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吉田寮へ通知で波紋 交渉停滞の陰に執行部干渉か

2015.08.01

7月28日、大学当局は吉田寮自治会に対し秋期入寮募集停止を要請する通知を出し、翌29日に大学公式サイト上で公表した。これを受け吉田寮生らは29日午後に大学当局への抗議を始め、杉万理事と団体交渉の上、通知は寮自治会との確約に違反すると杉万理事に認めさせる確約を結んだ。確約に基づき臨時理事・副学長会議が30日に急遽開かれたが、通知は撤回されなかった。会議後再度団交が持たれ、吉田寮自治会と杉万理事の間で通知の撤回に向けて今後団交していくことが確約された。寮自治会と大学当局の団交は3月9日以来開かれておらず、協議が停滞していたが、団交開催について執行部が反対していたという背景が今回浮かび上がった。

吉田寮自治会への通知は7月28日の臨時部局長会議で報告された後、同日教育推進・学生支援部厚生課より吉田寮自治会へメールで送付された。通知は杉万俊夫学生担当理事・副学長の名で出され、現棟の耐震性を理由に、寮生が現棟から4月竣工の新棟に転居し現棟の居住者を減らす必要があるとの考えを示した上、寮自治会に対し、2015年度秋期より新規入寮者の募集を行わないこと、欠員補充を行わないことの2点を求めている。通知は翌29日山極寿一総長の名で公表され、8月1日現在も大学公式サイト上に掲載されている。新聞各紙が通知を報道し、ネット上では吉田寮が潰れるというような風評が広がった。転居させてどうするのか通知で言及していないことが、そのような風評を生んだ主因と言える。

新聞報道から通知の公表を知った吉田寮生らは29日午後、教育推進・学生支援部厚生課への抗議を始めた。抗議を受けて杉万理事が対応に当たり、教育推進・学生支援部会議室で杉万理事と吉田寮自治会の団体交渉が開かれた。寮自治会は、通知が一方的な決定であること、並びに通知の公表が決定の規定路線化を促すことについて、吉田寮の運営について寮自治会と合意の上で決定するという確約に違反すると批判し、通知の撤回および公式サイト上からの削除を要求した。杉万理事は通知の不当性を認めたものの、自分の一存では撤回できないと応じた。山極総長名で通知が公表されているため山極総長を呼ぶように寮自治会が求めると、杉万理事は一度本部棟へ向かい、戻って山極総長の不在を伝えた。寮自治会が再度、総長に連絡をとるよう求めた末、部局長会議で決めたことなので撤回できないという総長の考えが示された。

この間に寮生らは本部棟前へ移動し、杉万理事は本部棟内外を何度か往復していたが、「一.7月30日(木)に理事会を開催する。 一.今後の話し合いの機会を否定するものではない。 杉万俊夫」という手紙を渡したのを最後に、本部棟から出てこなくなった。何の合意もないまま団交を終えることはできないとして寮自治会は確約草案を作成し、教育推進・学生支援部長を通じて草案を杉万理事に届けた。杉万理事が横になっていることを理由として、部長の往復や電話で協議が進められ、最終的に日付をまたいで2時頃に確約が結ばれた。確約では、通知の公表は確約違反であり通知を撤回すべきであること、臨時理事・副学長会議で通知の撤回に向けて尽力し会議後に結果を団体交渉で報告すること、山極総長を含む団体交渉を設定することの3点を杉万理事が約束した。

臨時理事・副学長会議が開かれた30日、寮生らは朝から本部棟前で待機するなどして会議の動向を探った。先に結ばれた確約では会議の時間と場所が決まり次第、吉田寮自治会へ知らせることになっていたが、会議が開催されたのかどうかも把握できないまま、15時半頃、教育推進・学生支援部長及び同学生課長を通じて総務部より、16時から理学研究科3号館数学教室大会議室で会議の結果報告を行うと通達された。この通達まで教育推進・学生支援部も会議の開催情報を把握できていなかったという。

会場では杉万理事と教育推進・学生支援部職員のほか、5、6人の本部職員と3人の民間警備会社警備員が待機していた。また会場の外には約40人(推定)の職員が集まっていた。団体交渉の開始前に寮自治会は、寮生らへの示威行為であり余計な緊張を高めるとして、団交の進行上必要のない職員と警備員の退去を求めた。杉万理事は持病を打ち明け、2時間で団交を終えることを退去の交換条件として提示したが、健康上の都合と警備員等の配置は別問題であり当局と寮自治会の信頼関係を損なうものだと再度批判された。結局、無条件で職員と警備員は退去し、当局側は杉万理事と教育推進・学生支援部長、同学生課長および3人の厚生課職員で団交が始まった。

