講談社とDNP 米国の翻訳マンガ出版ヴァーティカル買収

 国内大手出版 講談社と大日本印刷は、米国の日本マンガ翻訳出版のヴァーティカル(Vertical, Inc.)を買収する。出資比率は講談社が46.7%、大日本印刷46.0%と両社の出資比率が9割を超える。
 ヴァーティカルは米国のマンガ出版社の中堅だが、大手のVIZメディアやTokyopopと異なる独自のマーケティング戦略で注目を浴びている。手塚治虫の『ブラック・ジャック』や『奇子』、竹宮恵子の『地球へ』、『アンドロメダ・ストリーズ』などの巨匠の名作、また『ふたつのスピカ』や『チーズスイートホーム』、『ピポチュー』など米国のマンガファンの中で年齢の高い層を狙った読ませる作品が多いのが特徴である。

 ヴァーティカルは、同社の社長を務める酒井弘樹氏が2001年に日本の書籍を米国で翻訳出版するべく設立した。主力のマンガだけでなく、小説やエッセイなどの一般書籍も手掛ける。
 過去数年で米国における日本マンガ翻訳出版の市場が急激に縮小するなかでも、独自のマーケティングにより経営は比較的安定しているとみられる。また、出版作品がたびたびマンガ関連の賞を獲得するなどそのラインナップは評価が高い。しかし、市場全体の縮小とニッチな市場をメインとすることから、日本の大手2社による出資を受けることを決断したとみられる。

 一方、講談社はライバルの小学館、集英社が北米事業で飛躍するなか海外事業で出遅れていた。2008年に野間省伸社長(当時副社長)を社長として米国現地法人を設立し、その後マンガ事業拡大を探っていた。
 事業が本格化したのは2010年で、同社がライセンス作品を数多く提供して来た日本翻訳マンガ出版シェア大手のランダムハウス系デルレイのマンガ事業を引き継いだ。今回の動きはこれに続くもので、同社の米国における存在感が一気に高まりそうだ。少年・少女向けの講談社USA(旧デルレイ部門)、青年向けのヴァーティカルという体制が考えられる。 

 米国における日本マンガの翻訳出版は、市場トップのVIZメディアが小学館、集英社、小学館集英社プロダクション3社の共同出資、第2位のTokyopopも東京に本社を持ち国内のベンチャーキャピタルの出資を受ける。さらにデルレイは日本マンガ翻訳出版事業の大半を講談社に引き継いでいる。今回の講談社と大日本印刷によるヴァーティカル買収で、米国マンガ業界における日本資本の影響が強まる。
 小学館、集英社、小学館集英社プロダクションは、ヨーロッパでは、2009年にアニメ事業の有力企業KAZEを買収している。大手出版社の海外事業拡大で、企業買収が有力手段となっている。また有力ライバルの本格的なマンガ事業海外進出で小学館・集英社の今後の展開も注目される。

ヴァーティカル(Vertical, Inc.) http://www.vertical-inc.com/