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 平成21年版 犯罪白書 第7編/第3章/第2節/2 

2 窃盗受刑者

(1)調査対象者の入所時の年齢層別構成

 調査対象の窃盗による受刑者の入所時の年齢層別人員を構成比で,男女別及び初入者と2入者の別に見ると,7-3-2-2-1図のとおりである。
 調査対象者合計510人のうち,男女別では,男子70.2%,女子29.8%,初入者と2入者の別では,初入者53.1%,2入者46.9%であり,入所時の平均年齢は,男子初入者40歳,男子2入者43歳,女子初入者45歳,女子2入者48歳であった。なお,その年齢構成は,平成20年における窃盗による入所受刑者の年齢構成とほぼ一致している。

7-3-2-2-1図 年齢層別構成比(男女別・入所度数別)

(2)窃盗事案の実態

 ア 手口
 7-3-2-2-2図は,調査対象者の受刑に係る事件(2入者については,2入の受刑に係る事件であり,以下,この節において「本件」という。)について,手口別構成比を,男女ごとに,初入者と2入者の別に見たものである。
 男子は,初入者では半数近くが万引きであり,侵入窃盗,置引きがこれに続いているが,2入者では,万引きは3割弱に低下し,侵入窃盗がそれに迫る比率となっているほか,乗り物盗,車上ねらい等の比率も上昇している。他方,女子は,初入者,2入者共に,万引きが約8割を占めている。

7-3-2-2-2図 手口別構成比(男女別・入所度数別)

 2入者について,本件の窃盗の手口ごとに,初逮捕(窃盗による初めての逮捕又は補導をいう。以下,この項において同じ。)時及び初入時の各事件に係る窃盗の手口との一致率を見ると,7-3-2-2-3図のとおりである。

7-3-2-2-3図 2入者の本件の手口の初逮捕・初入時の手口との一致率

 万引きでは,一致率が相対的に高く,特に,女子では,一致率は約9割となっている。また,いずれの手口においても,初逮捕時よりも初入時との一致率が高く,手口が徐々に固定化する傾向を見ることができる。
 
 以上のとおり,窃盗の手口は様々であり,かつ,男女間でその様相が大きく異なることから,窃盗の実態を見るときには,男女別・手口別に分析を行う必要がある場合があり,以下でも,必要に応じて,男女別・手口別の分析を行った。
 なお,万引き事犯者は,男子において,他の手口の者と比べて,入所時の知能検査の結果が低く(平均IQ相当値:万引き75,万引き以外83),また,男女共に,何らかの精神障害を抱えている者の比率が,他の手口の者と比べて高かった(男子:万引き6.2%,万引き以外1.9%,女子:万引き20.5%,万引き以外13.3%)。

 イ 初窃盗から本件での入所に至るまでの経緯
 7-3-2-2-4図は,初窃盗(未発覚のものも含め,初めて盗みを行った経験をいう。)時,初逮捕時及び初入時並びに2入者の2入時の平均年齢を,男女ごとに,初入者と2入者の別に見たものである。
 男女別では,全般的に,男子の方が低年齢であった。また,女子では,2入者は,初入者よりも,いずれの時点においても3〜4歳低年齢であった。

7-3-2-2-4図 初窃盗・初逮捕・初入・2入時の平均年齢(男女別・入所度数別)

 初窃盗時から本件による入所時までの平均年齢を,男女ごとに,本件の手口別に見ると,7-3-2-2-5図のとおりである。
 万引き事犯者の平均年齢は,男女共に,全般的に,他の手口の者よりも高く,侵入窃盗事犯者の男子の平均年齢は,いずれの時点においても低かった。

7-3-2-2-5図 初窃盗・初逮捕・初入・2入時の平均年齢(男女別・手口別)

 ウ 少年時逮捕歴
 少年時の逮捕歴の有無を,男女ごとに,初入者と2入者の別に構成比で見ると,7-3-2-2-6図のとおりである。
 男子では,約6割に少年時の逮捕歴があり,約半数に窃盗の逮捕歴があった。女子でも,少年時に逮捕歴のある者が3割強いた。また,初入者と2入者を比べると,男女共に,2入者は,少年時の逮捕歴を有する者の比率が高かった。