はじめに杉万理事から臨時理事・副学長会議の結果が報告された。通知の撤回や公式サイト上からの削除はされず、通知に2点の補足が付け加えられることとなった。通知は廃寮化を前提とするものではない、今後の現棟のあり方は調査結果を踏まえて寮自治会と検討するというもので、これも同日中に大学公式サイト上で公表された。転居後の扱いを再び明示せず、通知にない調査が説明なく登場するものであった。会議の結果を受けて寮自治会は、団交という公開の場で結ばれた杉万理事との合意事項が当局の非公開の会議で覆されることを批判し、杉万理事が説得できないなら反対する理事や総長を団交の場につれてくるべきだと主張した。杉万理事自身は確約に基づいて通知の撤回を主張したが、他の理事に反対されたという。会議での審議内容を問われたが杉万理事は具体的な回答を避けた。京大の主要な会議は公式サイトに議事録を掲載しているが、そこに議論の中身は含まれておらず、議題と審議結果のみ記されている。杉万理事は、議事録とはそういうものだと述べた。

吉田寮自治会はさらに通知の内容に批判を加えた。通知では現棟が耐震性を欠き寮生の生命が危険にさらされることを憂慮しているが、これに対し寮自治会は、現棟の老朽化は70年代から問題化していたにもかかわらず当局が対策を怠ってきたのであり、寮生の生命が危険に晒されているのであれば、それは当局の責任だと主張した。また現棟から新棟への転居が必要だとの考えについて寮自治会は、調査等のために部屋を空けることが必ずしも必要だとは限らず、調査内容が明らかでないのに寮を空けることには合意できないと批判した。調査のために寮を空けるという話は、2月19日の団交でも杉万理事が私案として提示したが、寮自治会の反論を受けて撤回されていた。寮生らは、合意の上であれば調査や補修のために部分的に寮を空けることは可能だとの姿勢を示している。

吉田寮では2006年に一度、具体的な補修案がまとまったことがある。調査が済んで図面も仕上がり、補修のために実際に北寮の大半を空け、北寮を全部空ける準備もしていたという。しかし当局が予算を付けられなかったことを主な理由として案は白紙となった。その後、赤松前理事の任期中、2012年9月には、現棟の老朽化対策について補修が有効な手段であり補修の実現に向けて協議を続けると確約されている。赤松理事は新棟建設と寮食堂補修を全うし、後任の杉万理事が現棟老朽化対策を任される形となった。2015年1月、吉田寮自治会は現棟補修の手段として京都市条例を適用することを提案し、3月9日の団交で杉万理事はこれに同意していた。

3月9日以降、今回の通知が出されるまで、吉田寮自治会が団交を要求していたにもかかわらず団交が開かれていなかった。これについて吉田寮自治会は30日の団交で、京都市条例案に基づいて協議を進めていれば、今頃補修が始まっていたかもしれないと追求した。対して杉万理事は、他の理事が反対していたために3月9日以降これまで団交が開けなかったと説明し、他の理事らのおかげで現棟の老朽化対策が停滞していたことが明らかになった。その理事が誰なのか尋ねられたが杉万理事は回答を渋った。

吉田寮自治会の批判や主張に対し、杉万理事から明確な反論は見られなかった。団交の途中、20時半頃、杉万理事が体調不良を訴えた。そのため寮自治会も確約締結を急ぎ、通知はあくまで提案に過ぎず撤回可能であり、撤回にむけて今後団交をすることを最後に確認して確約を結んだ。また確約文書を京大公式サイトで公開することを求めた。21時頃、団交は終了した。

吉田寮自治会は8月1日時点で、秋期入寮募集を通常通り実施すると寮公式サイトで発表している。入寮募集・選考は寮自治会が実施している。

2015年7月29日付確約

私は学生担当理事・副学長として、以下の内容に合意する。

1、7月28日に大学当局から吉田寮自治会に出された文書「吉田寮の入寮者募集について」(以下「文書」)を翌29日に京都大学ホームページ上で公開したことは、大学当局が当事者である吉田寮自治会との一切の合意なく決定した入寮募集停止を、一方的に公表・既定路線化するものであり、吉田寮自治会との確約に違反することを認める。したがって文書は撤回し、ホームページ等で撤回の旨を周知するべきであることを認める。

2、7月30日に設定する理事副学長会議で、文書を撤回しホームページ等で撤回の旨を周知するよう尽力する。その時間帯と場所は決まり次第速やかに吉田寮自治会に連絡する。7月30日に団体交渉を開き、会議の結論について吉田寮自治会に説明する。また会議の議事録を全て吉田寮自治会に対し公開する。

3、吉田寮自治会の要求に応じて、本件に関し山極総長を含む団体交渉を設定する。

2015年7月29日 杉万俊夫



2015年7月30日付確約

「吉田寮の入寮者募集について」はあくまで理事・副学長会議としての提案にすぎず、決定ではない。提案は撤回することが可能である。今後文書の撤回に向けた吉田寮自治会との団体交渉を行う。

2015年7月30日 杉万俊夫



【確約の説明】29日付の確約について、原版には日付の記載がなく、本紙掲載に当たって追加した。厳密には30日午前に結ばれたものだが、吉田寮公式サイトにならって29日付とした。なおこの時点では通知の撤回と公式サイト上での公開停止が論点としてあまり区別されていないように思われる。これらの確約は吉田寮公式サイトで公開されており、本紙掲載に当たっては同サイトから引用した。