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これがプレステ2だ!―SCE久多良木健氏インタビュー―


1999年4月19日

去る3月2日、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は「次世代プレイステーション」の基本仕様を発表した。コンピュータファイルたちはその「グラフィックス・シンセサイザ」の48GBytesというDRAMバス・バンド幅や「エモーション・エンジン」と呼ばれるCPUの6600万ポリゴン/秒という3Dポリゴン描画能力に驚き、テレビのニュースショーはそろってそのデモ映像をプライムタイムに流した。

基本スペックは分かった。で、はたしてソニーは「プレステ2」で何をやろうとしているのか? 「映画/音楽/コンピュータが融合した新しいエンタテインメント」(ニュースリリースより)とはいったいどういうものを考えているのか? ASCII24編集部は、プレイステーションの生みの親であり、「プレステ2」の開発を総指揮し、4月1日付けでソニー・コンピュータエンタテインメントの代表取締役社長に就任した久多良木健氏にじっくりとお話をうかがった。


聞き手:船田戦闘機
答える人:久多良木健氏((株)ソニー・コンピュータエンタテインメント代表取締役社長)
企画・構成:編集部 河村康文

SCE社長の久多良木健氏。
SCE社長の久多良木健氏。



「エモーション・エンジン」の意味とは
Q 次世代プレイステーション(以下、PS2)のハードウェアについては既にいろいろなメディアで報じられていますので、今日は、ではそれでどうやっておもしろいゲームに持っていくのか、といったソフトウェアを作る側の視点からお話を伺いたいと思います。

A 初代プレイステーション(PS1)を出したときの取材では、アスキーさんのインタビューがいちばんハードについて細かいことを聞かれたんですがね、突撃でいくぞみたいな(笑)。

Q PS2の基本仕様発表の時に「エモーション」という言葉を使われています(SCEは東芝と共同で開発したPS2向けCPUを『エモーション・エンジン』と呼ぶ)。高精細で、たくさんのポリゴンが凄いスピードで出てくると。これは単純に考えると量的に拡大してるだけかもしれないですが、それがどこかの一線を超えるとエモーションなんだというふうに言いたいと…

A ぜんぜん違います。たとえば、オーディオでADPCMをやってるときに、量子化bit数が8bitから12bitになって、次に14bitになってさらに16bitになったらエモーションかといったらぜんぜん違うじゃない?

Q そうですね。

A 今まで一般にコンピュータの世界でやってたのは、4bitぐらいだったものが8bitになりました、次に16bitになりましたということ。でもそこにはあまり興味ないんですよ。そこはサラっといこうと。そこばかり一生懸命やってるのが今のパソコンの世界だね。パソコンのグラフィックスをやってる会社が100社あったら100ともみんなそればかりやってて、本質的にあるブレークスルーを超えられない。どうしてかというと、彼らは半導体を定義することができないから、どうしてもテクニックなってしまう。TalismanとかVoodooとかPowerVRとか、要するにテクニックだよね。

それに対してわれわれの強みは半導体を定義できるということだから、そこはサラっとやっちゃいましょうと。もうそこの議論はやめたいわけ。

ある程度のクオリティで音が鳴ったとき、じゃぁ音楽ってなんなんだろうと考えた方がいいだろうと思う。ところが、グラフィックスの世界はそこまでいってなかった。PS1のときは「グラフィックス・シンセサイザー」というコンセプトはあったけども、コンセプトはあってもそれをサポートできるものに仕上がってないから、今回(PS2では)それに関していけるところまでいこうと。もちろん100%というわけではないけども、かなりのところまでいこうということです。

で、そこから先、われわれのやりたいことが今回のPS2のテーマです。PS1のときにグラフィックス・シンセサイザを提起したのと同じような意味で「エモーション・シンセシス(情緒合成)」をやる。でも、それもコンセプトの提案なのであって、それで完成するとは思ってない。

ポリゴン・カウントを追うだけでは意味がない
A これが2004年ぐらいになって、まったく違う世界、たとえばトランジスタとかゲートの数が人間の脳細胞より多いとか―それをやるためには桁違いの投資が必要でしょうが―そうなったときにわれわれがどういうアーキテクチャをその中に埋められるのか。今のCPUというのは、みんな無理して使ってるけど、昔の電卓からきてるアーキテクチャで、かつプログラム技術も同じで、それを何とか使ってノン・リアルタイムのシステムとして動かすためのいろんな研究がされてるんだけど、あくまでもノン・リアルタイム。われわれは、エンターテインメントという切り口はあるんだけど、この5年間でそこを研究レベルで進めたい。

どんなにポリゴン・カウントを出そうが出すまいが、それだけじゃまったく意味がない。なのにその議論がいつまでたっても止まらないんで、(PS2を)サラっと出して止めたい。

「エモーション・シンセシス」とは何かというと、エモーションにはいろんな意味があるんだけども、先のことを考えたときに、コンピュータって何だろうと。今のコンピュータはツールです。人間が不得意な速く計算するということと、すぐ忘れちゃうということをサポートしてくれる計算機。だけど、実際に人間が感じる心の動きとか気分とかね、もしくはここにいる4人の世界、これが何なのかといったときに、既存の計算機とはまったく別の次元の問題だよね。

それを汎用的に考えるととんでもなくたいへんなことになって、脳型コンピュータだなんだということになる。ところがエンターテインメントということで切ったときに、割合と切りやすい。相手を楽しませるということだから、たとえば文学だったら、まず最初の1行から世界観を作るという作業は難しいですよね。世界観というものを作って、そこに仮想的なキャラクタを置いて、自分の構成したいストーリーを作るじゃないですか。本なら本のストーリーラインがあるし、映画なら映画のストーリーラインがある。われわれはコンピュータ・エンタータインメントをそこまでいけるようなメディアにしたい。

コンピュータって本質的にはそういう表現能力があると思う、将来はね。今はリアルタイムに計算するということばかり考えるけれども、PONGみたいなピンポンゲーム、次に当たり判定とかって、ゲームは当初そういう表現能力でやってきた。それがだんだん進化したときに、本質的にはクリエイターが表現したいものが表現できるというところまでいけるといいなと思う。

