財政難に人口減少、岐路に立つ京都市 成長の解は
「岐路の京都市財政」まとめ読み
世界から観光客が集まる京都市が深刻な財政難に直面しています。市民1人当たり税収がコロナ禍の前から政令指定都市の平均より少なく、「財政難は構造問題」と指摘する専門家も。京都市が財政難に陥った税収の要因は何か。今後欠かせない地下鉄・市バス事業の経営改善、成長に向けた人口増加やスタートアップ企業誘致の課題をまとめました。(内容や肩書などは掲載当時のものです)
京都市の借金、政令市最悪レベル 続くサービス削減
古都ならではの支出がある一方で税収は少ない――。京都市の財政課題の原点だ。二条城だけでなく祇園祭や五山の送り火など町全体が伝統行事の舞台。経費は圧縮しているものの2022年度は予算段階で祇園祭や送り火の支援に6500万円をあてた。
一方で景観保護は税収にマイナスだ。高さ31メートルを超えるビルなどを制限して木造の京町家も多く残る。固定資産税が少ないことで市民1人当たり税収は政令指定都市平均より1万154円(約5%)少ない。政令市の財政に詳しい大阪大学の北村亘教授は「財政難は昭和30年代から続く構造問題」と話す。
観光客や学生は納税義務者少なく
財源不足は京都市の人の滞留の仕組みにも一因がある。北村教授は「ほかの大都市と同じような通勤・通学の昼間人口だけでなく観光客が大量に流入する」と話す。観光客の消費はあるが、住民税を支払うわけではない。京都市中心部のマンションを別荘として使って滞在する首都圏や海外の富裕層には住民税を課税できない。
また、大学が多い京都市は学生が人口の約1割を占めており納税義務者が比較的少ない。固定資産税のかからない寺や神社が多いのも税収が少ない一因とされる。...続きを読む
京都市地下鉄、バブルのツケなお重く 資金不足417億円
京都市の中でも地下鉄・市バス事業は特に財政が厳しい。新型コロナウイルス禍以降の外出制限などが直撃し、運賃収入は20年度が19年度比149億円減、21年度が同120億円減と2年間で269億円の減収になった。
地下鉄とバス事業は22年、相次いで運行本数を減らした。今後は運賃を引き上げる方向だ。地下鉄の初乗り運賃は220円で全国の公営地下鉄で最も高く、同じ関西の神戸市営地下鉄を10円上回っている。運賃水準はさらに24年にも7%程度上がる可能性がある。利便性が下がって料金が上がれば利用者離れを招く悪循環に陥りかねない。
過去の遺跡調査で工期延期
重くのしかかっているのが総額8500億円を投じて整備した地下鉄の市債の償還だ。90年代以降に整備した東西線は整備工事で過去の遺跡調査が必要になった。平安時代の庭園などが出土し工期が延びるごとに費用がふくらんだ。
バブル期に整備の時期が重なったことで一部の金利が当初5%以上と他の自治体と比べて高くなった。累積資金不足は今や過去最大の417億円に達する。21年から地下鉄は国から管理を受ける経営健全化団体になっている。...続きを読む
京都市、規制緩和で子育て世代や企業誘致 人口減に悩み
コロナ禍の打撃は人口動態に表れている。総務省によれば1月時点の京都市の人口は21年の1年間で1万1913人減ったが、転出者と転入者の差の社会減は4819人と全国2位。留学生が減少した要因はあるが、観光産業などで働き場を失った転出者も含まれる模様だ。
だが、京都市の人口減にはもっと根深い要因があった。市は京町家などが並ぶ街並みを守るために07年から「新景観政策」として全国でも厳しい建物の高さ制限をかけてきた。マンションは最高でも10階建て(31メートル程度)程度で住宅供給が不十分だったとされる。
成長力向上へスタートアップ企業を誘致
市はスタートアップなどのIT(情報技術)企業誘致にも力を入れる。進出企業に最大400万円を補助する制度を22年に始めた。これによりスタートアップのスマートキャンプ(東京・港)など約10社が拠点を開いた。
一方で課題も残る。市はオフィスや工場を呼び込むため23年春にも南部の工業地帯など一部地域の容積率をこれまでの400%から1000%にまで緩和する方向だ。しかし、産業界からは「そもそも交通などの利便性に課題がある」(京都商工会議所の塚本能交会頭)といった不満が残りバス路線などのインフラ整備も欠かせない。...続きを読む
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