GQ DISCUSSION

地方創世もエンタメだ

時代の空気を敏感に読み取り、エンターテイメント界の第一線で活躍し続ける秋元康氏が、異業種において「時代精神」を体現する人物に斬り込む本連載。第7回は、今年NGT48が誕生する新潟県の泉田裕彦知事と熱く語ります。
新潟県知事・泉田裕彦氏×作詞家・秋元康「地方創世もエンタメだ」

時代の空気を敏感に読み取り、エンターテイメント界の第一線で活躍し続ける秋元康氏が、異業種において「時代精神」を体現する人物に斬り込む本連載。第7回は、今年NGT48が誕生する新潟県の泉田裕彦知事と熱く語ります。

Photos: Yozo Yoshio @ TAKIBI
Styling: Takashi Kumagai
Hair: Hiromi Hasegawa
Text: Keishi Iwata @ GQ
Illustration: Yusuke Saito

泉田裕彦新潟県知事1987年に通産省(当時)入省。経済産業省大臣官房付けを経て、2004年に新潟県知事就任。現在、3期目を迎える。秋元康作詞家美空ひばり「川の流れのように」をはじめ、数多くのヒット曲を生む。テレビ番組の企画構成、映画、CMやゲームの企画など、多岐にわたり活躍中。
直前に知ったNGT48の誕生

泉田知事 NGT48ということで、新潟が選ばれたことは正直、驚きのニュースでしたね。県政課題がいろいろあるなか、定例の記者会見でNGT48についても聞かれました。

秋元康 実は僕も、直前まで知りませんでした。10月に劇場オープンの予定で、NGT48をやることに決まったのが1月。スタッフが“間に合いますかね”と聞いてきて、「エッ、新潟?」と僕も驚いたほど。世間の噂通り、僕もずっと札幌か沖縄だと思っていましたから。

泉田 新潟にとってはうれしいニュースでした。地方創生のチャンスになりうるな、と思いました。エンターテインメントと経済および、地域振興は大いに関係があるんですね。サッカーを例にとると、私が小さいときは新潟はサッカー不毛の地と言われていました。雪のないところでやるスポーツだから、というわけです。ですから、日本代表の選手が出るのは静岡県と決まっていました。しかし2001年に、新潟にもデンカビッグスワンスタジアム(※1)ができて、動員数もそれなりにあります。そして、とうとう新潟から日本代表が選ばれるまでになりました。

秋元 スポーツ以外のエンターテインメントはどうでしょう?

泉田 1979年の大阪万博のころまででしたら新潟は国民的大歌手の三波春夫(※2)さんを生んでいます。外国人が喜ぶ観光スポット(※3)もあります。まず佐渡のたらい舟と、次に佐渡の金の川での金掬い、そしてもうひとつは芸妓さんを呼べる日本料理店ですね。

秋元 そういえば、京都の花柳界には新潟出身のかたが多いと聞いています。

泉田 新潟には、エンターテインメントを受け入れる素地があるんです。行政としても、NGT48は大歓迎。スタートはいつですか?

秋元 劇場は10月1日オープン予定で、近々オーデションの募集も始まるようです。僕は確実にあたると思いますよ。今や「AKB48」グループの専用劇場は秋葉原をはじめ、名古屋、大阪、福岡にあります。国内にはAKB48、SKE48、NMB48、HKT48があり、国外にJKT48(ジャカルタ)、SNH48(上海)があります。NGT48が期待できるのは、新しいタイプがたくさん応募すると予想しているからです。というのも、どの劇場でも、どうしても一期生に人気が集中するので、アイドル志望の子にとってはNGTは目標になるんです。加えて、立ち上げの時はファンの熱意もすごい。全国から集まってくると思いますよ。秋葉原のときは、熱烈なファンの方が近所に引っ越してきたり、転職したりしたファンの方もいました。そういう効果は新潟でも出る可能性は大いにある。

