株主優待廃止「3大理由」から探る リスクの見極め方
コロナ禍が株主優待の逆風となっている。2020年度の株主優待の廃止・改悪件数は、20年12月末時点で89件と既に前年度を上回った。通期では過去最多だった08年度(129件)に迫る可能性もある。コロナ禍に伴う業績悪化だけでなく、企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)が浸透する中、株主還元の手段として配当を重視する海外投資家の圧力が強まっていることも背景にある。
コロナで業績悪化の企業の廃止相次ぐ
20年度の優待廃止・改悪事例を振り返ると、その理由は大きく3つに大別することができる。1つ目が業績悪化だ。20年9月に優待の減額を発表したすかいらーくホールディングスなど、コロナ禍に伴う客数減が響いた外食産業に多い。四半期決算を確認すれば業績の悪化は見えやすいため、兆候を読み取りやすいパターンとも言える。
最終赤字への転落はもちろん警戒すべきだが、それ以上に注意したいのは自己資本比率の悪化だ。こころトレード研究所の坂本慎太郎さんは、「業績悪化が自己資本の減少にまでつながっている場合は警戒した方がいい」と指摘する。財務悪化は優待の実施余力に響くためだ。
2つ目が、優待コストの重さを理由とするもの。個人投資家に人気の高い自社商品優待を実施していたトラスコ中山も20年8月、コスト増を理由に優待廃止を発表した。株主優待が一般化する中、株主数が多い企業では実施コスト負担が増大している点に注意が必要だ。
優待コストの重さを理由にした廃止・改悪の危険度を見極めるポイントはあるのか。ファイナンシャルプランナーの横山利香さんは、「廃止の前段階として長期保有限定優待に切り替える事例がある点には注意すべきだ」と話す。長期保有限定優待とは、「1年以上の継続保有」など、対象を長期保有株主だけに絞って実施する優待のこと。この種の優待は個人投資家の長期保有を促す名目で実施されるが、優待コストの削減を狙って行われることも多いという。
もう一つのサインが、個人株主数の急増だ。個人投資家の増加を目的に優待を実施する企業は多いが、効果が出過ぎてしまった結果、優待コストが過大になった事例も出ている。「株主数が数万人単位になった場合、優待コストの増大を警戒すべきだ」と坂本さんは指摘する。
優待品の中身にも注目
優待品の内容も廃止リスクを見極める一つの材料になる、との意見もある。自社商品や自社店舗のサービス券を優待品とする企業では、実際に自社の商品やサービスに触れてもらうことで、株主をユーザーとして取り込む狙いがあることが多い。「こうした企業では優待を廃止するデメリットが大きいため、優待の廃止・改悪に動きにくい」と横山さんは指摘する。
逆に言えば、QUOカードなどの「非自社系優待」では優待廃止・改悪のハードルが低いとも言える。上場廃止を理由としたものを除いた20年度の廃止事例を見ると、QUOカードやカタログギフト、「プレミアム優待倶楽部」のような外部サービスといった、自社の事業やサービスとは関係のない「非自社系優待」が半分を占めた。
海外投資家からの圧力も警戒
3つ目が、「公平な利益還元」を理由とするもの。還元方法として優待より配当を重視するというもので、20年度の優待廃止理由としては14社と、上場廃止(14社)と並んで多い(20年末時点)。ポエックのように、優待の休止と同時に配当予想の上方修正を発表する企業もある。
こうした理由の場合、業績が堅調でも突然優待の廃止に踏み切る場合があり、前兆を見抜きにくい。野村インベスター・リレーションズ(IR)の福島英貴さんは、「投資家との対話を重視する企業統治指針浸透で、株主還元は配当で行いたいとする企業が増えている」と指摘する。
LIXILやスズキなど、消費関連以外の大企業が実施する優待の廃止・改悪では、「公平な利益還元」を理由としたものが多い。優待を批判する傾向が強い海外投資家の持ち株比率が高い企業の優待は、業績の動向にかかわらずリスクを意識しておいた方が無難かもしれない。
(川路洋助)
[日経マネー2021年3月号の記事を再構成]
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