抽象的なことを言ってるようだけど、テーマはPS1というのは今度のPS2をやるためのすごく大事な期間だったし、PS2もその次をやるためのすごい大事な期間になると思う。だいたいどれぐらいの期間で考えてるかというと、今年の冬から、5〜6年、ということは2004〜2005年。だから2004〜2005年の姿を今から考えながらやろうとしているんです。

じゃぁ、そのために何をやるかというと、今からフォン・ノイマン型じゃないアーキテクチャの凄いハードを考えて、そこに凄いプログラムが埋め込まれてということをやるための蓄積がまだ何もない。ハードやソフトのエンジニアの意識も変わってない。だからそこを数年間でみんなで楽しんだり研究したりしようよと。かなりの部分がソフトウェアの問題になりますが。

PS1のときは、われわれのやりたいことをやろうとしても、出来合いのチップを集めてきて基板を作ったり、あるいはアーケードゲーム機であったり、ということで不可能だった。でも幸いなことに半導体のエンジニアというのはまったく別のところでドライブされてた。ワークステーションとかメインフレームとか、パソコンとか、彼らの投資額も大きかったし、われわれが使いたいトランジスタ数も彼らの中では部分集合だったから、あの当時としてはたいへんだったんだけど、11ミリ角程度ののチップにわれわれのアーキテクチャを載せて、やりたいことをやろうよというので、100万トランジスタぐらいのものでやったのがPS1ですね。

で、今度のPS2場合、それだともうできない。だったら半導体投資をしてまでも、そこでできるプロセスを使って、われわれの本当にやりたいアーキテクチャをそこで書こうよということです。それが今回のCPU(エモーション・エンジン)だったり、グラフィックス・シンセサイザ(超並列描画エンジン)だったりする。

でも、その次(PS3)はもうそれではできなくなるよね。PS2のCPUはMIPSをモディファイしたものだけど、本質的にはもうMIPSコアでなくてもいい(笑)。でも、どう眺めても一部にVLIW*1を使おうがSIMD(拡張マルチメディア命令)を使おうが、今のコンピュータ・サイエンスのいいところをけっこうおいしく使ってる。この次はガラっと変わります。

以上はハードウェアの話だけれども、ぼくらがやりたいのはあくまでエンターテインメントをとっかりにしながら、ビジネスとしてはエンターテインメントそのものなんだけども、サイエンスレベルで考えたら、まったく新しいものを次の数年間でやりたい。

注)*1
VLIW:Very Long Instruction Word。1つの命令語中に複数の命令(ロード、ストア、演算、分岐命令など)を格納しておき、それらを同時に実行する形式のマイクロアーキテクチャ。実はさほど新しい手法ではないが、Intelの次世代64bitプロセッサMercedに採用されると言われている。

物理モデル演算は、リアルにするためではない
Q ここでエンターテインメントと言った場合に何を指しますか。

A エンターテインメントというのは人間の本質であってね、技術とかそういうことで四の五の言ってなくても、たとえば老人力を持ってる年寄りであろうがね、言葉をまだ覚えていない子供であろうが、誰でもダメなものはダメ、受け入れられないものは受け入れられない、受け入れられるものだったら言葉とか人種の壁を超えて受け入れられる。だからエンターテインメントというのは、広く人々にコンビンス(納得させる)するのがいちばん難しいジャンルなんです。アメリカの大統領になるのが難しいように、一般大衆をコンビンスするのはものすごく難しい。われわれが向かっているのはそのいちばん難しいエンターテインメントなんです。

Q その道筋として、PS2では物理モデルシミュレーションということを言われているわけですが。

A 物理に限らずね、コンセプトとしてはエモーション・シンセシスというのは、場であったり、キャタクタであったり、エモーションといっても生物そのものだけじゃなくて、世界観とか、いろんなものを表現しようとしている。これがコンセプトレベルね。物理モデルだけで計算するというのは、比較的簡単にできるよね。

かなりのものは物理モデルで計算しやすい。ところが、そこから先、たとえば猫という動物がなぜ猫として動くんだろうとか、猫が難しければネズミとか、この辺になったとき、そのものを作るのはできないんだけど―DNAを作るわけにいかないから―ネズミにするために、その特徴を抽出するとか、それで合成できたら、ネズミを100匹走らせてもそれぞれ違う表情を持ってるとか、そういうことができる可能性があるじゃない? もっとも原始的なものだと、たとえば魚だったらすぐできちゃう。魚には表情ってほとんどないからさ。だけど人間に近い生物になればなるほど表情が出てくる。その表情というのが表現できなくて、映画などでも俳優に何度もダメを出してやるわけじゃないですか。でも、そこである程度のものがコンピュータでできたら、ほんとにその世界に入れる。

人間の表情とかは難しいけれども、それ以外のものって、けっこう計算でできてしまう。なにもリアルにするのが目的じゃなくて、映画の世界ってノン・リアルなんです。映画はリアルになればなるほどつまらない。映画はリアルじゃないリアル、新しい世界を作ってるメディアなんです。

たとえば、「グランツーリスモ」*2というゲームが出てくると、リフレクション・マッピングが奇麗だとかいうことより(やった人はたいへんなんだけどね)、膨大なパラメーターをぶち込んでね、「リッジレーサー」とか今までのレースゲームとは違う世界がそこでできるわけです。あれも一つの手始めで、それはグラフィックスとはまったく別問題。

Q 「グランツーリスモ」のことが出たんで、そこから話を続けると、「グランツーリスモ」というゲームで物理モデル的にしっかりしたゲームを作ると、それがおもしろいと感じると。その面白いと感じるのは…

A おもしろいじゃなくて、“世界”がそこにできるんだよ。その世界の中で何をおもしろいと感じるかというのはエンターテイナーとかプロデューサーの問題でしょ。

Q おもしろいと感じるものが「グランツーリスモ」の中に作り込まれているとはぼくはあまり感じなかったんです。逆に、あれをおもしろいと感じるようにプレイヤー側が成長したというか、おもしろさを感じるユーザー側が、おもしろさを感じる能力みたいなものを身につけたということだと思います。

