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【FC東京ぴーぷる】

立正大サッカー部コーチ 戸田光洋さん【第2回】 人間味あふれる指導者にあこがれを抱いた

2009年11月18日

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中学生のころから指導者になりたかった

−引退後は、指導者って考えていたの

 指導者になるっていうのは、中学生のころから考えてましたね。父親が体育の教師をやっていて、親父みたいになりたくて。それにサッカーもやりたかったんですけど、中学のときに「だったら、筑波大に行け。高校は普通科に行って勉強しろ」って言われたんです。大学に行ったら、体育教師にもなれるし、サッカーも思い切りやれるからって。高校は我慢して筑波大に行って、本当にサッカーが思い切りできて、それにプラスしてプロになれて、そういう意味では中学のころから(現役引退まで)つながっているんですね。

−父親の影響が大きかったんだね

 きっかけは父親がデカいですね。それにプラスして、ありがたくもプロの世界に入れて、プロの指導者と接する経験ができたわけです。大熊さん(現日本代表コーチ)、原さん、倉さん(現FC東京U−18の倉又監督)、ガーロ、健太さん。コーチだったら徹さん(現FC東京U−15深川の長沢監督)とか田坂さん(清水コーチ)とか。そういう人たちを見ていて、あこがれを持ちましたよね。特に原さんはそうですけど、こんなに人間味を出せるんだなと。サッカーの指導を受けていて、すごく人間味を感じたんです。

−監督やコーチの人間性に惹かれたと

 技術的なことだったり、戦術的なこともすごく必要だと思います。でも、やっぱりそれだけでもダメだと思うんですよ。逆に人間味があるだけでも務まらないと思うんですけどね。出会ってきた指導者の人たちに、あこがれを抱けるんですよ。

最も影響を受けたのは原さん

−一番影響を受けた人は

 原さん。原さんはデカいですね。引退を発表する直前に、原さんにはちゃんとあいさつに行ったんですけど、「おっ、飯でも食おうよ」って言われて、そこでもやっぱりすごいなって思う部分が多々ありましたね。

−以前、原さんのことを「穏やかに見えて、すごく厳しい人」って言っていたけど

 厳しさはあると思いますよ。でも厳しさを全面に出してないというか、まず原さんは自分に厳しいということが伝わってくるんですよね。譲らないところは絶対に譲らないし、誇りはメチャ高いです。それでいて、いつもはニコニコして親しみやすいし、何かすごく愛情があふれているというか。サッカーが大好きだし…。ひと言じゃ言えないですね。いつだったか、新聞に「原監督、解任か」って書かれたときも、「今さあ、新聞とかいろいろ出てっけどさあ。あんまり気にするなよ」って。「あのさあ、(クビを)切られっかどうかは分かんねぇけど、おれは自分から辞めることはしねぇから。おれが(監督を)やっているうちは頼むなあ」みたいな感じで言ってくれたんですよ。そしたら、もう選手の方はやりますよね。解任かって話が出ているときに、自分から辞めることはないからって言うんですよ。何かすごいなあって思いましたね。

−逆の立場になって、これまで受けてきた指導がヒントになっていることは

 マネはできないですけど、(ヒントは)多々ありますね。今までそれを受けてきたわけですから。でも、間違っちゃいけないのは、原さんのマネを他の人がしたら絶対に失敗するっていうこと。原さんだから、原さんのいろんなバックボーンがあるからできるんですよ。今、逆の立場になって、「ああ、ここまで見ないといけないんだな」とか「ここまで見られていたんだな」って思いますね。人の表情とかクセとか細かいところだったりとか。そういうところまで見られていたんだなってすごく感じますね。とにかく見るってことですよね、人を見る。あとは、なんだろうな。何というか、原さんは上から目線じゃなくて、一緒に戦っているんですよね。「おれは監督だから、おれにできるのはここまでだよ」って突き放した感じじゃない。一緒になって、あたかも「この人、試合に出てくるんじゃないか」って感じさせるくらいの指導をしてくれるんです。それって、すごくいいなって思います。そのマネをするわけじゃないんですけど、やっぱりそういう感覚でやらないといけないなっていう気持ちはありますね。

