新型コロナウイルスによる業績悪化で株主優待制度を廃止、縮小する企業が出始めた。次々に届く優待品を楽しみにしてきた多くの個人株主からは不満の声が漏れる。一方、機関投資家は事情が異なる。優待品をどう扱っているのか。知られざる実態を追った。

<span class="fontBold">光世証券が寄付した優待品(左上)。こども食堂は弁当持ち帰りの形で再開した。岡三証券が寄付したコメを使ったキーマカレーを準備するスタッフ(下)。</span>
光世証券が寄付した優待品(左上)。こども食堂は弁当持ち帰りの形で再開した。岡三証券が寄付したコメを使ったキーマカレーを準備するスタッフ(下)。

 6月中旬、東京都葛飾区に拠点を置くレインボーリボンは地域の子ども向けに、弁当の持ち帰りサービスを始めた。レインボーリボンは子どもに無料や定額で食事を提供する「こども食堂」を運営するNPO法人。コロナの影響でこども食堂を開けなくなっていたが、弁当を持ち帰ってもらう形で密を回避しながら再スタートした。

 ある日の弁当のメニューはキーマカレー。使っているコメは、じつは岡三証券から提供された株主優待品だ。

 コロナはこども食堂に通う児童に多大な影響を及ぼした。緊急事態宣言で休校になり、給食を食べられないことで栄養が不足する困窮家庭の子どもが増えた。レインボーリボンは臨時休校中、近隣の弁当店や飲食店の協力を得て、こども食堂に普段通う児童らに、1495個の弁当を届けた。給食が再開された6月からは、弁当配布の形でこども食堂を復活させると同時に、困窮家庭にコメなど食料の支援物資を配る対応も始めた。

 ここで問題が起きた。こども食堂なら1回の開催で10~20合分のコメがあれば足りたが、各家庭に食料を配布するとなると一家庭に1合や2合というわけにはいかない。「各家庭に最低でも2kgという単位が必要になる。一般の方からの寄付だけではコメが足りなくなった」(緒方美穂子代表)

 レインボーリボンが頼ったのは、日本証券業協会(日証協)が今年1月に稼働させた「こどもサポート証券ネット」だった。日証協に加盟する証券会社は、自社に送られてきた株主優待品を日証協に寄付できる目録として登録する。日証協がNPO法人の希望と突き合わせてマッチすれば、優待品が証券会社から直接NPOに送られる仕組みだ。

株主優待の有効活用が始まった
●日証協のこどもサポートシステムの仕組み
<span class="fontSizeM">株主優待の有効活用が始まった</span><br><span class="fontSizeXS">●日証協のこどもサポートシステムの仕組み</span>

 緒方代表がこどもサポート証券ネットに登録してみると、コメを提供してくれる証券会社がいくつも見つかった。これまでに光世証券から魚沼産コシヒカリと缶詰、岡三証券からコメや焼きのり、スープなどを受け取った。緒方代表は「株主優待品なので贈答品のような高級品でとてもいいものがいただける」と感謝する。弁当の持ち帰り形式で再開したこども食堂でも、キーマカレーのように優待のコメが活躍中だ。

寄付による社会貢献

機関投資家を悩ませるのが生鮮品の優待品だ
●株主優待に生鮮品を活用している主な事例
<span class="fontSizeM">機関投資家を悩ませるのが生鮮品の優待品だ</span><br><span class="fontSizeXS">●株主優待に生鮮品を活用している主な事例</span>

 コメを送った岡三証券や光世証券は、上場企業の株を多く保有する。株主として優待品を受け取ったものの、自社では消費できないため寄付したというわけだ。10月20日時点でこどもサポート証券ネットに参加する証券会社の数は32社に達し、支援を求めるNPOなどの数も32団体ある。1月15日の運用開始から10月20日までの間のマッチング成立件数は223件を数え、コメや飲料、レトルト食品などがNPOに支給された。

 なぜ、このような仕組みができたのか。個人投資家が喜ぶ株主優待は、証券会社のような機関投資家にも平等に送られてくる。しかし個人名義ではなく法人として株を持つ投資家は、取り扱いに苦慮しているというのが実情だ。

 優待品がクオカードのように換金可能な場合、換金して雑益という項目で収入に繰り入れることが多いようだ。しかしコメなど食料品は換金ができない。ではどうするのか。

<span class="fontBold">各種株主優待券は街中の金券ショップで売られている</span>(写真=AP/アフロ)
各種株主優待券は街中の金券ショップで売られている(写真=AP/アフロ)
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