A あれを作った山内っていうのはもう無茶苦茶クルママニアなわけ。だから彼とそのチームは心血をそそぎ込んだ。クルマが好きな人はけっこういるから、その人たちの心の琴線を掴んじゃったんだと思う。そこから先、ゲーム性ということになるとまたいろんなレベルのことになる。

注)*2
「グランツーリスモ」:100車種146グレードのクルマが登場するゲーム。本物の実車の挙動をシミュレートしたその内容のリアルさでゲーマーのみならず業界内でも大きな話題となった。「グランツーリスモ2」は'99年夏発売予定。価格、車種数、コース数は未定。

ゲームが文化になっていないと言える理由
Q そうすると、「グランツーリスモ」は成功したので、「グランツーリスモ」的アプローチで作れる世界についてもだいたいめどはついたと?

A それまでのクルマのゲームというのは、現実のクルマとは無関係な挙動で作られていたんです。クルマをゲームの中に作り込もうとしてもできないから、できないということを当然のこととしてゲーム性というところに求めたわけです。それは、それを意図してやってるんだから、いい悪いの問題じゃない。だけど、できるとするならば、少なくともああいった世界―リアリティじゃなくて“世界”ね―が作れるということだけでもね、クルマを運転するという共通項があるから、その人たちを掴めたし、山内はクルマ好きでもあるしゲーム好きでもあるから、彼が考えるゲームとはこうであるというものをゲームの中に入れたんであって、それが完成型だと言ってるわけじゃない。

ただ、ぼくが危険だなと思うのは、(われわれは)リアルということを追ってないのであって、それは各コンテンツを作る人の意識の問題であって、何かやろうというときに、自分が表現しやすいかしやすくないかというだけの話なんです。

そんなところで、ポリゴンがどうだとか、やれ計算がどうだとか、あたかもそれが目的であるかのように話していること自体がおかしいと思う。昔だったら、色数がどうのとか、デカキャラがとか。形而上的なすごい狭い世界の話だね。

もっとも驚いたのは、ファミコンをやってるときに、サウンドトラックが4本しかありませんと、音のディレイもありませんと、それで音楽を表現しないといけないと。そんなもんで音楽なんてやれませんよね。ところが、その狭い世界でもある種の“美学”があってね、こうやればこう鳴りますと。それも確かに音楽だよね。それをぼくは否定しないんだけども、だけど一般の人、普通の人はそれで感動するかというと、ぼくは感動しないと思う。なぜかというと、それを感動させるのはクリエイターなの。その場合、クリエイターが感動してない、クリエイターがやりたいと思ってない。それで聴いた人が感動するはずがない。要はクリエイターがやりたいと思ってることがやれるかどうかというのがキーなんです。

最終的なコンテンツがどうだこうだというのはおこがましいと思う。まして、よくゲーム業界の人は横(にいる同業者?)を批判するんだけど、おかしいと思う。たとえば誰々の書いた本がおかしいとか、誰の音楽がおかしいと言ってたら、それは文化じゃない。ゲームがまだ文化になってないというのは、そこだと思う。

Q ひどい言葉で「くそゲー」というのがありますが、でもかなり嫌いな音楽を聴かされても「くそ音楽」とは言わないですね。

A 言わない。

Q つまらない小説を読まされても「くそ文学」とは言わないですね。

A 言わない。クリエイティブなことをやってるわけだし、その中でもいろいろカット&トライしてるわけだし、「うーん」とか思う場合でも暖かい目で見てるしね。音楽でも、なんでたくさん聴くかっていうと、アルバム買ってきて、入ってる曲すべてが出来がいいと思えるのは最近だとLauryn Hillの「THE MISEDUCATION」ぐらいなもんでね、普通はアルバム中いいと思えるのは1曲か2曲しかないけど、それでもそれだけ満足を与えてくれたアーティストに対して「いいね」って思うじゃない? それがゲーム業界って…ぼくはゲーム雑誌ですごくおかしいと思うのはね、横をすごく攻撃するわけ。オレだったらこんなことしないとか、オレだったらって言ったってしょうがない。

Q たぶん作る人に対する尊敬が音楽とか文学に対してかなり低いというのは、みんなが思ってることだと思います。

ソフトウェアのガンマンのためにPS2はオープンにする
A うーん、でも尊敬されないかもしれないし…逆に言えば、プレイステーションが出たときに、「ソニーのファミコン」と言われた。もう今はそういう言い方はないけども、それはどういうことかというと、「ファミコン」という言葉であるものを定義しようとしているんだと思うのね。だけど、マシンが表現力を持っていれば、いろんな種類のクリエイターの人たちがいろんな表現をされるだろうし、それが文化を生み、コンテンツを生む訳で、そこを否定しちゃいけないと思う。今までわれわれが一生懸命やってきたのは、どうやったらクリエイターの人がクリエイティブなことに時間を使えるだろうかということです。

確かに、ハードを叩くということは、ある種のエンジニアにとってはすごいクリエイティブなことなんだけど、それが目的ではないはずですね。エンターテインメントを最終的に享受する立場から見ればね。だから、われわれがライブラリやツールを作ってサポートしてるのは、ソフトを作っている人がいちばんエラいからです。

あと、われわれエンジニアの立場から言えば、エンジニアはやりたいことをやるわけで、ここはクリエイターなんだよね。いちばんやりたいことをやったのがPS1で、次にやりたいことをやったのがPS2、それだけの話。

Q クリエイターがこれからPS2向けのソフトを作り始めますね。すると、たぶん相当困るだろうと思います。Nintendo 64でもかなり困っているみたいですから。

A それについては、われわれ確固たる思いこみがあるんだけど、PS1をやったとき、クリエイターがいたとして、数学ができない、英語を読むのがイヤ、C言語なんて分からない、これを三重苦と言ったのね(笑)。でも新しいクリエイターが入ってきたときにわれわれはいろいろとサポートをさせていただいた。われわれの強みは、ハードの設計を全部やったし、ソフトウェアエンジニアもいるので、中でサポートできた。だけどPS2はそういうレベルじゃない。SCE内部だけでは十分じゃない。クリエイターがいて、ハードがあって、その中間のライブラリとかカーネルをわれわれが提供してたけれども、今度はこれでは遠すぎる。これがないとNintendo 64と同じで、「マイクロコードを好きにやってください。That's all」になっちゃう。

