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 「普通の女の子に戻りたい」。突然の解散で、半ば伝説と化したアイドルがキャンディーズです。今回は代表曲の一つ「やさしい悪魔」に注目。それまでの持ち歌と、ひと味違う印象を与えた秘密をたどります。

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 当時、学校に通っていた世代なら、教室を二分する「キャンディーズ派」対「ピンク・レディー派」の構図の中に、多くの人がいたはずだ。「クラスの男子には、圧倒的にキャンディーズが人気でしたね」(愛知、55歳女性)という意見がある一方で、「ピンク・レディーの出現で、クラスでは少数派になってしまった」(東京、50歳男性)との証言も寄せられた。

 レコードセールスでは、キャンディーズはピンク・レディーの後塵(こうじん)を拝していた。「良い歌を歌ってもなかなか1位を奪えない。そこに、男性ファンの人気を集めた秘密がある」(大阪、59歳男性)との見方は、鋭いかもしれない。

 キャンディーズがオリコンチャート1位をとったのは、解散直前に出した「微笑がえし」が初めて。全国に衝撃が走った1977年7月の解散宣言以前で、最も売り上げていた楽曲こそ「やさしい悪魔」だった。

 77年3月にリリースされ、翌月には4位まで上り詰める。忍び寄る悪魔のような靴音が響くイントロが印象的。アン・ルイスのデザインによる赤い飾りのついた黒いレオタードに網タイツ、指でつくるデビルサイン。そんなビジュアルも記憶に残る。「ピンク・レディーを意識したのか、露出度を増したコスチュームに驚いた」(岐阜、56歳男性)と語る人は多い。

 この「変化」の仕掛け人は、所属事務所「渡辺プロダクション」の渡辺晋社長(故人)だった。作詞に喜多條忠(68)を指名。「3人(伊藤蘭〈ラン〉、田中好子〈スー〉、藤村美樹〈ミキ〉)を大人にしてくれ」と、直々に頼んだという。「全面的に任せるというので、網タイツ姿で歌わせてもいいかと提案したら、構わないと言われて驚いた」と、喜多條は振り返る。

 そんな要望に応えて書かれた歌詞は「今までとは違う雰囲気で、子ども心にも刺激的」(千葉、48歳女性)なものとなった。

 作曲は、「フォーク界のプリンス」と呼ばれた吉田拓郎が手がけた。「拓郎節」がにじむメロディーは「今聴いても他の誰にも作り得ない新しさがあり、バンド小僧の琴線に触れる」(神奈川、51歳女性)、玄人好みの曲調だった。

 カラオケで歌うと分かるが、この曲は音域の幅が広く、なかなかの難曲だ。3人も、当初は「歌えません」と音を上げたと、ラジオで打ち明けていた。

 そこで拓郎は、ギター持参でともにスタジオに入り、付きっきりで歌唱指導したという。それが生き、「きれいなハーモニーと、テンポの良い曲調が新鮮」(石川、66歳男性)といった魅力をたたえている。拓郎は自らコーラスに加わる一方で、様々な靴で試行錯誤するこだわりで、イントロの靴音を演出している。

 ほかの歌手への提供曲などを自ら歌い、拓郎が同じ年の4月に発表したカバーアルバム「ぷらいべえと」にも、「やさしい悪魔」は収められている。そのジャケットを飾っているのは、拓郎自身が描いた伊藤蘭の絵だった。

 きっと拓郎も、「キャンディーズ派」だったに違いない――。そんなことを、思わずにはいられない。

 ■洋楽曲もランクイン

 当時のオリコンランキングを見ると、今も多くの人の記憶に残る曲が目白押し。「この頃は良い歌がたくさんあった。社会の状態が良かったのでしょうか」(福岡、63歳男性)

 約40年の時を経て、改めて読者の皆さんに投票してもらった結果は、1位が「津軽海峡・冬景色」(石川さゆり)。次いで「青春時代」(森田公一とトップギャラン)。「やさしい悪魔」は3位につけた。「『津軽海峡・冬景色』は永遠のカラオケ曲。『青春時代』も、いまだ心に響く」(広島、66歳男性)という具合に、両曲を同時推しした人も少なくない。

 ハイ・ファイ・セットの「フィーリング」は、その透明感のある歌声が聴く人を魅了する。「聴いた当時はまだ小学生で、愛も恋も文字だけで知る世界だったが、山本潤子の歌声は子ども心にも響いた」(群馬、49歳女性)

 洋楽がランクインしているのも印象的だ。「スカイ・ハイ」(ジグソー)は、華麗な空中殺法で人気を博したメキシコ人覆面レスラー、ミル・マスカラスの入場テーマ曲に使われて大ヒット。「本当に大空へ飛び出すような感じの曲だった」(京都、51歳男性)、「テンションが上がる曲」(東京、55歳女性)。プロレスが、ゴールデンタイムに放映されていた時代だった。=敬称略(沢田歩)

 <調査の方法> 朝日新聞デジタルの会員登録者を対象に3月半ば、アンケートを実施した。回答者は1631人(男性62%、女性38%)。調査会社オリコンが1977年4月に調べたシングル売り上げランキングの上位20曲から、「好きな曲」「思い出深い曲」を選んでもらった。曲は同月発売とは限らず、また何カ月にもわたってランク入りする場合もある。アーティスト名の表記は当時のもの。

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