出光興産と昭和シェル石油は2018年7月10日、19年4月1日に経営統合すると発表した。両社が合併で基本合意したのは15年7月だったが、出光創業家の反発で正式決定できずにいた。著名投資家の村上世彰氏が創業家の説得に入ったこともあって、出光経営陣にとってはようやく創業家の理解が得られた格好だ。

 両社の統合手続きではまず、19年3月29日に昭シェルを上場廃止にした後、同年4月に株式交換で出光が昭シェルを完全子会社にする。その後、両社は合併を視野に入れているようだ。7月10日に都内で開いた記者会見で、出光の月岡隆会長は「2050年、2100年以降も社会に必要不可欠といってもらえる会社に進化していきたい」と抱負を述べた。

統合会見で握手する出光興産の月岡隆会長(右)と昭和シェル石油の亀岡剛社長(7月10日、東京・千代田)
統合会見で握手する出光興産の月岡隆会長(右)と昭和シェル石油の亀岡剛社長(7月10日、東京・千代田)

 会見では、これまで統合反対の立場をとってきた出光創業家と統合について合意したことが公表され、両者で交わした合意書の中身も公開された。

 合意書に明記された創業家側の名前は2つある。1つは「日章興産」。出光家の資産管理会社で、出光興産名誉会長の出光昭介氏とその長男の正和氏が代表を務める。もう1つは長男の「出光正和」氏個人である。

 創業家と合意したという大まかな内容は、昭シェルとの株式交換に合意し、統合の可否を決議する臨時株主総会で賛成の議決権を行使することだ。これに加えて、出光が推薦する取締役5名のうち2名は創業家が推薦できること、出光による1200万株、550億円を上限とする自社株取得を公表すること、19年4月からの3カ年累計での最終利益目標5000億円のうち、50%以上を株主還元すること、などが創業家の賛成の条件になっている。

最後まで反対した次男

 15年7月に出光と昭シェルの両社が統合の方針を示して以来、3年もの間、出光の大株主である創業家は反対の姿勢を貫いてきた。ここにきて統合に至ったのは、昨年末から創業家のアドバイザーとして村上世彰氏が付き、創業家を説得したことで流れが変わったためだ。今年4月には創業家と出光経営陣の協議が再開。今回、合意した大株主として名前の出た正和氏はもちろん、日章興産が賛成の立場に変わったことから、代表を務める昭介氏も賛成に回ったと見られる。

 ここで気になるのは、同じく大株主であるはずの昭介氏の次男・正道氏の名前が出なかったことだ。

 会見で月岡会長は「ほかの創業家の大株主が賛成なのか反対なのか認識していない」と口を濁した。「すべてのステークホルダーの共同利益を考えた」と強調した月岡会長からすると奇妙に映る。出光関係者によると、「正道氏は反対の姿勢を貫いている。結論に納得がいかなかったのか、現在は出光社員の立場だが、7月末で出光も退職する」という。

 日章興産と正和氏の持株比率はそれぞれ13.04%と1.16%。「合計で14.2%の賛成をいただければ統合はいける」と出光の丹生谷晋常務は会見で説明した。出光株の1%ほどを保有する正道氏が反対に回ったとしても統合に支障はないという判断だ。

 創業家による会社の所有と経営の分離の難しさを改めて突きつけた今回の出光問題。最後は創業家の兄弟で意見が分かれる形で決着したが、「大家族主義」を掲げてきた出光の歴史を振り返れば、後味の悪さだけが残る。

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