に於いて主を讃め揚げよ。我が霊よ、主を讃め揚げよ。

光榮讃詞

第百三聖詠[編集]

(ダワィドの詠。世界創造の事なり。)

我が霊よ、主を讃め揚げよ、主我が神よ、爾は至りて大いなり、爾は光榮と威厳とを被れり。

爾は光りを衣の如くに衣、天を幔の如くに張る、

水の上に爾の宮を建て、雲を爾の車と爲し、風の翼にて行く。

爾は風を以て爾の使者と爲し、焔を以て爾の役者と爲す。

爾は地を固き基に建てたり、此れ世々に動かざらん。

爾は淵を以て衣服の如くに之を覆えり、山の頂に水立つ。

爾の恐嚇に依りて此れは奔り、爾の雷の聲に由りて速やかに去る。

山に升り、谷に降り、爾の此れが爲に定めし處に至る。

爾界を立てて之を踰えざらしむ、反りて地を覆わざらん。

一〇爾は泉を谷に遣わせり、山の間に水は流れ、

一一野の諸々の獣に飲ましむ、野の驢馬は其の渇きを止む。

一二空の鳥は其の傍らに棲み、枝の間より聲を出す。

一三爾は上なる宮より山を潤し、地は爾の造工の果にて飽き足れり。

一四爾は草を獣の爲に生ぜしめ、野菜を人の需めの爲に生ぜしめて、地より食物を出さしむ。

一五酒は人の心を楽しませ、膏は其の面を潤し、餅は人の心を養う。

一六主の樹、其の植えたるリワンの栢香木は飽き足れり、

一七鳥は其の上に巣を造る、松は鶴の棲處たり、

一八高き山は鹿の爲、磐石は兎の避所たり。

一九主は月を造りて時を定め、日は其の入る處を知る。

二〇爾暗闇を布けば、則夜あり、其の時林の獣皆出で廻る、

二一獅子は獲物の爲に吼えて、其の食を神に乞う。

二二日出づれば、彼等集まりて己の穴に伏す。

二三人は其の工作の爲に出で、労きて暮れに至る。

二四主よ、爾の工業は何ぞ多き、皆智慧を以て作れり、地は爾の造物にて満ちたり。

二五夫の大にして広き海、彼處には無数の動物、大小の生物あり、

二六彼處には舟通い、彼處には彼の大魚あり、爾造りて其の中に遊ばしむ。

二七彼等は皆爾が時に随いて食を与うるを待つ。

二八之に与うれば受け、爾の手を開けば賜に飽かさる、

二九爾の顔を隠せば惶れ惑い、其の気を取り上ぐれば死して塵に帰る。

三〇爾の気を施せば造られ、爾は又地の面を新たにす。

三一願わくは光榮は世々に主に在らん、願わくは主は己の造工の爲に楽しまん。

三二彼地を観れば、地震い、山に触るれば、煙起つ。

三三我生ける中主に歌い、世を終わるまで我が主に歌わん。

三四願わくは我が歌は彼に悦ばれん、我主の爲に楽しまん。

三五願わくは罪人等は地より消え、不法の者は存するなけん。我が霊よ、主を讃め揚げよ。

光榮讃詞

第百四聖詠[編集]

主を讃榮せよ、其の名を呼べ、諸民の中に其の作爲を宣べよ。

彼に謳い、彼に歌えよ、其の悉くの奇迹を伝えよ。

其の聖なる名を以て誇れ、主を尋ぬる者の心は楽しむべし。

主と其の力とを尋ね、常に其の顔を尋ねよ。

其の行いし奇迹と其の休徴と、其の口の裁定とを記憶せよ。

爾等アウラアムの裔は其の僕なり、イアコフの子は其の選びし者なり。

彼は主、我等の神なり、其の裁定は全地にあり。

彼永く其の約を記憶す、即千代に戒め、

アウラアムに命ぜし言葉、イサアクに与えし誓いなり。

一〇彼亦之を立てて、イアコフの爲に法となし、イズライリの爲に永遠の約となして云えり、

一一我爾にハナアンの地を与えて、爾が業の分となさんと。

一二彼等の数は尚少なく、甚だ少なくして、彼等が其の地に旅をなし、

一三此の民より彼の民に移り、此の国より他の族に移りし時、

一四主は誰にも彼等を侵すことを許さざりき、彼等の爲に諸王に禁じて云えり、

一五我が膏つけられし者に触るる毋れ、我が預言者に悪をなす毋れと。

一六彼又飢饉を地に召して、穀類の茎を悉く絶やせり。

一七彼等の前に人を遣わし、イオシフ売られて僕となれり。

一八枷を以て其の足を締め。其の霊は鉄に入りて、

一九主の言葉の験を得るに及べり、主の言葉彼を試みたり。

二〇王は人を遣わして彼を釈き、諸民の宰は彼を自由にせり、

二一彼を立てて其の家の宰となし、其の悉くの領地を治むる者となして、

二二彼に己の意に随いて王の臣を導き、其の長老に智慧を誨えしめたり。

二三其の時イズライリはエギペトに来たり、イアコフはハムの地に移れり。

二四神は甚だ其の民を殖やし、彼を其の敵より強からしめたり。

二五敵の心に其の民を疾ましめ、悪謀を以て其の諸僕を待たしめたり。

二六其の僕モイセイ、其の選びしアアロンを遣わせり。

二七斯の二人はハムの地に於いて、其の休徴の言葉と其の奇迹とを彼等の中に示せり。

二八主は闇冥を遣わして晦くせり、彼等其の言葉に背かざりき。

二九彼等の水を血に変じ、其の魚を滅ぼせり。

三〇其の地は多くの蛙を生じたり、其の王の室にも之あり。

三一主言葉を発したれば、諸々の虫来たり、虻は悉くの境に至れり。

三二雨に代えて彼等に霰を降らし、灼く火を其の地に遣わせり。

三三其の葡萄と無花果とを撃ち、樹を其の境に折れり。

三四言葉を発したれば、蝗と蒼虫とは数え難く来たりて、

三五其の地の草を蝕み盡し、其の田の実を蝕み盡せり。

三六主は其の地の悉くの首生の者、即其の力の始めを撃てり。

三七イズライリ人を導き、金銀を携えて出でしめたり、支派の中に病む者なかりき。

三八エギペトは彼等の出ずるを喜べり、蓋彼等を懼るる懼れは之に及べり。

三九主は雲を布きて彼等の蓋いとなし、火を施して彼等の爲に夜間の光りとなせり。

四〇彼等求めたれば、主は鶉を遣わし、且つ天の糧を以て彼等を飫かしめたり。

四一石を裂きたれば、水は流れ、乾ける處に河の如く流れたり。

四二蓋彼は其の僕アウラアムに与えし其の聖なる言葉を記憶して、

四三其の民を引きて歓びて出でしめ、其の選びし者を引きて楽しみて出でしめ、

四四彼等に諸民の地を賜えり。彼等は異邦の労を嗣ぎたり、

四五主の律に遵い、其の法を守らん爲なり。

光榮讃詞