白の輝き 新種のしだれ桜 茨城の「博士」が上野で発見

2022年3月29日 07時09分

上野公園で見つかった新種のしだれ桜。

 700本の桜が咲き誇る上野公園(台東区)で、そのうちの1本が新しい品種だと判明した。都内で新種が見つかるのは約30年ぶり。「茨城の桜博士」が根気強い観察で突き止めた。見頃を迎えた新種の白い花は桜の多様さに気づかせてくれる。

花はソメイヨシノより一回り小さい直径2・5センチ以下

 かれんな白色の花が穏やかな風を受けてふわりと揺れた。春の日差しを気持ちよさそうに浴びる一本のしだれ桜。少なくとも樹齢七十年はあるだろうか。来園者が憩う大噴水やスターバックスの近くとあって人通りは多い。これまで新種と気づかれなかったのが不思議なくらいだ。
 桜は変異しやすく、ソメイヨシノにヤマザクラ、オオシマザクラと、名前が付いている品種は八百種類ともいわれる。これだけ種類が豊富でも、白い花を付けるしだれ桜は実は珍しい。
 東京の桜が咲き始めた今月二十四日、発見した茨城県結城市の樹木医、田中秀明さん(63)は「出合うまで長かった」としみじみとつぶやいた。それもそのはず。田中さんが白い花のしだれ桜を探し始めてから三十年以上が過ぎていた。

白いしだれ桜を発見した田中秀明さん

 普段は公益財団法人「日本花の会」(港区)に勤め、全国各地で桜の名所づくりを進めている。小さい頃から植物が好きで、東京農大では植物の病害を研究。卒業後、植物園での勤務を経て、三十一歳だった一九八九年から同会で桜の研究を始めた。品種の調査は特に力を入れてきた分野だ。
 しだれ桜の花は、ほとんどがピンクや紅色。「白さえあれば紅白の景観をつくり出せるのに」。白のしだれは桜の名所づくりに欠かせないピースだと感じ、各地を見て歩くようになった。二〇一三年には大阪・堺市でようやく白っぽい花に出合ったが、「うーん」。透き通るような白を求めた。
 一八年春だった。出張ついでに寄った上野公園で百メートル手前からでも分かる白い花に目を奪われた。荒川・日暮里で生まれ育ち、上野公園の桜は身近だった。「灯台下暗しとはこのことか」。喜びと驚きが同時に沸き上がり、夢にまで見た一本をまじまじと眺めた。
 急に暖かくなった年は白っぽく咲くこともあるため、一九年春と二〇年春にも花の色を確かめに足を運んだ。他の研究者からも「これほど白いしだれ桜はない」と太鼓判をもらい、新種に違いないと確信した。
 日本花の会は品種の認定もしており、公園を所管する都は、田中さんからの連絡を受けて新種の登録を同会に申請。花の形や大きさ、がくの形状など認定に必要な九十項目の調査が終わり、四百種類が掲載されている同会「桜図鑑」にまもなく登録される。
 都によると、都内では一九八九年に上野公園に植わるコマツオトメ(小松乙女)が、九一年に調布市・神代植物公園のジンダイアケボノ(神代曙)が、それぞれ新種と判明したと発表されている。
 上野公園では宴会の自粛が求められるなどコロナ禍で花見のあり方は様変わりした。田中さんは五十五種類もの桜がそろう上野公園ならではの楽しみ方を提案する。「桜はソメイヨシノだけじゃない。宝探しのようにお気に入りの一本を見つけて」

◆都が名前募集

 都は新種のしだれ桜の名前を募集している。下の三案の中から、メールS0200250@section.metro.tokyo.jp宛てに投票を。4月15日まで。
【上野枝垂(うえのしだれ)】 上野発祥であることを全国や後世に伝えるため
【上野白雪枝垂(うえのしらゆきしだれ)】 白いかれんな花を舞い落ちる白雪になぞらえて
【忍岡糸桜(しのぶがおかいとざくら)】 上野公園エリアの古い名称「忍岡」にちなんで
 文・加藤健太 写真・中西祥子
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