泉田 実はそれに関して、もう動きがあるんですよ。新潟には、ご当地アイドルのNegicco(※4)というグループがあります。今回の発表で、あらためて注目を浴びました。その彼女たちが先日、NHKホールに呼ばれて、しかもPerfumeと共演したんです。県内でも引っ張りダコになっています。これで、NGT48が盛り上がると、新潟のエンタメ界に革命が起きるかもしれない。いまはその前夜みたいな感覚ですね。

秋元 Negiccoは素敵なグループですね。ライバルというより、後発のNGT48が一緒に新潟を盛り上げさせていただければと思います。いつの時代もそうですが、ライバルや同業者がいたほうが盛り上がります。80年代にあれだけアイドルが売れたのは、エンタメ界にアイドルがたくさんいたからです。

泉田 新潟では個を伸ばす教育を重視しているんです。県立高校の音楽科に2012年からコンサートと公開レッスンを基軸にした「ロシアンメソッド専攻」を設けたりして、能力の高い人はロシアに研修に行けるプログラムも用意しています。芸能、エンターテインメント、歌という分野で才能を開花する人が現れるとうれしいですね。

NGT48の作り方

泉田 NGT48をどうプロデュースしようと考えているんですか?

秋元 売るためのプロデュースはしていないんです。NGT48でしか生まれなかったような個性ができてきて、それがドミノのようにほかの子たちに波及していく──、そういうものをどう創るかということだと思います。不思議なもので、劇場がオープンして半年ぐらいすると、“NGT48とはこれだ”というカラーができてくるものです。名古屋のSKE48は体育会みたいにダンスが上手なグループになりました。HKT48は末っ子で、本当に素朴な元気いっぱいの若い子たちのグループです。そこに指原莉乃のようなプレイングマネージャーがいるので、あおり方がうまい。乃木坂46の場合は、あえて公式にライバルグループを作ったんですが、そうしたら、独自路線で一番おしゃれなグループになりました。どれも、僕がプロデュースして、こういうカタチをつけよう、としたわけではないんです。人が集まって、そこで生じる化学反応が何かを起こしたということです。

泉田 プロデューサーとして大切なことはなんですか?

秋元 化学反応を仕掛けることです。過酸化水素水に、二酸化マンガンを入れたら酸素がでますよね。でも、放っておけばやがて酸素は出なくなる。だから次々に、二酸化マンガンをいれて、過酸化水素水を足し、いかに酸素を出し続けるか、です。いま、一番面白いなと思っているのは、新潟とAKB48グループの化学反応。さらにもうひとつのファクターとして、Negiccoさんもいる。NGT48ができることでどんな状況が生み出されるのか。NGT48もNegiccoさんも、新しい状況を乗り越えたときに、2つのグループが一緒に歌っているかもしれない。それを両方のファンが泣きながら観ているかもしれない。と、そんな図が浮かびますが、どこへ向かうのかまったくわかりません。冒険する勇気を持つことがプロデューサーには一番大切なことです。

泉田 他のグループと対抗しながらNGT48としてのアイデンティティを作っていく……と。

秋元 そうです。NGT48ができることで何かが生まれます。雪が多いとか、美味しい食べ物があるとか、そういうこともふくめて、独特なNGT48という集団ができるはずです。

泉田 それはおもしろいですね。

秋元 AKB48グループはアイドルグループですが、メンバー全員にチャンスがあるから、みんなに夢がある集団なんです。AKB48グループに入って、アイドルになるのがゴールではなくて、ここを経由して政治家や作曲家など、異なったジャンルの世界にも踏み入れて欲しいですね。とにかく夢を持てる場にしたい。実際、憲法を暗記して、憲法学者と一緒に本を出したメンバーもいます。これからもそういう子が出てくるグループにしていくことが狙いです。

