コラム

THE WAY OF MLB メジャーの流儀

MLBフリーエージェントの仕組み

 FA(フリーエージェント)になった選手がこれまでとは異なる球団と契約すると、一部のFAに関しては、それまで所属していた球団に、補償としてドラフト指名権が与えられる。この点は従来通りなのだが、その補償の規定は、2012年のオフ(2012~13年)から大きく変わった。

 以前は、イライアス・スポーツ・ビューローのランク付けで「タイプA」「タイプB」に分類されたFAが他球団と契約した場合、それまで選手の所属していた球団が年俸調停を申請していれば、選手のタイプと獲得した球団の順位に応じて、選手を獲得した球団からドラフト指名権を譲渡されたり、1巡目の後、2巡目の前に位置する補完指名権を与えられていた。

 現在、選手のタイプ分けは廃止され、代わって補償の対象は、直近のシーズン中に途中移籍しておらず、所属していた球団からメジャーリーグ全体の上位125選手の平均年俸と同額の1年契約を提示(クオリファイリング・オファー)された選手となっている。その選手がオファーを拒否してFAになり、他球団へ移った場合に、次のドラフトで指名権の補償が発生する。

 流出球団は補完指名権を得て、獲得球団は持っているうちで最も順位が高いドラフト指名権を喪失する(流出球団には譲渡されず、以降のドラフト順位が繰り上がる)。ただし、全体10位以内の指名権は保護されていて、10位以内の指名権を持っている時は、11位以降で最高順位の指名権を失う。

 球団がクオリファイリング・オファーできるのは、ワールドシリーズ終了から5日以内。選手はワールドシリーズ終了から12日以内に、オファーを受け入れて残留するか、拒否してFAになるかを決めなければならない。拒否しても、交渉して再契約することは可能だ。

 2012年のオフは、上位125選手の平均年俸額が1330万ドルで、9選手がクオリファイリング・オファーされていずれも拒否した。そのうち、デービッド・オルティス(ボストン・レッドソックス)、黒田博樹(ニューヨーク・ヤンキース)、アダム・ラローシュ(ワシントン・ナショナルズ)の3選手は再契約。6選手が球団を移り、例えば、テキサス・レンジャーズからFAとなってロサンゼルス・エンゼルスと契約したジョシュ・ハミルトンの場合は、エンゼルスがドラフト全体22位の指名権を失い、レンジャーズは全体30位の補完指名権を得た。

 2013年オフ(2013~14年)のFAには、ロビンソン・カノ(ヤンキース)、ジャコビー・エルズベリー(レッドソックス)、秋信守(クリーブランド・インディアンス)、カーティス・グランダーソン(ヤンキース)、ティム・リンスカム(サンフランシスコ・ジャイアンツ)、ブライアン・マキャン(ブレーブス)らがいる。黒田もそうだ。なお、マット・ガーザ(レンジャーズ)やリッキー・ノラスコ(ロサンゼルス・ドジャース)もFAだが、彼らはシーズン途中に移籍したので、すでに補償は発生しないことが決まっている。


(Text by Natsuki Une)