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災害時の性被害 東日本大震災で見えてきた被災地の声

避難所のリーダーに、「(夫を亡くして)大変だね。タオルや食べ物をあげるから、夜◯◯に取りに来て」と言われ、取りに行くと、あからさまに性行為を強要されました。(震災で夫を亡くした女性)

仮設住宅にいる男性がだんだんおかしくなって、女の人を捕まえては暗い場所で裸にする。周りの人も、“若いから仕方がないね”と、見て見ぬふりをして助けてくれませんでした。(20代女性)

複数の男性に暴行を受けました。騒いで殺されても、海に流され津波のせいにされる恐怖があり、その後、誰にも言えませんでした・・・。(避難所のリーダーなどに暴力を受けた女性)

これは、東日本大震災の後、避難所や仮設住宅などで性暴力を受けた女性たちの証言。同じ女性として信じたくない、信じられない思いですが、実際にあった出来事です。もし、自分自身や家族、大切な人が、災害時にこのような被害を受けたら・・・。皆さんは、声をあげることができるでしょうか。

まもなく、東日本大震災から9年。今月、24時間の無料電話相談「よりそいホットライン」では、2013年から2018年の5年間に女性専用ラインに寄せられた36万件余りの相談について内容を分析しました。その結果、被災3県(岩手、宮城、福島)からの相談の5割以上が、性暴力被害に関する内容であることが明らかになりました。

分析結果から見えてきた被災地の性暴力の実態と、この問題に向き合い続けてきた3人の女性に話をお聞きしました。

(大型企画開発センター 統括プロデューサー 小原美和)

女性専用ホットラインの半数以上が、性暴力の相談

(国の補助事業 24時間無料電話相談「よりそいホットライン」)

「よりそいホットライン」(NHKサイトを離れます)は、東日本大震災を契機に、様々な生活困難を抱える人たちの悩みを傾聴しながら、具体的な問題解決を図ることを目的に、2012年3月に開設されました。代表的な相談内容は、「家族問題」「心と体の悩み」「人間関係」「仕事の悩み」。相談者のおよそ6割が女性。中でも、女性特有の相談として圧倒的に多いのが、DVやレイプ、性的虐待など、性暴力の被害です。

今回、過去5年間(2013年~2018年)に女性専用ラインに寄せられた相談を集計したところ、被災3県(岩手、宮城、福島)からの相談の5割以上が性暴力に関する相談で、10代~20代の若年層の被害も、全体の4割に上りました。

(相談窓口に寄せられた被害者の状況を記したメモ)

「よりそいホットライン」事務局長の遠藤智子さんによると、震災による環境の変化などが背景にあるDVや性暴力の被害は、その後も変わらず続いているそうです。被害を受けた女性の中には、誰にも相談できず、長い間ずっと一人で苦しんでいる人が多く、東日本大震災から9年たって、ようやく相談の電話をかけてくる人も少なくないと言います。そうした現状を踏まえ、遠藤さんは、今後の対策を呼びかけています。

(「よりそいホットライン」事務局長の遠藤智子さん)

「別の場所で災害が起きるたびに、そのニュースや情報を目にして、被害を受けた経験を思いだし、不安や恐怖からフラッシュバックや不眠に苦しむ女性もいて、電話相談が増加する傾向があります。 窓口では、相談内容に応じて警察や病院・民間支援団体を紹介するなど、関係機関につなぐよう対応していますが、今後は、女性や子どもたちが『震災弱者』とならないよう、日頃から社会全体が暴力の根絶に取り組むことが重要だと考えています。」(遠藤さん)

阪神淡路大震災で “デマ”とされた性暴力被害

(阪神・淡路大震災直後の避難所)

実は、災害時の性暴力については、25年前の阪神淡路大震災の時から問題提起されていました。声をあげた一人が、神戸で女性や子どもの支援を続けているNPO法人「ウィメンズネット・こうべ」代表の正井禮子(れいこ)さんです。きっかけは、生活全般に関する悩みを聞くために始めた「女性のための電話相談」だったと言います。

(NPO法人「ウィメンズネット・こうべ」代表 正井禮子さん)