今われわれがコンビンスしたいのは、世界中にいるソフトウェアエンジニア、言ってみればソフトウェアのガンマンだよね。Linuxの世界でがんがん書いたり、ミドルウェアだったら、ビジネス度外視してやる人。しかし昔はPDP11とかAmigaとかあったけれども、今はただ一つWindowsマシンになってしまった。

Windowsマシンほどエンジニアの気をそそらない―そう言うとまたBill Gates会長が読んで怒るかもしれないけど―要するにオフィスで仕事するためのコンピュータでしょ。PowerPointでプレゼンして、Excelで計算して、ぼくらもすごい便利に使ってるけど、でもコンピュータを触る楽しみってあるのかとなると、Microsoftが全部管理する世界、CPUも大きな変化がない、するとそこのレベルで楽しみがないから、コードを書いたとしても、事務機に特化してるからほんとにエンジニアがごりごりやるという楽しみがない。

悲しいねと。で、われわれがPS2を出してオープンにして、やっていこうよと働きかけてるんです。ぼくはすごく楽観してるんだけど、どんどん彼らはやると思う。だからオープンにしようということです。

エミュレータとIP(知的所有権)
Q 今の“オープン”ということですが、かなり幅があって、たとえばLinuxで言うなら、あれは究極のオープンソースを目指すからみんなが惹かれるというところがありますね。Linux自体はあんまりおもしろいアーキテクチャじゃないですけれども。オープンということをうかつに言うと、Linuxをやっている人たちは「何がオープンだ」と言ったりします。

A Linuxの場合はポリス・ファンクションがないよね。

Q オープンという言葉をもう少し具体的に定義していただきたいのですが。

A そのソフトウェアエンジニアのガンマンたちと今いろいろと話をしているんだけど、彼らの興味をそそることを全部閉じちゃったら、興味なくすよね。逆に全部オープンにした場合、IP(Intellectual Property:知的所有権)とかポリス・ファンクションをどうするかという問題が残る。

何かあったときのプロテクションとして何を求めるか。Linuxの世界なら、ユーザーはプロが多いから、よほどのことがあっても処理できる。ところが、エンターテインメントの世界ではユーザーが子供だったりするから、それが起こるとパニックになる。そういうことを満たしながら、どういうレベルまでオープンにできるかを考えたい。ただ、間違いなく言えることは、今までやってきたように、何が何でもすべてクローズですということは絶対やりたくない。

つまり、極端な話、ゲームソフトを作らなくてもゲームマシンを触りたい人はいるわけだ。そういった人たちに対して従来は技術情報やツールを出していない。もしくは、いじっちゃいけないとかね、そんなことしていいのかと思う。

Q そういうソフトウェアエンジニアからのアプローチを受け入れると。

A 今まさに受け入れているんです。先日基本仕様を発表したら、そこからのリアクションは凄いですよ。ミドルウェアやってる人からはがんがん来るし、今でいうゲームではない領域、ハリウッドの映画監督さんとかプロデューサーとかから、これ(PS2)でようやく自分のやりたいものができるだろうと言ってがんがんアプローチが来る。音楽業界だって関わりはある。ゲームだって、「GT2」とか「GT3」とかいうものも最初はあるだろうけれども、まったく新しいエンターテインメントがありうるとすると、前はアーケードゲームからのコンバージョンがあったわけだけれど、もうそれがないわけだから、手法の問題とか、対象そのものを見つめ直しているところです。

今日も、Eメールが来てうちの開発の連中のやり取りを見てると、オープンかオープンでないかという議論をしている。それはなぜかというと、オープンにしたいということだよね。

Q IPとの兼ね合いで、どこが落としどころかということですね。

A 最終的にはソフトを作る人がいちばんエラい。それをパブリッシュするということはビジネスしてるわけで、リスクをとって、資金調達して、広告宣伝費かけて、在庫責任持ってやっている。ところが、そこへ先日のConnectixの「Virtual GameStation」みたいにね、ああいうやり方すると、ぼくらから見るとIPを犯している。パブリッシャーのビジネスを犯している。クリエイターは嬉しいかというと、自分が作曲したとおりに音が再生されないとか、自分が考えたフレームレートで動かないとなると、黒澤明でなくてもイヤなわけです。

スティーブ・ジョブズはいいんじゃないって言うかもしれないけど、そういうことが起こったときにIPがないと防ぎようがない。そいうった意味での守るべきIPと、すごい腕っこきのソフトウェアエンジニアが喜ぶということを両立させなくちゃいけない。

プレイステーション2にOSは要らない
Q Linuxは…

A いや、Linuxというのは、別にMicrosoftがあるからLinuxと言ったのではなくて、今日の時点で安定的に動くOSがLinuxだよと言っただけ。

Q 開発環境は基本的にLinux?

