2012.11.28

「マイルドなインフレ」を目指す「デフレ対策」の有効性についての論点整理---池田信夫氏、池尾和人氏との座談会を前に

〔PHOTO〕gettyimages

 次期総理の呼び声が高い安部晋三自由民主党総裁が積極的な金融緩和政策を推進する意向について強い発言を繰り返していることによって、「デフレ対策」を巡る金融政策について、世間の関心が高まっており、総選挙の争点の一つにもなっている。為替市場や株式市場は、早くも、「安倍首相」の政策を先取りして、円安・株高の方向に反応している。

 こうした状況下、来る12月4日(火曜日)の20時から、ニコニコ動画に於いて現代ビジネス主催で「デフレ対策」を中心とする経済政策について「激論! どんな政権が日本経済を救えるのか」と題した座談会が放映されることになった。出席者は、経済学者で(株)アゴラ研究所所長の池田信夫氏と慶応大学経済学部教授の池尾和人氏、それに筆者の3人だ。両氏には、これまでにもお目に掛かったことがある。

 池田氏について、筆者は、氏のブログやツイートの愛読者であり、しばしば有益な情報を受け取り、また、鋭い筆鋒(一つのスタイルであり、「芸」だ)を楽しんでいる。加えて、池田氏は、筆者の大学のゼミの先輩でもある。指導教官は、先般、安部晋三氏に激励のファックスを送った浜田宏一エール大学教授だ。池田氏を今回は「先輩」と呼ばせて貰うことにしよう。

 池尾氏は、金融政策・金融機関・投資理論に幅広く通じた金融分野の権威であり、筆者は、ご著書を読んだこともあるし、お話を伺う機会を持ったこともある。筆者にとって氏は、「池尾先生」というイメージなので、「先生」とお呼びする。お二人とも「イケ」がつくので「先輩」と「先生」で区別する。

「デフレ」ではなく「マイルドなインフレ」が望ましい

 筆者は網羅的に読んでいるわけではないが、ブログやツイッター等のメディアにおけるご発言から、先輩も先生も、安倍氏が述べているようなデフレ対策の効果に対して懐疑的であり、批判的でもあるようにお見受けする。他方、安部氏の言うような方向性の政策を仮に「広義の金融緩和政策」と呼ぶなら、筆者は、その推進に賛成だ。

 両氏と筆者の意見がどこで異なるのかについては、実際にお話してみて考えるべきかもしれないが、何について議論するといいのか、ある程度の論点整理をしておくことにする。

 先ず、大きな前提として、筆者は、「デフレ」ではなく、「マイルドなインフレ」(年率1%、2%、3%辺りの何れがベストかについては意見が分かれるとしても)が実現できれば、その方が「望ましい」と考えている。この点については、先輩も、先生も、反対はされないだろうと思う。

 問題は、(A)マイルドなインフレを政策によって実現することが可能か否か(B)仮に可能であるとした場合、その手段のコスト(この場合「弊害」)はインフレを実現することのメリットに見合うか、ということだろう。これらの点については、先輩・先生のご見解と筆者の(少なくとも現在の)理解に差があるように思われる。

 もう一つの前提として、筆者は、「マイルドなインフレ」を日銀単独で実現できるか否かについては政策の議論として「争う意味が乏しい」と考えている。

 仮に、日銀が株式やREITのようなリスク資産をさらに買うような政策が有効だとしよう。この政策は、日銀が資金を供給する金融政策としての側面と同時に、日銀の損得が政府の損得に反映するという意味で財政政策の側面も持っている。

 ここで、「これは金融政策だけでインフレを起こせるという主張を逸脱しており、金融緩和論は破綻した」と声高に主張するのも、これを拡大しない日銀だけを「自分のできることを全てやっていない」として責めるのも、生産的な議論とは言い難い。この点については、筆者も、日銀の能力を過剰に持ち上げておいてから、こき下ろすような議論はしないつもりだ。ちなみに、日銀の白川総裁も浜田ゼミの出身者だ(この際、「大先輩」とでも呼ぶか)。

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