「電話相談を始めたら、次々とDVに関する相談が寄せられました。被災して仕事がうまくいかない夫が、殴ったり 蹴ったり、暴力を振るうのがつらいという相談です。さらにその後、女性のための小さな集会を開いた時に、仮説住宅に住むシングルマザーの女性から性暴力被害について打ち明けられました。参加者の一人が、警察にすぐに届けたのかと聞いたところ、その女性は『ここでしか生きていけない時に、誰にそれを語れというのですか』と、涙を流したのです。大災害で大変な時に性被害が起きるのは許せないし、被害者はどれほど深く傷つくことだろうと、その姿が忘れられなくて・・・。」(正井さん)

避難所を回っていた保健師さんや、他の市民グループの相談窓口にも、同じような性被害の声がいくつも寄せられていましたが、当時は性暴力専門の相談機関もほとんどなく、被害を受けた女性は、声をあげることすらできない現状がありました。そこで、正井さんたちは、複数の支援団体と協力して、『私たちは暴力を許さない』という集会とデモ行進を行いました。

(性暴力の根絶を訴えながら、神戸市内を歩く女性たち 1996年 撮影)

ところが、当時は警察への被害届も少なく客観的資料も乏しかったため、一部のメディアから“デマ”として報じられ、正井さんたち支援者にも批判の声があがったそうです。

「バッシングされた時は本当にショックで、震えが止まりませんでした・・・。『被災地でレイプがあったと いうことが真実ならば、その情報を全国に流したことはセカンドレイプになる』と書かれているものもあったんです。声をあげることが被害者を傷つけることになるのかと、混乱しました。とても怖くなって、その後 長い間、性暴力について語ることはできませんでした。」(正井さん)

全国の支援者や専門家が協力!「日本初の調査」へ

2011年3月11日、東日本大震災発生。するとその直後から、正井さんのもとには、次々と協力を申し出る連絡が・・・。阪神淡路大震災の経験を無駄にせず今後の対策につなげていこうと国内外の専門家やNPO等の団体が協力して、女性のための支援ネットワークを結成。日本国内で初めて、「災害時の女性や子どもに対する暴力」の実態調査が行われました。

(東日本大震災「災害・復興時における女性と子どもへの暴力」調査報告書 2013年 編集:東日本大震災女性支援ネットワーク調査チーム 吉浜美恵子・ゆのまえ知子・柘植あづみ・正井禮子・池田恵子)

調査結果では、10代から60代までの女性や子どもたちが、さまざまな場所で、DVや性暴力の被害を受けていたことが明らかになりました。さらに、関係者が注目したのは「対価型(見返り要求型)の暴力」です。震災や津波などで夫や家族を亡くす、失業する、家財を失うなど、弱い立場の女性に支援をする対価として、性行為を要求するという事例が複数報告されたのです。

(「災害・復興時における女性と子どもへの暴力」より)

調査に協力した静岡大学教育学部・同総合防災センター教授の池田恵子さんは、「災害時は、平常時の社会的構造の問題が顕在化する」と指摘します。また、海外では、早くから災害時の暴力について調査や研究が進み、具体的な対策が打たれてきましたが、日本では、東日本大震災まで、そういう議論がほとんど行われてこなかったと言います。

(静岡大学教育学部・同総合防災センター教授の池田恵子さん)

「災害時は、雇用や所得などの経済的格差が広がるうえ、介護や子育てなどの役割を担うことが難しい状況も加わり、弱い立場にある人たちがますます弱くなる。誰かに依存しなければ災害状況下を生き延びていけない人々には女性や子どもが多く、その格差が、暴力につながる余地を生んでいるのです。

どんな事件が、どのような場所で、どのような状況で起こっているのかを詳細に知ることは、具体的な対策に結び付けるために非常に重要です。災害に強い社会を作るという意味でも、大きな教訓が得られたのが、東日本大震災だったと思います。」
(池田さん)

同じような被害が繰り返されないために。調査チームがまとめた報告書には、次のような具体的な対策案や提言が盛り込まれ、国へ届けられました。

・災害直後からの暴力防止の啓発・相談支援の充実
・避難所の改善(プライバシーの確保等)
・被害者への支援・連携体制づくり(行政・警察・医療・女性支援センターなど)
・防災・災害対策における女性の参画と男性との協働(意思決定の場の男女平等)