7-3-2-2-6図 少年時逮捕歴別構成比(男女別・入所度数別)

 エ 窃盗の頻度,再開までの期間
 窃盗受刑者の犯罪性向の深度を示すものとして,2入者に限って,本件時における窃盗の頻度を初逮捕時の頻度との関連で見るとともに,初入後に釈放されてから窃盗を再開するまでの期間を初逮捕後に釈放されてから窃盗を再開するまでの期間との関連で見ると,7-3-2-2-7図及び7-3-2-2-8図のとおりである。
 本件時の窃盗の頻度及び初入後に釈放されてから窃盗を再開するまでの期間は,多様であるが,本件時の窃盗の頻度は,初逮捕時の頻度とほぼ同じ程度の者が多く,また,窃盗の再開期間も,初逮捕後の再開期間とほぼ同じ程度の者が多かった。

7-3-2-2-7図 窃盗頻度(初逮捕時と本件時)

7-3-2-2-8図 窃盗再開までの期間(初逮捕後釈放・初入後釈放)

 オ 窃盗の直接的動機,背景事情
 7-3-2-2-9図は,本件の窃盗の直接的動機及びその背景事情を,男女別・年齢層別に,選択率(質問項目ごとに,該当すると回答した者の比率をいう。ここでは,「生活費困窮」,「就職難」等が直接的動機又は背景事情であったと回答した者の比率である。以下,この節において同じ。)で見たもの(選択率が高い項目に限って示した。)である。
 直接的動機については,男女共に,年齢層に関係なく,「生活費困窮」の選択率が最も高かった。これに次いで,男子では「遊興費欲しさ」,女子では「節約」,「ストレス解消」,「盗み癖」の選択率が,全年齢層で比較的高かった。また,男女共に,相対的に若い年齢層では「楽に稼げる」が,中間層では「借金返済」が上位に入っている。さらに,男子では,30歳代までの層では「友人知人の誘い」が上位に入っているが,年齢層が上がるにつれ,これに代わり,「アルコールの作用」や「節約」が上位に入っている。
 犯行の背景事情については,男女で様相が大きく異なる。男子では,生活費の困窮につながる就職・収入の問題や住居不安定であったことの選択率が高く,また,「ギャンブル耽溺」,「過度の飲酒」,「不良交友」等の生活の乱れをうかがわせる項目が上位に入っている。一方,女子では,収入の問題と同程度に,家族(交際相手を含む。)とのトラブルの選択率が高く,また,「体調不良」も上位に入っている。

7-3-2-2-9図 直接的動機・背景事情の選択率(男女別・年齢層別)

 次に,本件の直接的動機を男女別・手口別に見ると,7-3-2-2-10図のとおりである。
 万引きでは,全般的に,「生活費困窮」に次いで「節約」の選択率が高いが,女子の2入者では,「節約」は,「生活費困窮」よりも選択率が高い。また,男子の万引きでは,「アルコールの作用」が上位に入っている(なお,男子の万引きでは,盗品の種別においても「酒類」の比率が22.7%と高い。)。さらに,2入者では,「盗み癖」の選択率が高かった(男子14.9%,女子28.3%)。
 万引き以外の手口の窃盗では,男子において,「遊興費欲しさ」の選択率がかなり高く,また,万引きと異なり,「楽に稼げる」,「借金返済」,「友人知人の誘い」が上位に入っている。

7-3-2-2-10図 直接的動機の選択率(男女別・手口別)

 本件の背景事情を男女別・手口別に見ると,7-3-2-2-11図のとおりである。
 男子では,背景事情として,就職・収入の問題や住居不安定に次いで,万引きでは飲酒の問題が,万引き以外ではギャンブル耽溺や不良交友が上位に入っている。女子でも,万引き以外では,ギャンブル耽溺や違法薬物使用等が上位に入るなど,万引きとは多少異なる傾向が見られた。