A LinuxもOne Of Themだね。どうしてかというと、ハードがあって、カーネルがあって、僕らから見ればアプリとしてLinuxが乗ってるわけ。OSって何かというと、異機種間のハードの違いを吸収するためにあるわけで、僕らの場合異機種がないんだよね。すると、OSとはアプリケーションのランチャーなんだよね。そういう意味ではOSは何でもいい。でも、開発環境はまだ様々でしょ。SGIでやってたり、NTマシンでやってる人もいる。だけど、ネイティブで動くとすれば、誰もDirectXなんて使いたくない。何がいいかといって、プレイステーションは一種類しかないこと。メモリも増やさなければクロックも上げなければI/Oも増やさない。そういう安定したプラットフォームが5000万台あるということが、コンテンツクリエイターやパブリッシャーにとってのメリットなのでね。われわれにはそれを守る責務がある。

今どういう段階かというと、カーネルはあって、ハードもいろんなバージョンがあるんだけど、それはできるだけ見えないようにして、バグは少し残ったとしてもソフトが安定的に動くようにリマスターしていく。

ほかのソフトメーカーがWindows CEの上で動かすと言っても、CEそのものが好きか嫌いかという議論以前になんでそれが必要なのかという気がするし、なぜDirectXが要るのかというと、異なる機種のコンピュータで動かすために要るわけでしょ? もしくはグラフィックスアクセラレータがユーザーによってみんな違うと、それを吸収してそこそこ動かすためにDirectXが要ると。

PS2でそれが要るのかというと、OpenGLコンバーターとか、それは必要でしょう。Linuxだって、ファイルシステムとか共通の環境として必要なんだけど、最終アプリで必要とはとうてい思えない。だから、PS2にLinuxが載ってるはずがない。

ツールとしてはありうるかもしれない。Windowsはツールだから、Windows 2000をPS2に載せたいと言ってきたら、「どうぞ」になるかもしれない。Windowsの上でいいアプリがあればね。

Q ちょっと混乱してきてるんですが、クロス開発するときにプログラマのコンソールとして使うOSと、PS2に載せるOSというのが…

A PS2にはOSは載りません。バリバリにネイティブで動かす。ここにあるような開発ボードはそれの延長線上にあって、メモリがたくさん載ってたりするけども、基本的にはこの環境をツールとして使うときにはデータのインポートやトランスポートが起こるから、そのときに、Linuxを載せるということをやってますよということです。

Q それはLinuxから見たときのデバイスとしてPS2が見えるという意味でおっしゃっているわけですね。

A そうです。だから、それが最適な解じゃないわけ。

クーリングファンの付いている2個のチップのうち右側がCPU「エモーション・エンジン」、左側が「グラフィックス・シンセサイザ」。どちらも製品版ではファンは付かない。手前に2列で並んでいるのがDirect RDRAM。
クーリングファンの付いている2個のチップのうち右側がCPU「エモーション・エンジン」、左側が「グラフィックス・シンセサイザ」。どちらも製品版ではファンは付かない。手前に2列で並んでいるのがDirect RDRAM。



技術ギミックではなくクリエイティビティを
Q このマシンによってゲーム・ディベロッパーの夢がある程度かなったという状況があったとして、ぼくが普段よく覗いているヨーロッパのプログラマのメールングリストがあるんですが、定期的に出てくるのが、「俺は今すごいゲームを作ったぞ。で、誰かパブリッシャー知らない?」という話が月に必ず2回ぐらい出てくるんですね。ゲームの場合、みんな作ったものの凄さというよりは、作ったものが広くプレイヤーに届いて面白いと思ってもらったときの満足感を求めていると思うんです。

A エンターテインメントってさ、ユーザーがいてディストリビューターがいて、パブリッシャーがあってディベロッパーがあってという構造があるけれども、実はそこがまだ明確に分かれていない。ヨーロッパみたいに陸続きで国がたくさんあると効率が悪いのでディストリビューターは分かれている。ところがパブリッシャーとディベロッパーはまだ分化していない。パソコンだったら意外と簡単だけど、家庭用ゲーム機となると資金調達や広告宣伝がたいへんだし、在庫リスクなんてとても負えない。すると、ディベロッパーはどこかのパブリッシャーへ行くことになる。たとえばElectronic Artsさんとか、THQさんとか、スクウェアさんとか。だからパブリッシング・メジャーという動きは出てくるかもしれない。

でも、ディベロッパーは違う。映画だと、20世紀FOXとかでもプロダクションは別にある。誰がどこのリスクをとって誰がクリエイティブなことをするのかということが明確になってくる。だからゲームも映画のようなエンターテインメントビジネスにだんだん近くなってきてると言えると思う。

Q Electronic Artsのようなビジネスモデルはありだと思ってらっしゃるんですか。

A EA自身、PS2が出ることによって、相当意識変革をしないといけないと彼らは言ってるよ。今まではパソコンを含むマルチ・プラットフォームでやれたけれども、マルチ・プラットフォームが吹っ飛ぶかもしれない。EAが何ができて何ができないか、考え直さないといけないと彼らは言ってたね。

それからヨーロッパのディベロッパーは現状ではほとんどパソコンで開発しるんですよ。凄いのができたといっても、パソコン上で動いている。昔だったらAmigaとか、最近だと強力なアクセラレータを付けたPC。ヨーロッパに何台もないようなパソコンでやって自己満足している。だから売ろうとしても商売にするのは難しい。ヨーロッパ人と一緒に仕事すると思うのは、ディベロッパーはそういう突出した環境で開発していて、一方でEAのようなパブリッシャーはできるだけたくさんの人に売ろうとするから、平均的なハードウェア環境をベースに考える。もうそこに乖離がある。事業としてみたときには、まだディベロッパーが自立できていない。

僕が思うのは、ヨーロッパでパソコンでゲーム開発をやっている人たちは、力量はあるんだけど、パソコンが与えられた環境だと思っていて、ギミックに走りやすい。パソコンはこれだけのパワーしかない、だけど自分のプログラミング能力でこれだけのことができるという提示の仕方なんだね。だからPS2のような広大なキャンバスを提示されると戸惑ってしまう。プログラミング技術という点では凄い人がいるけども、それがコンテンツに役に立ってるかというと、疑問だと思う。

――ピーター・モリニュー*3さんのようなユニークなゲームを作る人もいますが。

A モリニューさんはまた別でね、彼はもうすばらしいクリエイターだと思う。だけど、さっきも言ったTalismanとかVoodooとかRiva TNTとかPowerVRとか、そのときの技術がこうだから、だからこんなことやります、どうだ凄いだろうっていうあだ花的なことをやっても人類に貢献できないと思う。ビジネス的にもニッチビジネスにしかならない。ぼくらはいろんなエンジニアリング・パワーを持っている人たちにもっと広く入ってきてもらいたい。