女性や多様な視点が、災害に強い社会を作る

その後、国の防災基本計画や、内閣府の「防災・復興取組指針等」にも、災害時の安全性の確保や、復興過程における女性の参画を促進することが明記されました。熊本地震発生後は、災害直後からDVや性暴力防止の啓発活動が進められたほか、女性の意見や視点を取り入れた防災計画や避難所運営の見直し、女性の防災リーダーの育成に力を入れる自治体も現れています。

25年前、この問題について声をあげた正井さんは、取材の最後にこう語って下さいました。

「いま、全国各地で広がっているフラワーデモに初めて参加した時、被害を受けた女性が『ここで話せて良かった・・』と涙を流しながら話しているのを聞いて、安心できる場所があれば声をあげられる。25年前に語って良かったんだ、と思うことができました。

被害を受けた人達が、きちんと声をあげて訴えることができる社会であってほしい。男女がお互いを尊重しながら多様な視点で意見を出し合い考えていくことが、誰もが安心して暮らせる、尊厳を持って暮らせる社会につながると信じています。」
(正井さん)

(神戸で開催されたフラワーデモ 2019年12月11日)

今回、特集制作の取材のため、全国各地の支援者や専門家の方々にご連絡をとり、貴重なご意見や証言を多数聞かせていただきました。取材のたびに、「ようやくこの問題を取り上げてくださるんですね。ありがとうございます」と声をかけていただき、胸が詰まりました。取材者として、長く見過ごしてきたことに申し訳なさと悔しさで いっぱいです。

阪神淡路大震災から25年。被害を受けた人の代弁者として、いち早く声をあげ対策を求めてきた正井禮子さんのもとには、今でも「性暴力があったなんて、いい加減なことを言うな!」という批判が寄せられるそうです。逆風にさらされながらも「埋もれた声」を掘り起こし、社会に届けてくださった先人の皆さんの血のにじむような努力と情熱に、感謝の言葉しかありません。この灯火を消さないように、私たち自身も、粘り強く伝え続けていきたいと思います。

去年3月に放送した特集番組に、たくさんの声を寄せていただき、ありがとうございます。
皆さんの反響にお応えしてアンコール放送しますので、ぜひご覧ください。

2021年3月3日 (水)午前3時19分-4時02分 <2日(火)深夜> 総合
証言記録 東日本大震災
「埋もれた声 25年の真実 ~災害時の性暴力~」
※放送は終了しました。

また、この番組のダイジェストとともに、その後の各地の取り組みを伝えるスペシャル版も放送します。

2021年3月14日(日) 午前10時05分~11時 総合
証言記録 東日本大震災スペシャル
「格闘と挑戦の10年、その先に…」
https://www.nhk.jp/p/ts/14G1KY68L5/episode/te/KX74L632L8/

みんなのコメント(74件)

感想
彦左衛門
70歳以上 男性
2024年3月6日
綺麗事ばかりで無く、日本でも災害時には火事場泥棒、暴力をふるう人間がいた事実をもっと報道すべきだと思う。それにより弱者は互いに連携し、知らなかった人も弱者に気を配り、犯罪抑制に繋がるのでは
提言
チョコ
50代 女性
2024年1月31日
東日本大震災の時、被災地に自衛隊の他に警察官が多数いる理由を初めて知った。