7-3-2-2-11図 背景事情の選択率(男女別・手口別)

 カ 本件時の居住状況
 本件犯行時の居住状況を,男女ごとに,初入者と2入者の別に構成比で見ると,7-3-2-2-12図のとおりである。
 男子は,自宅等で単身生活を送っていた者の構成比が3割を超えて最も高く,また,2割近くが住居不定・ホームレスの者であった(なお,手口別に見ると,侵入窃盗では,住居不定・ホームレスの者の構成比は,約8%にとどまっているが,これ以外の点では,傾向に大きな違いはなかった。)。他方,女子は,家族と同居していた者の構成比が約5割と最も高かった。
 また,2入者は,初入者と比べ,男女共に,家族等と同居している者の構成比が低く,自宅等で単身生活を送っていた者の構成比が高かった。

7-3-2-2-12図 居住状況別構成比(男女別・入所度数別)

(3)窃盗事犯者の意識等

 窃盗の頻度や窃盗の再開までの期間は,窃盗事犯者の犯罪性向の深度を表すものの一つである。ここでは,調査対象者を,初入者と2入者の別のほか,本件時の窃盗の頻度及び本件直前における窃盗の再開までの期間ごとに,それぞれ,2群に区分(頻度に関しては,月3回以下と月4回以上に,再開期間に関しては,1年以下と1年を超えるものに区分した。)し,これらの区分ごとに,調査対象者の窃盗や自己イメージ等に関する意識についての回答結果を分析した。

 ア 初窃盗の感想
 本件時の窃盗の頻度により区分した群ごとに,調査対象者が初窃盗時に抱いた感想を選択率で見ると,7-3-2-2-13図のとおりである。
 窃盗頻度が高い層においては,初窃盗時に,「うまくできて『やった!』と思った」,「簡単に盗めたのが意外だった」という感想を抱いた者の比率が高く,「やったことを後悔した」,「周りの人に叱られて嫌だった」という感想を抱いた者の比率が低い。初窃盗時に窃盗を成功体験ととらえた者は,犯罪性向を深めさせる傾向がうかがわれる。

7-3-2-2-13図 初窃盗時の感想(窃盗頻度別)

 イ 窃盗に関する意識等
 初入者と2入者の別並びに本件時の窃盗の頻度及び窃盗の再開までの期間により区分した群ごとに,調査対象者の窃盗や自己イメージ等に関する意識についての回答の傾向を見ると,いくつかの質問項目において,回答結果に顕著な差が見られた。そうした質問項目の例を挙げると
 A「窃盗がうまくいったときは,ある種の達成感がある。」,「盗みをするときのスリル感が好きだ。」(窃盗に喜びなどの肯定的感情があることを意味している。)
 B「自分は,反省したことや決心したことを忘れてしまいやすい。」,「自分は,目の前のことばかりに注意を奪われやすく,後先のことに目が向きにくい。」(自制心等が弱いことを意味している。)
 C「自分と同じような育ち方をすれば,多くの人が窃盗事件を起こすと思う。」,「今の世の中は,盗みをしたくなるような誘惑が多い。」(責任転嫁の傾向があることを意味している。)
 D「窃盗を繰り返すたびに,自分のことを情けなく思う気持ちが強くなっている。」,「盗みをするとき,被害者のことを考えて盗むのをやめようかと思うことがある。」(窃盗に抵抗感があることを意味している。)
 である(なお,これらの質問項目のほかにも,回答結果の差に同様の傾向が見られた類似の質問項目もある。)が,以下では,前記の調査対象者の群ごとにこれらの質問項目に対する回答結果の差を紹介する。なお,7-3-2-2-14図は,そのうち,調査対象者の群及び質問項目における一例を示したものである。
 まず,初入者と2入者の別では,男子で,初入者において,Dの質問(抵抗感あり)に「そう思う」又は「まあそう思う」と回答(以下,この節において,こうした回答を「肯定回答」という。)した者の比率がやや高く,女子で,2入者において,A(肯定的感情)及びC(責任転嫁)の質問に肯定回答した者の比率がやや高い。
 窃盗の頻度による区分では,高頻度の者の群において,C(責任転嫁)の質問に肯定回答した者の比率が高く,低頻度の者の群において,D(抵抗感あり)の質問に肯定回答した者の比率が高い。また,高頻度の者の群において,Aの質問(肯定的感情)に肯定回答した者の比率がやや高い。
 再開までの期間による区分では,短期間の者の群において,A(肯定的感情)及びB(自制心薄弱)に肯定回答した者の比率が高く,長期間の者の群において,D(抵抗感あり)の質問に肯定回答した者の比率がやや高い。