だから、マイクロコードを書く人も、なにもグラフィックスのマイクロコードだけやらなきゃいけないということはないんで、全く新しいアーキテクチャを見つけて、それで人工生命体を作るとかね。サウンド関係でもいいし。

Nintendo 64がうまくいかなかったのは、そこのサポートがなくて、SGIだったらできると思ったとかね、一部のソフトの天才が触ったらできるとか思ったそのスターティングが間違ってたからだと思う。ハード的に見たときに、Nintendo 64はシステム・アーキテクチャが凄い難しいんだよね。チップ数は少ないんだけども、マルチタスクでリアルタイムに動かすというのはとても難しいと知りながらノーサポート。あれではSCEのエンジニアをつぎ込んでも難しいかもしれない。それをコンテンツを作る側に求めたらもっと難しい。PS2も、この開発ボードをソフトメーカーさんに渡しただけだったら、最初はおもしろいかもしれないけど、そのうち苦しみになってくると思う。

注)*3
ピーター・モリニューさん:Peter Molyneux。イギリス生まれのゲームデザイナー。'87年にBullfrog Productionsを設立。「Populous」、「Powermonger」、「Theme Park」、「Dungeon Keeper」、「Syndicate」、「Magic Carpet」などユニークな作品が多い。'97年、Lionhead Studiosを設立。最新作は「Black & White」

「コンピュータ好き」へのメッセージ
Q C言語で書くのがとりあえずは最初の書き方になるんですか。

A メインのプログラムはそうです。VU(浮動小数点ベクトル演算ユニット)を使わなくても十分速いんだけど、もったいないのでベクトルユニットのプログラムを始めようと思ったら、そこはベクトルユニットとしてのアセンブラになる。でも、それも結局何をやるかが最大の問題。ただ単にジオメトリの計算をする、これは簡単なのね。チューニングすればいい。だけど、「何を?」といったときにクリエイティビティの問題になる。自分がやりたいのは何なのかということ。

Q ソフトウェア工学的には、こういう複雑なシステムを作る場合の唯一の方法はオブジェクト指向、というか、ある程度こなれたものとしてはそれしか提案できていないと思うんです。(PS2で)ソフトウェアを実際に組むときの手法としては、比較的馴染みがいいかなとも思うんですが。

A マイクロコードで作った或るタスクが一つのオブジェクトであるということにすれば、いろんなオブジェクトの集合として、たとえばグラフィックスで「煙」の表現とか、いろんなものができるよ。だけど、5年間このPS2のハードでいきますから、たぶん中間の2年半ぐらいで使い尽くされ初めて、もっと複雑なものが作られてきて、5年後にはその時点で無茶苦茶に重いものがハードウェアでサポートされていくことになると思う。クリエイターがほんとにやりたいのは今のハードウェアで処理できることじゃないはずなんだよね。

Q それぞれのディベロッパーの会社の中でマイクロコードレベルを叩く担当はこの人というのは出てくるんでしょうが、たぶんソフトウェアを書く人の多くは、もう少し抽象度の高いライブラリを使いたいだろうと思うんですが…。

A ひょっとしたら、そういうことに関係なく、何のソフトを作りたいとかいうことはないけれども、ハードにのめり込んでしまうような人たちね、そういう人たちに対してどれだけメッセージを届けられるかが課題。今まではプレイステーションの開発機を5000台出せば、残りの2万台ぐらいSGIだったりしたけど、今度は幅広いクリエイターに出そうとするととんでもないサポート体制が必要になる。でも、おもしろいと思う。

1394/USBにキーボードやデジカメなんて考えたくもない
――残りの時間で、もう少し具体的にPS2が製品としてどういうものになるのかについてお聞きしたいのですが…

A 値段とかデザインとかダメだよ(笑)。

――今回の発表では映画・音楽・コンピュータの融合した新しいエンターテインメントを創出するとあります。

A とにかく新しい技術、新しいエンターテインメントを創り上げることに興味があるわけ。自分が何をやるじゃないのね。ぼくらはクリエイターじゃないから。そういうことができる環境をどれだけサポートしていけるかというのがぼくらの仕事。

――1394とかUSBを付けた意図は?

A あれは標準インターフェイスだから付けただけで、間違ってもUSBがあるからキーボードやマウスが繋がるとかWebブラウザを動かすとかぜんぜんぼくは考えていない。そもそもHTMLなんていう文字文化は20世紀で葬り去りたいと思っているわけ。HTMLとかブラウザはARPAnetとはまったく違う場で作られたものでしょ。それがあたかも一つのものであるかのように思われて、インターネットというとあれだと思われてること自体がおかしいと思う。

ぼくが研究所にいたときエンジニアはみんなそうだけど、みんな自分の好きなOSを使ってたわけ、'70年代には。それがいつのまにかつまんないことになった。Windowsはツールとしてはものすごく便利だけど、あれが家庭に入って全てそれで動かすなんていうのは頼むからやめてほしい。もっと楽しいことやりたい。

1394とかUSBは単なるシリアル、Ethernetだとぼくらは思ってる。それぞれのビットレートがあって、コネクタのコムファクトが小さくて国際規格になってると、それでいいんだよ。間違ってもキーボードやマウスやデジタルカメラが繋がってどうとか、そういう世界は考えたくない―やりたいことは別にあるんだけどね―。ただ、そういうことを考える人は一部いるからノーとは言わない。どうぞと。

再び言う、「マルチメディア」なんて大嫌いだ
Q PS1のときに、久多良木さんが月刊アスキーのインタビューで、マルチメディアじゃないんだ、ゲームだと。マルチメディアだと言ってくれるなと、言ってましたよね。

A マルチメディア大嫌い(笑)。

Q 「分かってるじゃん」と、失礼な言い方ですが、思ったんです。でも、このPS2のスペックを見たときに、あれ、やっぱりマルチメディアもやるのかなと…

A 大っ嫌い(笑)。ぼくが今度社長になるんだから、大っ嫌いだって書いといて(笑)。ああいうヴェイグ(あいまいな)なコンセプトは。

でも、エンターテインメントなんですよ。間違いなくゲームなんだけど、ゲームというとオトナはある群衆を思い浮かべちゃうわけ。ところが、マリオから始まってどんどんゲームが進化して、昨日もうちの子供が「チョコボレーシング」をやってて、レースが終わってクレジットが始まってワンシーン終わると、ほんとに可愛いアニメーションが始まるんだけど、あれを見て感動しちゃったもんね。こういうのがあのスクウェアさんから出てくるのがすごい嬉しい。