知人が警察関係者の家族から、被災地で性犯罪が多発しているからとのこと

それを聞いて絶句した。
ただでさえ辛い思いをしているのに

阪神淡路大震災の時には、声を上げるも有耶無耶にされた過去がある。

熊本地震の時には注意喚起??されたようだ。

今回の能登地震では、Xで多数の注意喚起??の投稿がされていた。

実際の手口や中にはその現場を目撃した人の投稿も

加害者には極刑を強く望む
顔 名前 住所 年齢 職業などすべての情報を全世界に公開し、被害者が受けた屈辱を味合わせるよう法律化を
感想
話せません。
女性
2024年1月26日
災害時ではありませんが、私は小学生の時、下校時に性被害に遭いました。でも、学校の先生(女性の担任)も親も、「そういうことをされるのは、女の方にスキがあるからだ」と普段から言っていたので、怖くて話せませんでした。このまま胸にしまっておくつもりです。
トラウマでしょうか、男性に対して個人的な信頼を置くことができません(仕事上は割り切れるのですが)。少子化の今、心無いことを言われることもありますが、私にとってはそれ以前の問題なのです。
この問題は、「災害時だから」ではなく、普段から「男性が女性をどう見ているか」、同時に「女性が男性をどう見ているか」そして「性被害にあった方(女性でも男性でも)をどう見ているか」の問題なのかも知れません。
性別や年齢、立場などに関わりなく、ひとりひとりが大切にされる日が1日も早く来ることを心から願っています。私のような思いをする人が、これ以上増えませんように・・・。
感想
ミリヤ
40代 女性
2024年1月4日
被災地で性被害があることを知らなかった自分が情けない。加害者が許せない。もっともっとメディアに告知するべきだ!
提言
再放送キボウ
30代 女性
2024年1月4日
再放送を希望します。非常時の場合、周りにいる、しっかりとした男性にヒーローになってもらい、弱い女性を守ってほしいです。
感想
憤り
30代 女性
2022年11月18日
避難所でさらにそんな被害があるなんて…本当に憤りを感じます。
トイレなど女性や子どもは1人で行かないようにとありますが、それこそ被害に遭い家族などいない場合、難しいと思います。
被災した後、夜中にトイレに行く時に知り合ってまもない人に声かけるなんて無理に等しいと思います…
日本は性教育も遅れています。海外ではどうしているのだろうか、もっと学びたい。
オフィシャル
「災害時の性暴力」取材班
プロデューサー
2020年3月5日
みなさん、コメントをありがとうございます。支援者への共感の声、加害者や暴力への怒り、対策を求める意見など、こうした声こそが、勇気を振り絞って証言してくださった方々にとって大きな力になると思います。



災害時の人道支援に関する国際的な「スフィア基準」では、避難所の場所や物資の確保等について「最低限の基準」を定めています。さらに、女性や子ども、障害者など、声をあげにくい人たちの意見の尊重や、性暴力・DVの防止と支援についても明文化。支援者が暴力に加担しない、見過ごすことも許さないなど、暴力を根絶する強い姿勢を求めています。現在、国内の自治体でも、地域の「防災計画」を見直し、女性たちの意見や参画を促進する取り組みが少しずつ進められています。皆さんが住む町の防災計画に、そうした視点が欠けていると感じたら、ぜひ声をあげてみてください。



「災害時には、平常的の社会的構造の問題が顕在化する」と言われています。男女格差、いじめや虐待、貧困など・・・。さまざまなひずみが、より弱い立場にある人たちへと向かっていく。「災害に強い社会」を作っていくためにも、私たちが日頃からこの問題と向き合っていくことが不可欠だと痛感しました。



これからも皆さんとともに考えていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
はる
30代 女性
2021年10月27日
非常に重要で、議論し変えていかなければならない問題だと思います。
まず、多くの人が知ることが大切なので、ぜひ再放送をお願いいたします。
許せない
2021年10月10日
このコメントをされた方に賛同です。
なぜ今のこの世に今だにこんな認識の低い加害者が存在するのか。

普段の社会から、男性が正しい性的な認知を持っていないことが根本の原因。困ってる人に物質の見返りとして 性的要求をするなど、人間以下の行為。経済的な負担をすれば、女性からサービスしてもらえるという感覚。それが人間以下の行為であるという感覚のなさ。男性の認知の歪みが原因。
ぽこ
50代 女性
2021年10月9日
阪神大震災の時の話が「デマ」とされたとき、「仮設住宅など」における「対価型」の事例は想定になかったのだろうと思われます。それが「暴力である」という認識は25年前には乏しかった。デマとされたのは「震災直後にそこらじゅうで事件が起こっていた」と多分に「おもしろおかしく」伝えられた部分で、そういう一部分が否定されたことで「全部の事例がデマである」と誤解されて伝わったのではないでしょうか