7-3-2-2-14図 窃盗等に関する意識 回答別構成比

 ウ 改善更生のための処遇等に関する意識(2入者)
 7-3-2-2-15図は,2入者に限って,初入時に受けていれば更生に役立ったと考える助言・指導等についての回答結果を,男女別に,選択率の高い順(上位9項目)に見たものである。
 男女共に,就職(男子48.8%,女子30.8%),事件のこと(男子20.4%,女子48.1%),家族関係(男子27.2%,女子44.2%),職業訓練や資格・免許の取得(男子33.3%,女子36.5%)に関する助言・指導等の選択率が高く,「被害者のこと」(男子19.8%,女子26.9%)も上位に入っている。また,男子では,住居(26.5%),交友関係(16.0%),女子では,医療関係(21.2%),異性関係(15.4%)に関する助言・指導等も上位に入っている。

7-3-2-2-15図 更生に役立つと思う助言・指導等(男女別)

 7-3-2-2-16図は,受刑を経てもなお再犯に至った2入者が更生に失敗し再犯に陥った原因を探るため,初入後に釈放されてからの更生のための取組状況についての2入者の主な回答結果を,選択率で男女別に見たものである。
 男女共に,「まじめに働く」ことが更生のために必要であると考えていた者の比率が最も高く,これらの者のうち,実行できたと回答した者は半数を超えているが,実行できなかったと回答した者も相当多い。このほか,「住居を定める」,「規則正しい生活をする」,「浪費や借金をしない」ことが必要であると考えていた者の比率が高く,そのうち,「規則正しい生活をする」については,実行できなかったと回答した者が実行できたと回答した者よりも多い。また,女子では,「困ったときは周りの人に相談する」ことが必要であると考えていた者の比率が相当高いが,そのうち,実行できたと回答した者の比率は相当低い。

7-3-2-2-16図 更生のための取組状況(男女別)

(4)まとめ

 この章の冒頭にも記したように,窃盗は,同一罪名の犯罪を繰り返す傾向が高いが,窃盗の手口別に見ても,万引きでは,同一の手口の犯行を繰り返す傾向が高く,また,再犯を重ねるにつれて,手口が固定化する傾向もうかがわれた。
 男子では顕著ではないものの,女子では,2入者は,初入者よりも,初窃盗時から受刑に至るまでの各段階で平均年齢が低く,若年で窃盗を犯すようになった者ほど,再犯(再入)に陥りやすい傾向がうかがわれた。また,男女共に,2入者は,初入者よりも,少年時の逮捕歴を有する者の比率が高く,少年時から非行に及んでいる者は,再犯リスクが高い傾向もうかがわれた。さらに,同様の初入者と2入者の比較から,一人暮らしであることは,再犯リスクを高める要因となっていることもうかがわれた。
 初めて逮捕されたころの窃盗の頻度や,窃盗の再開までの期間の長短は,その後も,継続する傾向が見られた。
 窃盗の動機としては,生活費の困窮が最も多いが,これに次いで,男子では,遊興費に充てるため,女子では,節約や盗み癖による者が多かった。再犯を抑止するためには,就労の確保が重要であることは言うまでもないが,受刑者や出所者の更生意欲を喚起させるためには,犯行の動機や背景事情を考慮した上で,生活態度に関する指導を効果的に行うことも必要と思われる。