エンターテインメントの幅がどんどん広がってほしい。ウンジャマラミーも無茶苦茶おもしろい。ぼくはかつてちょっとしたゲーマーだったんだけど、最近は時間がないし、家では子供が強すぎて勝負にならない。だけど、間違いなくコンピュータを使ってるんだからコンピュータ・エンターテインメントであって、ゲームなんだけど、ゲームの定義はどんどん変わっていく。

恐いのはね、他のメーカーさんはゲームの定義を自分で狭めちゃってるんじゃないかということ。任天堂さんもそうなんだけど、自分で狭めてそこから出ていかないんだよ。いつまでたってもピカチュウ。だからぼくはコンピュータ・エンターテインメントと言ってる。間違ってもマルチメディアじゃないし、間違っても家電じゃない。間違ってもPS2にOSを載せてパソコンにしようなんて思わない。

PS2がセットトップボックスになって…なんてバカ言ってんじゃないという気がする。セットトップボックスになったって、単に安いチューナーとか安いDVDプレイヤーになるかもしれないわけで、それでは経済は何も広がってない。かえって高く売れるものを安くするだけで、ユーザーの数が増えなければ経済は縮小してるだけ。収益逓減モデルには興味ない。プレイステーションはあの(新しいものをなかなか受け入れない)ヨーロッパでさえ定着した。いろんなソフトが出てくれば、人類としていろんなものが広がる。そこに興味がある。

テレビとPCグラフィックスを解像度やスキャンレートで比べること自体がナンセンス
Q 収益は逓減してますかね、今みんながゲームと呼んでいる領域において。

A いや、今みんながゲームと呼んでいる領域においては収益は拡大してるよ確実に。逓減してるのはロケーション・ベース(いわゆるゲームセンターなど)とかいろいろ逓減してるところはあるんだけど、任天堂さんの決算とか見てもそんなに悪くなってないでしょ。われわれの場合は、ヨーロッパ、正確にはPAL圏だけど、すごい広い領域だけど、90カ国ぐらいの人、頭数でいえば2億人ぐらいの人がプレイステーションのゲームをプレイしてるというのは凄いことだと思う。次はもっと期待したい。なぜかというと、つなげるのはテレビであり、テレビのあるとこをすべてがターゲットになるから。

――PS2のような高品位なグラフィックスを扱うにはテレビでは不十分ではありませんか。

A そうは思わない。テレビで連ドラ見てても映画見てても不十分だと思う人はいないと思う。テレビはたかだか720x480ドット程度の解像度しかないのに、なんでパソコンのVGAとあれだけ表現力が違うかというと、やってることがぜんぜん違うから。そこを議論しないでテレビは解像度が低いだの、インターレースだのと言ってること自体がパラダイム的にナンセンスだと思う。

もちろんノン・インターのほうがいいけど、走査変換なんてどうにでもなるでしょ。ほんとに凄いアナログの絵で中間調も出るんだよね。問題はそういう高品位な画像を作ってないこと。テレビはカメラで撮ってくるから、ものすごい情報量をテレビのコンポジット信号にして出してるわけだけど、コンピュータは画像を作ってるじゃない? 作ってるものがあまりにもプアだからHTMLみたいになっちゃう。それにテレビもどんどん良くなると思うよ。ソニーからも松下さんからも進化したテレビが出ると思うよ。

――そういう凄い画像に見合った入力デバイス、コントローラーが必要になってくると思うんですが。

A それは、今回、下位互換性をとると言ってる以上は―まだセット発表してないけど―今のデュアルショックコントローラは標準で使います。デュアルショックはもしかしたら数千万台と普及してるから、そういう場合のインターフェイスとは何かということをよく考えながらやろうとしている。今、急に形を変えると変えただけになっちゃう。

PS1互換は最初から決まってた
Q 下位互換性をとるかどうかの議論はなかったんですか。

A 初めから決まってたから議論にさえならなかった。

Q 普通はゲーム機では下位互換性とらないですね。

A それは2つ理由がある。一つはマーケティング的にセグメンテーションしたいということ。もう一つは技術的にできないから。ぼくらはマーケティング的に考えたら絶対とるべきだと考えたわけ。アメリカに限らずソフトの継続性というのは流通レベルでも必要だし、ソフトを作っている人も、市場に出せるのは1年後とか2年後だから、安心できる。ユーザーにとっても宝であり、いっぱいの思い出もあるのでもちろん必要なんですよ。

完璧な互換性をとって、次のフォーマットのためのアーキテクチャ的な自由度を守って、なおかつコストを抑えるというのはたいへんなことです。でもそれはエンジニアのチャレンジとして当然なこと。急に決めたんじゃなくて、初日からスペックに入っていた。急にやったらできない。アーキテクチャ的にも汚くなるし。

Q PS1のコアをI/Oプロセッサにするというアイディアは後から…

A それも最初から決まってた。どうしてかというと、PS2側がものすごい高速のタスクを処理してキャッシュも含めてがんがん動いてるときに、すごい低速な処理をマルチタスクで全部やった日にはいくらPS2のオーバーヘッドを減らしたところでひどいでしょ。だから、このぐらいパフォーマンスが上がったら絶対I/Oプロセッサが必要なわけ。今のプレイステーションがやってることをI/Oプロセッサとして入れようとすると、ARMでもいいしSHでも何でもいいんだけども、今のコアは全部ぼくらが作ったものだし、将来PS3になっても分かるわけだから、これを使おうよということ。

PS1のグラフィックスは途中で1回大きく変えてるんだけど、Niftyのフォーラムで一部騒いでいるだけで、ほとんど誰も気がつかない。でもワンステップ、ワンステップがこういうリアルタイムのシステムでは重要で、しっかりと考えないといけない。

Q 古いプロセッサをI/Oプロセッサに入れたのがいちばん凄いアイディアだし、奇麗だなと思いました。

A ぼくらからすれば当然のことで、初日から決まってたんだけど、Niftyとかfjとか読んでる限りでは、誰もそこに思い至らなかったらしい。互換をとると、次のプレステは物量が少し上がったぐらいになるんじゃないかとか、高くなるとかいう議論が延々と続いているのを見ると、割合と発想が貧困だなと思う。

Q やっぱり今まで他社の場合は、技術的に難しかった?

