74.ロブ・ロイ (Rob Roy)
【現代の標準的なレシピ】 スコッチ・ウイスキー(30)、スイート・ベルモット(30)、アンゴスチュラ・ビタース1dash、飾り=マラスキーノ・チェリー
【スタイル】 ステア
「ロブ・ロイ」は20世紀初めに誕生したことは間違いない、代表的なクラシック・カクテルの一つです。洋の東西を問わず、現代でもバーで注文されることが多いカクテルです。カクテル名は、18世紀のスコットランドの有名な義賊、ロバート・ロイ・マクレガー(Robert Roy MacGregor)のニックネームに由来しています。
誕生の経緯については以下の2説がありますが、これまでは主に以下の(1)の説が有名でしたが、近年になって(2)の説もお目見えしています(Wikipedia上では、日本語版と英語版とでそれぞれ違う説を紹介しているなど混乱が見られます)。
(1)1920年代前半にロンドン・サヴォイ・ホテルのバーテンダーのハリー・クラドック(Harry Craddock)が考案(ただし、クラッドックが渡英前の米国時代の20年以前に考案していて、サヴォイに就職した後に発表したという説もある)。(Wikipedia日本語版)
※ただしクラドック自身は、自著で自らの考案かどうかには一切触れておらず、クラドックの自著(1930年刊)以前のカクテルブックにも収録されていることからしても、この説は疑わしいと言わざるを得ません。
(2)1894年、ブロードウェイ・ミュージカル「ロブ・ロイ」のプレミアを記念して、ニューヨークのウォルドルフ・アストリア・ホテルのバーテンダー(名前は不明)が考案した(出典:Straight Up or On The Rocks:Bill Grimes著<1993年刊>、またはWikipedia英語版:Sudhir Andrews:Textbook Of Food & Beverage Management<2008年刊>)。※著名なカクテル評論家デイル・デグロフ氏はこの説を支持しています。
欧米のカクテルブックでロブ・ロイが初めて紹介されたのは、現時点で確認できた限りでは、米国で1914年に出版された「World Drinks and How To Mix Them」(William Boothby著)です。そのレシピは、「ウイスキー3分の2ジガー、スイート・ベルモット3分の1ジガー、アンゴスチュラ・ビターズ2drop(ステア)」となっています。
(※同著は、併せて。「ロブ・ロイNo.2」=ウイスキー3分の2ジガー、ドライ・ベルモット3分の1ジガー、キュラソー2dash、アンゴスチュラ・ビターズ2drop、レモンピール、飾り=マラスキーノ・チェリー、「ロブ・ロイ・ドライ」=ウイスキー2分の1ジガー、ドライ・ベルモット2分の1ジガー、オレンジ・ビターズ2dash、アンゴスチュラ・ビターズ2drop、レモンピール という2つのバリエーションも紹介しています)。
ご参考までに、「World Drinks…」以降の1910~50年代の欧米のカクテルブックで、「ロブ・ロイ」がどのように紹介されているのかを、ざっと見ておきましょう。
・「ABC of Mixing Cocktails」(Harry MacElhone著、1919年刊)英
スコッチ・ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の1、アンゴスチュラ・ビターズ1dash、飾り=マラスキーノ・チェリー(シェイク)
・「Cocktails:How To Mix Them」(Robert Vermeir著、1922年刊)米
スコッチ・ウイスキー4分の1ジル(ジル<gill>は昔の容量単位で、1ジルは約120ml)、ドライ・ベルモット4分の1ジル、ガムシロップまたはキュラソー2~3dash、アンゴスチュラ・ビターズ1~2dash、レモンピール、飾り=マラスキーノ・チェリー(ステア)
・「The Savoy Cocktail Book」(Harry Craddock著、1930年刊)英
スコッチ・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、アンゴスチュラ・ビターズ1dash(シェイク)
・「Cocktails」(Jimmy of The Ciro's著、1930年刊)米
スコッチ・ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の1、アンゴスチュラ・ビターズ1dash(ステアかシェイクかは不明)
・「The Artistry of Mixing Drinks」(Frank Meier著、1934年刊)仏
スコッチ・ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の1、アンゴスチュラ・ビターズ1dash(ステア)
・「Waldorf-Astoria Bar Book」(A.S. Crockett著、1935年刊)米
スコッチ・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、オレンジ・ビターズ1dash(ステア)
・「Café Royal Cocktail Book」(W.J. Tarling著、1937年刊)英
スコッチ・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット4分の1、ドライ・ベルモット4分の1、アンゴスチュラ・ビターズ3dash(ステア)
・「Trader Vic's Bartender's Guide」(Victor Bergeron著、1947年刊)米
スコッチ・ウイスキー1オンス、スイート・ベルモット2分の1オンス、アンゴスチュラ・ビターズ1dash、飾り=マラスキーノ・チェリー(ステア)
・「The Official Mixer's Manual」(Patrick G. Duffy著、1948年刊)米
スコッチ・ウイスキー1ジガー、スイート・ベルモット3分の2ジガー、アンゴスチュラ・ビターズ2dash、レモンピール(ステア)
・「Esquire Drink Book」(Frederic Birmingham編、1956年刊)米
スコッチ・ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の1、アンゴスチュラ・ビターズ1dash(ステア)
以上のレシピからも分かるように、「ロブ・ロイ」は、あの有名なカクテル「マンハッタン」のスコッチ・ウイスキー版とも言えます(「スコッチ・マンハッタン」「パーフェクト・マンハッタン」との異名もあります)。おそらくは、マンハッタンのバリエーションとして誕生したことは疑いないでしょう。
「ロブ・ロイ」は日本にも1920年代前半までには伝わりました。20年代のカクテルブックにもいち早く収録されています。しかし、日本に初めて伝わったロブ・ロイは、なぜか以下のようにスイート・ベルモットではなく、ドライ・ベルモットを使うレシピとなっています。
【確認できる日本初出資料】 「カクテル(混合酒調合法)」(秋山徳蔵著、1924年刊)、「コクテール」(前田米吉著、1924年刊)。レシピはそれぞれ以下の通りです。
秋山本=スコッチ・ウイスキー2分の1ジガー、ドライ・ベルモット2分の1ジガー、アンゴスチュラ・ビター2dash、オレンジ・ビターズ2dash、レモンピール(ステア)※秋山氏は明らかに、上記Boothby著の「World Drinks…」の「ロブ・ロイ・ドライ」のレシピを参考にしている。
前田本=ライ・ウイスキー2分の1オンス、ドライ・ベルモット2分の1オンス、キュラソー1~2dash、アンゴスチュラ・ビター1dash、レモンピール、飾り=マラスキーノ・チェリー(ステア)※ライ・ウイスキーをベースにしたとても珍しいレシピ。前田氏が欧米のどのカクテルブックを参考にしたのかは詳細不明です。
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Last updated
2021/07/01 10:37:11 AM
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うらんかんろ
大阪・北新地のオーセンティック・バー「Bar UK」の公式HPです。お酒&カクテル、Bar、そして洋楽(JazzやRock)とピアノ演奏が大好きなマスターのBlogも兼ねて、様々な情報を発信しています。
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▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。 ▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。▼コロナ禍の家飲みには、Bar UKのハウス・ウイスキーでもあるDewar's White Labelはいかが?ハイボールに最も相性が良いウイスキーですよ。▼ワンランク上の家飲みはいかが? Bar UKのおすすめは、”アイラの女王”ボウモア(Bowmore)です。バランスの良さに定評がある、スモーキーなモルト。ぜひストレートかロックでゆっくりと味わってみてください。クールダウンのチェイサー(水)もお忘れなく…。