インスタグラムの共同創業者2人は、こうして退任を決意した

インスタグラムの最高経営責任者(CEO)であるケヴィン・シストロムと、最高技術責任者(CTO)のマイク・クリーガーが退任する。ふたりの共同創業者はフェイスブックの拡大至上主義に嫌気が差していたとの話が出ているが、それを裏付けるさまざまな“証拠”が存在している。[2018.10.01 09:00、本文一部を修正]
インスタグラムの共同創業者2人は、こうして退任を決意した
インスタグラムの最高経営責任者(CEO)で共同創業者のケヴィン・シストロム。同じく共同創業者で最高技術責任者(CTO)マイク・クリーガーとともに退任する。PHOTO: AP/AFLO

インスタグラムの最高経営責任者(CEO)であるケヴィン・シストロムと、最高技術責任者(CTO)のマイク・クリーガーが離職することが決まった。共同創業者のふたりは、親会社であるフェイスブックのマーク・ザッカーバーグが経営方針に介入してくることに反発していたと報じられている。とにかく、さまざまな意味でひとつの時代に幕が下ろされることになるだろう。

これで多くの人に愛されている写真共有アプリを、親会社の“魔の手”から守ってくれる防御壁は破壊されたのだ。また、フェイスブックが打ち出そうとしていた「自分たちはさまざまな企業の集合」だというイメージにも、終止符が打たれるだろう。

つまり、もはやすべてはフェイスブック一色なのだ。今後は、フェイスブックの古参幹部で5月からインスタグラムの製品担当責任者も務めていたアダム・モセリが、同社のトップに就任するとみられている。

ザッカーバーグの矛盾

フェイスブックは2012年、約10億ドル(1,130億円)でインスタグラムを買収した。ザッカーバーグはこのとき、シストロムとクリーガーに対して「アプリは独立した運営を続けられる」と保証したという。ただ、『ニューヨーク・タイムズ』が報じた突然の辞職の背景にあったのは、両者の関係悪化だった。

InstagramFacebookでの写真の共有といった最近の製品アップデートをめぐる対立や「拡大戦略」、ユーザーベースの強化をめぐる意見の相違、「ザッカーバーグによる日常的な介入が度を越して増えていったこと」などが、問題になっていたとされる。フェイスブックが自社の製品開発にインスタグラムの開発費を流用しようとしたといううわさもある。

インスタグラムの共同創業者で最高技術責任者(CTO)のマイク・クリーガー。最高経営責任者(CEO)であるケヴィン・シストロムとともに退任する。PHOTO: SPORTSFILE/CORBIS/GETTY IMAGES

Instagramはフェイスブックのグループ内で、アクティヴユーザー数第4位を誇るアプリだ。2位のWhatsAppは、これまで常に個人情報の保護に細心の注意を払っていたが、6月に共同創業者のジャン・コウムとブライアン・アクトンがやはり突然、辞職した。理由はフェイスブックがデータ保護を軽視し、200億ドル(2兆2,600億円)を超える買収費用を回収するために、アプリへのターゲット広告の導入を執拗に求めたことだと言われている

ザッカーバーグが金儲けに躍起になっているという今回の報道は、データの不正利用などをめぐるさまざまな失態が明らかになるなか、必死にイメージ回復に務めるCEOというこれまでの印象とは矛盾する。サッカーバーグは昨年11月に行われた業績発表会で、投資家に対して「セキュリティ強化への投資を拡大しており、利益率に影響が出るだろう」と明言した。

「BuzzFeed」が3月に幹部社員による内部メモについて報じたときには、業績の拡大を最優先するという考え方を否定している。2016年のものとされるこのメモには、人々をつなぐことが絶対目標である以上、「問題のあるやり方でアドレス帳の情報を取得」しても構わないと書かれていた。

フェイスブックの拡大至上主義に嫌気?

ただ、「データ保護を重視する」というこの新しい経営理念は、高くついたようだ。立ち上げからわずか14年でキリスト教よりも“信者”を増やしたフェイスブックだが、業績の伸びは鈍化している。

7月に売上高とユーザー数の伸びが市場予想を下回る見通しであることを明らかにした直後には、直後には、株価が歴史的な急落をみせ、一夜にして時価総額が1,200億ドル(約13兆5,600億円)以上も下がった。株価は現在も低迷が続いている。

フェイスブックは業績見通しの悪化を発表した際に、インスタグラムの現状にも言及した。Instagramのアクティヴユーザー数は10億人を超え、2年前に導入した新機能「ストーリー」はこれまでに4億人が試している。広告主は200万に上り、グループの売り上げや利益の拡大に大きく貢献していると喧伝したのだ。

だとすれば、フェイスブックがInstagramユーザーの個人情報に触手を伸ばそうとするのは当然だろう。ユーザーの間では、FacebookとInstagramのアドレス帳などを統合するようにというメッセージが「信じられないくらいしつこい」ことが話題になっていた。

インスタグラムはフェイスブックと統合したおかげで、「独自路線を歩んだ場合と比べて2倍以上の速さで成長した」と、ザッカーバーグは主張する。こうした姿勢こそ、シストロムとクリーガーがフェイスブックから距離を置くことを決断した理由だと考えられている。共同創業者2人はフェイスブックの拡大至上主義に嫌気がさし、ザッカーバーグへの抵抗として辞職したというのだ。