−いろんな意味で、原スタイルに影響を受けていると

 あの指導を受けた側の感覚で言えば、すごく戦える、戦いやすくなるというんですかね。余計なことを考えなくてもいいし、顔色をうかがわなくてもいいんですよ。顔色をうかがったって、どうこうなる人じゃないですから。(ゴール後の)あのジャンプが象徴だと思いますけどね(笑)。たぶん本能的に出るんでしょうけど、あれも一緒に戦ってないと普通はできないですよね。できないと思うんですよ。でも、原さんがやっても、何の違和感もない。でも、たとえば、上から目線の監督がメディア向けにあれをやったら、やっている人間は絶対に分かりますから。それから、おれたちのことを守ってくれる感覚はありました。全部の責任を取るんだろうなって。でも、逆に責任を取らせたくないという、いい信頼関係はあったかなと思います。おれは本当にすごいと思う、原さんは。

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「ポンと来てチョン」は奥が深い

−原さんの「ポンと来てチョン」っていう言葉は、簡単なようで実は奥が深いって言ってたよね

 ああいう言葉は簡単に出せるもんじゃないんですよ。原さんのまったくマネをするんじゃなくて、おれなりの「バシッ」「チョン」「ビュン」って言葉を使っています。たとえばシュートを打ったときの音を表してくれって言ったら、たぶん十人十色じゃないですか。それを伝えるってすごく難しい。でも、原さんはそれすらも「もうちょっとビュンって感じだな」って伝えにくるんですよ。すごく難しいんですけど。

−そういう擬音語での指導は大事なの

 大事かどうかと言われたら分からないんですけど、ただ、おれは原さんにそういう教育というか、指導をされてきたんですよね。要は大方の人はぼかすところなんです。たとえば、力学的に説明する人は「軸足をボールから何センチのところに置いて、振り足は45度くらい上げて、それをタイミング良く、胸を張って、しっかりインパクトして、(足の)この部分に当てて、そのまま振り抜け」みたいな説明をするじゃないですか。すごく分かりやすいと思いますよ。でも原さんはそれも踏まえて、「もうちょい、ピッって切る感じ」って言うんですよ。たぶん、原さんとおれらのシュート練習を、周りから見ている人は分からないと思います。でも、やっている人間からすると、何かあるんです。「もうちょいピッと切る感じだな」って説明できない人ほど、「何がピッだ」ってバカにするかもしれないですけど、まったく逆じゃないですかね。そういう人は感覚のところに踏み込めないんですよ。

原さんはとにかく見ていてくれた

−そうは言っても、難しそうだよね

 原さんは答えを一つには持っていかないんです。自分なりの「ポン」とか「ピュン」を(指導を受ける側が)感覚としてつくっちゃえばいいんですよ。おれの「ポン」ときて「ピュン」っていうのは、こういうことかと。原さんは答えを1つに求めてこないけれど、できるだけその人なりの答えを導き出そうとして、擬音語を出しているんですよ。たとえば、ヘディングの練習をしたときに、センタリングが上がって、「戸田、もうちょっとバシっだな」と言われるんですよ。「バシッ」というのはもうちょっと叩けってことですけど。「バシッ」って聞いて、おれがもう少し力を出すと、原さんは「そうそう」って言ってくれて、それでやっと自分の中でも「もうちょっとバシッ」が理解できるんです。すごく難しいですよ。もう独特の世界ですよ。(プロ野球の)長嶋さんも「独特」って済まされているけど、でも要は型にはめないというか、はめない中でも最大限の能力を引き出すために、そういう言葉を使っているんだなって思います。

−あの当時の東京は若い選手が大きく成長したけど、原さんの力は大きかったかな

 大きかったんじゃないですか。さっきも言いましたけど、すごく見てくれているんですよ。たとえばボールに関わらなくても、チャンスをつくれることってあるんですよね。センタリングで言えば、ニアのヤツがディフェンスの選手を引っ張ったから、外のヤツが決められるとか。原さんって、そういうところをすごく見逃してそうで、見逃さない。映像でそういう場面を見て説明してくれるんですよ。「ここで、お前のこれが役に立ったな」って。おれは走ることが武器だと思っていたけど、試合をやっていれば「これは無駄じゃないのか」という瞬間もあるんです。でも、そういうシーンを見つけてきては、「これが大事なんだよ。こういうダイナミックさが大事なんだよ」って。試合全体を見る力がすごいなって思いますね。若い選手からベテランまで含めて、そういうところに(影響が)出ていたのかなって思いますね。もう1つの例で言えば、左サイドにいて、(右サイドの)ナオのところまで行っちゃうことがあるんですよ。それは感覚的に身についたことですけど、そういうのを普通の監督なら否定するって思うんです。「あんなことはしなくていい」って。だけど、そういうのを真っ先にほめてくれたのが原さんでしたね。「そういうのって大事だな」って。

 

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