<連載> 腸サイエンスの時代

大腸の不調と心の病の密な関係 うつ病と腸内環境、幸せホルモン

「脳腸相関」から考える 大腸ケアとストレス対策(下)

2020.07.20

 慢性的な便秘や下痢といった大腸の不調は、うつ病など心の病との関わりでも注目を集めています。心と体の調子を整え、脳と腸との関係が悪循環に陥るのを防ぐには、どんな注意が必要でしょうか。精神科医で杏林大学名誉教授の古賀良彦さんに聞きました。

研究進む「体から心へ」の影響

 私たち精神科医はよく、心身症という言葉をつかって、心の問題が体の機能に影響を及ぼす症例を説明してきました。脳と腸との関係をみる「脳腸相関」では、これを一歩進め、体の不調が心の病にもたらす影響にも研究が広がってきています。

 たとえばいま、うつ病との関連で注目されているのが、幸せホルモンなどと呼ばれるセロトニンと腸内環境とのかかわりです。

古賀良彦・杏林大学名誉教授
杏林大学名誉教授で精神科医の古賀良彦さん(撮影:村上宗一郎)

 もともとセロトニンは、気持ちの高ぶりを抑えたり、気分をリラックスさせたりする神経伝達物質として知られています。うつ病の場合、このセロトニンを介した情報の伝達に問題が生じることがわかっています。

幸せホルモン「セロトニン」の生成に乱れ?

 実は、脳内のセロトニンは、腸から送られてきた材料をもとにして作られています。便秘や下痢といった腸内環境の乱れがおきたとき、このセロトニン生成のメカニズムになんらかの乱れが生じ、ストレスを過度にうけたり、うつ病を発症しやすくなったりするのではないか。そんなことが考えられています。

 実際、頻繁に下痢をする過敏性腸症候群では、下痢という体調不良が心の健康に悪影響を及ぼすことが臨床的に知られています。おなかの調子が気になって、引きこもりがちになったり、いらいらしやすくなったり、気分が落ち込んだりするのです。

 腸内細菌とうつ病の関わりをみる研究もあります。うつ病の人の腸内細菌を調べたところ、大腸に生息する善玉菌のビフィズス菌などが、健康な人の腸内細菌より少ないといった結果が報告されています。

体と心、両面に目配りする医師を

 心と体の相互関係は、これからさらに明らかになっていくでしょう。それにあわせて、医師の役目も変わっていきます。精神科医はもっと体のことを重視しないといけないし、内科医は心のこともしっかりケアする必要がある。とくに自律神経の乱れによる体への不調が心に影響を与えやすいシニアにとっては、この両方に目配りをしてくれる医師こそが、よい主治医といえるのではないかと思います。

 もちろん薬や医療に頼り切りではいけません。たとえば便秘は薬を飲めば治まるかもしれません。しかし、薬にはいろいろなマイナスがある。それは下剤でも同じです。当座を薬でしのぐとしても、不調を招いた食生活や生活習慣を見直していくことが大切です。

心身を整える二つの基本リズム

 重要なのは生活のリズムを整えること。まず、朝はちゃんと起きて、日光をあびてください。これで脳が目覚めます。そしてきちんと決まった時間に食事をとることです。この二つがリズムの基本となります。

 新型コロナウイルスの影響で、在宅勤務となった人からよく寄せられるのが、コロナ太りとリズムの乱れです。運動不足から便秘気味になる人も多くいます。

 そんな不調を感じる人たちも、二つの基本リズムを心掛けてみてはどうでしょう。通勤をせずにすみ、仕事時間の配分もある程度、自己管理できる。そんなテレワークの本来のメリットを生かすことにつながるはずです。(談)

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  • 古賀 良彦
  • 古賀 良彦(こが・よしひこ)

    杏林大学名誉教授・精神科医

    慶応義塾大学医学部卒業。杏林大学医学部精神神経科学教室主任教授を務め、現在は同大学名誉教授。日本催眠学会名誉理事長、日本薬物脳波学会副理事長、日本臨床神経生理学会名誉会員。専門分野は、脳機能画像によるストレス対処の研究。著書に『睡眠と脳の科学』(祥伝社新書)、『パンデミックブルーから心と体と暮らしを守る50の方法』(亜紀書房)など。

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