サッカーW杯AI導入で一変オフサイド計252回…前回ロシア大会から80回増…担当記者が振り返る

オフサイドのVAR
オフサイドのVAR

 1か月前のW杯開幕戦。開始2分38秒、新技術の半自動オフサイドテクノロジーがいきなり発動した。エクアドルFWバレンシアがネットを揺らしたが、2分後にオフサイド判定で“幻”に。精密な3Dグラフィック画像が場内スクリーンで何度も流れ、味方選手の右膝から下が数センチ出ていた。歓声にブーイングと大混乱。衝撃的な幕開けだった。

 優勝したアルゼンチンも“洗礼”を浴びた。サウジアラビアとの1次L初戦。メッシが開始10分にPKで先制したが、前半に味方が3度ネットを揺らすも全てオフサイド判定となり「混乱した」(メッシ)。大会最多10回も相手DFの“網”にかかり、後半に痛恨の逆転負けを食らった。

 会場のカメラ12台が各選手を1秒間に50回追跡。ボール内部に搭載のセンサーが1秒間に500回、ピッチ上の正確なデータを送り、人工知能(AI)とビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が判定を導く。新テクノロジーはW杯を一変させた。

 一大会(64試合)の合計オフサイド数は、18年ロシアから80回増の252回。際どい場面の得点取り消し、その逆も激増した。日本―スペイン戦では、三笘のゴールライン際の折り返しから田中の決勝点を呼んだ「三笘の1ミリ」も話題を呼んだ。日本協会の反町康治技術委員長は「10年後にはレフェリーもいなくなるかも」と舌を巻いた。

 警告(退場含む)数は前回大会から9枚増の234枚。アルゼンチン―オランダ戦で計18枚が乱れ飛ぶ珍事が起こったが、合計は微増だった。日本はスペイン戦で0―1の前半に吉田、板倉、谷口のCB3人が警告を受けた。吉田は主審に何度も「ちゃんとジャッジしてくれ」と抗議してペースを引き寄せ、逆転勝利につながった。

 イタリア1部・セリエAが来月から新テクノロジーの導入を発表。AIによる正確な判定が広がる中、ピッチで裁く審判とのコミュニケーション、巧みな交渉術も不可欠と感じた大会だった。(星野 浩司)

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