“侵略者”としてのフェイスブック

WhatsAppのコウムとアクトンは、それぞれ9億ドル(1,016億円)と4億ドル(452億円)分の株式報酬を受け取ることを放棄してまで、フェイスブックから離れることにこだわった。アクトンはケンブリッジ・アナリティカによるデータ不正利用が明らかになった3月、Facebookのアカウント削除を呼びかける「#deletefacebook」運動に賛意を示している(なおイーロン・マスクはこのとき、「きちんと独立して運営されている限り、Instagramはたぶん大丈夫だと思う」とツイートし、Instagramのアカウントを削除する必要はないだろうとの持論を述べた)。

インスタグラムのふたりも離職時期を予定より早めたとの報道がある。Instagramでは友人のポストを再シェアする機能の導入が進められているが、ふたりはこの動きに強く反対していたようだ。

インスタグラムの最高経営責任者(CEO)であるケヴィン・シストロム(写真右)と、最高技術責任者(CTO)のマイク・クリーガー(写真左)。2012年の「Webby Awards」授賞式で。PHOTO: JASON KEMPIN/WIREIMAGE FOR THE WEBBY AWARDS/GETTY IMAGES

とにかく、ザッカーバーグがWhatsAppとInstagramこそ収益改善に向けた鍵だと考えている以上、共同創業者の離職によって、インスタグラムの「フェイスブックとは一線を画す」という姿勢は崩れざるをえないだろう。結局のところ、両社の間にはきちんと壁があるというアイデアは、規制当局をなだめすかし、ユーザーを煙に巻くための詭弁にすぎなかったのだ。

フェイスブックは2015年に「企業家族体」という新たな成長戦略を打ち出した。Facebookの個人情報の管理方針にも、「関連企業の活動の推進、サポートおよび統合、弊社サーヴィスの改善のために、グループ内でユーザーデータを共有することがあります」と記されている。

丁寧かつ穏やかな言葉遣いのため、「共有する」ことが実際には何を意味するのかを想像するのは困難だ。しかしいまや、“侵略者”としてのフェイスブックの真の姿が明らかになりつつある。ソーシャルメディアのユーザー数ランキングで上位に並ぶ4つのロゴ(Facebook、WhatsApp、Facebook Messenger、Instagram)は、実は4種類の別々のサーヴィスではない。究極的にはすべて、Facebookなのだ。

ストーリー機能の導入という功罪

遅きに失した感はあるが、欧州当局はこの事実に気づいている。欧州連合(EU)は2017年5月、フェイスブックに1億2,200万ドル(約138億円)の罰金を課した。理由はEU当局が2014年にWhatsAppの買収をめぐる調査をしていたときに、フェイスブックが不正確な情報を提供したためだ。

フェイスブックは当時、WhatsAppとFacebookのアカウントデータを統合するのは技術的に不可能だと説明していたという。しかしその2年後には、WhatsAppユーザーの電話番号とFacebookのアカウントを関連づけることを可能にするような利用規約の変更を行った。

フェイスブックはいったんは情報共有の計画を白紙に戻す方針を示した。しかし、WhatsAppも将来的には親会社へのデータ提供は避けられないだろう。

サッカーバーグがインスタグラムとWhatsAppにこだわるのは、業績改善のためだけでないことはもはや明らかだ。この2つのサーヴィスを抱えているからこそ、フェイスブックは業界で支配的な地位を保ち続けることができている。

だが、同時に逆のことも言えるのではないだろうか。ザッカーバーグがSnapchatの物まねと揶揄されながらもストーリー機能の導入を強引に進めなかったら、Instagramがこれだけの人気を得ることはなかっただろう。むしろ、いまや落ち目の感もあるSnapchatにその地位を脅かされていたのではないだろうか。

ケヴィン・シストロム(写真左)とマイク・クリーガー(写真右)はインスタグラムを立ち上げて15カ月後の2012年4月に、自社をフェイスブックに10億ドルで売却することになる。2011年4月撮影。PHOTO: AP/AFLO

業界アナリストのベン・トンプソンは、フェイスブックがインスタグラムを買収した2012年4月の時点で、今回の対立は予想されていたと指摘する。シストロムとクリーガーは自分たちのアプリをフェイスブックに売り払ったときに、ユーザーを増やし、ビジネスモデルを確立し、競合アプリと戦うというタスクもザッカーバーグに引き渡したのだ。

フェイスブックは、それから1カ月後の同年5月に上場した。トンプソンは自身のニュースレターに以下のように書いている。

「シストロムとクリーガーに離職を決断させた対立の具体的な内容が何であったにせよ、これが今回のできごとの文脈である。ふたりはインスタグラムの経営を管理する立場にはなかった(なぜなら収益化に責任をもっていないからだ)。そして、Instagramが直面する最大の課題を解決するために、創業者はもはや必要なかったのだ。ストーリーの収益化は究極的にはフェイスブックの問題であることは、いまや明確になっている。ストーリーの収益化を行うのはインスタグラムではなく、フェイスブックなのだ」


インスタグラム、「良心の決断」:ケヴィン・シストロムが考える「よいインターネット」

退任が明らかになったインスタグラムCEOのケヴィン・シストロムは、「よりよいインターネットのため」のアクションを続けてきた。だが、「よいインターネット」って何なのだろうか? 『WIRED』US版編集長が2016年から1年にわたってシストロムに密着した。


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TEXT BY NITASHA TIKU

TRANSLATION BY CHIHIRO OKA