政府は、現在Windowsが主流である政府内のパソコンやサーバー機器のOSを、LinuxなどのオープンソースOSに移行する検討を始めた。現時点では表だった省庁横断的な取り組みはなく、全省庁での全面採用を決めたわけでもない。ただし水面下では全面採用へ向けた動きが見え隠れする。

表●オープンソースに関する来年度予算の概算要求
 「電子政府の基本ソフト、脱ウィンドウズへ」――。11月16日付の朝日新聞に衝撃的な見出しが踊った。これだけ見ると、政府内のパソコンやサーバーに搭載されている主流OSのWindowsは排除されることが決まったように思える。しかし本誌の取材によると、政府が表だって省庁横断的にオープンソースOSの導入を推進したり、オープンソースOSの全面採用を決めたという事実はない。

 政府のオープンソースOS採用に関する事実は三つある。すべて今年8月におおやけになっている。一つ目は、自民党のe-Japan重点計画特命委員会が8月に政府へ提出した「電子政府に関する申し入れ」で、「オープンソースOSの開発・導入を推進すること」と提言していること。二つ目と三つ目は、総務省と経済産業省が8月に提出した来年度予算の概算要求で、それぞれオープンソース・ソフトウエアの政府内導入を検討するための予算を計上していることである([拡大表示])。両省の動きを関連づけるのは、e-Japan特命委員会の提言のみである。

 総務省は年明けにも、学者や業界関係者などで構成する研究会を発足。早ければ来年4月からオープンソースOS導入のメリットとデメリットをセキュリティの観点から調査する。「マイクロソフトにも参加してもらい客観性を保つ」(情報通信政策局 情報流通振興課の河内達哉課長補佐)としている。

 経済産業省は、独立行政法人の産業技術総合研究所(産総研)でのオープンソースのOSやアプリケーションの導入を進め、セキュリティや運用コストへの影響を検証する。11月中に準備を始め、来年4月から実際の導入作業を進める。また予算のなかからオープンソース・ソフトの研究開発や普及促進を進めるコミュニティへの援助資金も捻出(ねんしゅつ)する。「産総研のなかでコミュニティの人に作業をしてもらってもよい」(商務情報政策局 情報処理振興課の久米孝課長補佐)。こうした動きの背景には、世界各国でオープンソースOSの政府内導入が進んでいることがある。特に欧州では、英仏独の3カ国をはじめ、オープンソースOSの全面的な政府内導入を表明する国が多い。

 日本政府は現時点では、オープンソースOSの全面採用を否定している。しかし水面下では動きが出始めている。本誌の取材で、オープンソースOSの全面採用に関する省庁横断的な勉強会が非公式に催されていることが分かった。「中身が分からない外国産OSに政府の基幹システムが依存して良いのか、という思いがある。そもそもe-Japan重点計画には、大量の予算を民間へ回す“公共事業”的な思惑もあった。現状は、マイクロソフト、オラクルなどへのライセンス料が大半を占めている。これも何とかしたい」(関係者)。政府内には、こうした「脱Windows」の声が根強くあり、省庁間の横の連携もなされている。

 こうした声に対してマイクロソフトは警戒を強めている。今年10月には米本社の幹部が総務省や経産省、内閣官房室などを回り、Windowsのソース・コードを政府にのみ開示する意向を伝えた。しかし、「開示されたところで子細に分析できるスタッフが政府内にいないため、意味がないのでは」(総務省、経産省の担当者)と、政府の反応は冷たい。

(井上 理)