泉田 若い人に新しいレーンを提供する場ということですね。道はひとつじゃない、こういう生き方があってもいいというものを見せてもらえるのは、願ってもないことです。

秋元 AKBに入ってしばらくすると、ほとんどの子が「こんなに一生懸命になにかに取り組んだことは人生で初めてです」と言います。人間、夢を持ったらがんばれるんです。でも、ほとんどの若者たちはいま、夢を見つけていません。考えてみれば、僕たちだって、15、16歳のときに明確な夢なんか持っていませんでした。だから極端な話、みんながAKBのような場に入ってみたほうがいいと思っているんです。で、それぞれ道が違うから途中で辞めたっていい。「私はアイドルじゃない。でも衣装を作ることは楽しい」っていう発見をして、デザイナーの道を歩んでいく。NGT48に入ったけれども、やっぱり高校に戻って、専門学校などで勉強して保育士になりたいということになってもいい。とにかく、入ってみると一生懸命やることを学びます。新潟でもそうなればいいなと。

泉田 ますます期待が高まりますね。

秋元 メンバーによく言うんです。「夢は叶う。けれど、どういう叶いかたをするかはわからない」と。女優になって、高視聴率の連続ドラマのヒロインになれるかもしれないし、2時間ドラマの端役かもしれないし、舞台女優かもしれない。あるいは、劇団を運営する立場になって、バイトしながら舞台に立つのかもしれない。夢は手を伸ばした1ミリ先にあります。そんな手の届く近いところにあるのに、触れていないものだから、届かない感じがして、手をさげてしまう人が多いんですよね。あと1ミリだと気がつけばがんばるはずです。AKBに入ると、それに気づく。だから、夢を持ち続けられるんです。

エンタメ地方創成はできるのか

泉田 エンタメの力で地方創生をはかることについては、どうお考えになりますか。

秋元 僕は絶対にできると思っています。これからは地方の時代がくると感じています。なぜか。たとえばいま、平均的なのものは受け入れられなくなっています。テレビがいい例で、子供から大人まで楽しめるテレビ番組というようなものは、人気が落ちています。個々の時代になったんですね。最大公約数ではなく、最小公倍数で考える時代になりました。しかし、さまざまな地方創生の施策を見ていると、どれも核になるものがない。例えば、ある果物が特産品とすると、ジュースからジャムから、その果物を使った商品にしてしまう、でも、それって実は特産品のよさを希薄にしているんです。

泉田 わかります。

秋元 僕は喜多方ラーメンが好きですね。なぜかというと、ラーメンの本場でもないのに、喜多方ラーメンを作り上げたと聞いたので。ラーメン1本にしぼっているから核になる。だから、新潟らしさを大事にすることは当然だと思いますが、逆にいきなり、新潟がタコスの本場になってみるというようなことだってあると思うんです。なぜメキシコのタコスが新潟で有名なんだっていうことが、ひとつの核になる。これからは、そういう時代になっていくと思うんです。

泉田 すごく参考になります。新潟は四季それぞれの美しさがあるし、米と酒がなんといってもうまいところです。さらに、雪遊びまでできる。そこにNGT48が新潟で生まれると、雪国の良さをわかってもらえるいい機会になるかもしれません。川端康成の『雪国』ではありませんが、故郷としての強み、日本の文化の基盤みたいなものを、新潟は持っていると思っています。先日、ふるさと回帰支援センター(※5)で行っている”移住希望地域ランキング”が発表されましたが、新潟県は5位に躍進しました。機運が高まっていると思いたいですね(笑)。

秋元 しかし、あまり期待し過ぎてしまうと、かえって大変かもしれません。NGTに関しても、粛々と進めて、のちのち”意外といいね”って言われるくらいがちょうどいい。劇場が新潟にできて1年後、2年後には新潟が活性化すると僕は思っていますが、結果を見せて、意外といいよねという反応をもらえばいいのではないでしょうか。

泉田 よくわかります。期待値が高過ぎると、かなり成功しても“イマイチだった”ということになりかねません。不言実行ですね。初回公演、楽しみにしています!