A どうしてかというと、自社で開発してないから。任天堂さんはリコーさんとやったり、セガさんは日立さんとやったり。ぼくらはアーキテクチャから始める。だから、次は2004年を目指してスタートする。

Q PS3が出たときはPS2がI/Oプロセッサになってる?

A かもしれない。あるいはまったく違うアーキテクチャになってるかもしれない。なぜかというと、次のコンピュータがね、CPUといえない定義のものになるかもしれないでしょ。フォン・ノイマン型じゃなくなるかもしれない。1億トランジスタとか数億トランジスタが扱える時のアーキテクチャが何であるかと考えるわけだから。そうなったら、これは最後のフォン・ノイマン型のプレイステーションになるかもしれない。

価格はどうなる? 発売日は?
――今年の冬ということは、今年のクリスマスまでに出される?

A 3月31日まであるよ(笑)。実際、ソフトウェアはもちろん、ハードウェアも半端じゃなくたいへんだし、またIntel以外のメーカーがこれぐらいでかいチップを作って量産した例ってないんです。Intelでさえ、今0.25ミクロンプロセスでしょ。でも彼らは10年以上やってるスキルがあるけど、ぼくらがやろうとしてるのは、CPUもグラフィックス・シンセサイザもそれよりでかいから、なかなか刺激的だよね。

ただ出したときに10万台しかないと血を見るだろうから、ある程度の数と継続性、ソフトの継続性も確保したい。PS2発売当初のソフトは絶対大丈夫だと思うわけ。みんなものすごい燃えてるから。ただ毎月毎月継続していけるかどうかというのは、どれだけ皆さんが仕込めるかにかかってる。今から動いて2年後に出るものもあるわけだから。

――発売日はこの基板に載ってるRDRAMの供給量に依存するというような報道もありますが。

A PS1のときは実績がないから信用もないし、バイイングパワーもなかった。今回はクレディビリティ、キャッシュフローもバイイングパワーもある。われわれの購買力はIntelの購買力と同じぐらいある。PC 98というフォーマットがあるとすれば、うちにはPS2というフォーマットがあるので入れてくださいという話ができるようになった。

――価格は。

A それは最後の最後(笑)。もう決まってるけど。

――DVDビデオが見れるということは、ソニーのDVDプレーヤーが安くても5〜6万円することを考えるとそんなに安くできないのでは?

A DVDビデオが再生できるなんてまだコンファームしてないよ(笑)、セット発表じゃないから。1394とかUSBも、セット発表したときに突然付いてたら、ソニーに言われて付けたと思われたらしゃくだから先に発表したの。

Q でも色は選べるんでしょ?

A そのうちね(笑)。最初からは贅沢だよ。自分でペインティングしてよだよね。PS1もそういうアイディアはいっぱいあった。でもそれ以上に安定的に供給しなければならないというニーズもあってね。実は相当カラーリングを検討したんだよ。最後まで出せずじまい。

――フィニッシュはどうなんでしょう? いわゆるゲーム機的なのか、それともAV機器的な…

A 突っ込まないでよ(笑)。もう決まったよ。決まったけどまだ言えないな。

――3万円台とかではないように思うのですが。

A なんのフォローにもならないけど、PS1を出したとき、スーファミがビックカメラで1万2800円ぐらいだった。PS1をやるとき、3DOの二の舞になるからやめておけとか言われた。でも3DOは7万円以上したけど、高いから売れなかったんじゃなくて、高いだけの価値がなかったんだよね。あれでも凄けりゃメッセサンオーで飛ぶように売れるよ。

だからって高くするっていう意味じゃなくて、ヴァリューということを考えたときに、PS2が出たときに最初の100万人がいくらで買うかという問題、それと5年間でどれだけ値段を下げるかというぼくらの側の強い意思がある。たとえば最初1万円でスタートしたら、価格弾力性モデルでいくと、最後に2000円とか3000円で売れるかというと、できない。じゃぁ最初10万円でやったら、最後の着地点の価格はいくらか。3万9800円でPS1をスタートして、今1万5000円だけど、1/3ぐらいにもっていければ3x3=9で10倍売れるとかって考えるわけ。

Q 発売時点での価格と、5年後の台数と価格、この三角形で推測してくださいということですね。

A 日米欧の3極で安定的なフォーマットでやりたいということもある。日本はそれほどでもないけど、ワールドワイドで見ると、今の値段で買える層、たとえばアメリカだったらウォルマートなどで買う層のことも考えないといけない。10万円ですと言っても買う人は絶対買う。でも、そこは問題じゃない。誰でも買える値段で出したら、かえって誰もほしくない。でも、禁止的な値段はつけません。

(1999年3月29日16:00時、ソニー・コンピュータエンタテインメント本社にて収録)

《インタビューを終えて》

この日の久多良木氏が特別"ハイ"だったわけではないのだろうが、前半は、そのEmotion Engine級超高速トークの前に我々は質問を差し挟むヒマもないほどであった。記事からも、久多良木氏、そして開発陣がPS2に込めた思い、ゲームの新次元を目指す意気込みが伝わることと思う。今回はチップセットを中心にしたコンセプト+基本仕様の発表だったために商品の詳細についてはまだまだ謎が多いが、強力かつ抜け目ない製品となって姿を表すことは間違いないだろう。今後は、来冬といわれるリリースに向けて、製品としてのプレステ2、ソフトタイトル、開発環境の準備が急ピッチで進められる。(船田戦闘機)

(プロフィール)


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