株式譲渡問題

  

2001/12/09

拝啓 横浜ベイスターズ 様

ホエールズが横浜に移転して以来,横浜大洋ホエールズ・横浜ベイスターズファンとして応援しいる者ですが,今回の「オーナー企業変更」が白紙になった件,非常に憂慮しております。今後の障害になっています30億円の加盟料ですが,このことについて私見ですが,参考になればと思い,意見書を送らせていただきました。お節介だとは思いますが,お読みいただければ幸いです。

野球協約36条の6に関する意見書 

1 経緯

◆野球協約・第36条の6(譲り受け球団の加盟料)この組織に加盟している球団から参加資格を譲り受けた球団は、参加する連盟選手権試合年度の1月末日までに加盟料を支払うものとする。譲り受け球団の加盟料の金額は30億円とし、日本野球機構および同機構に既に属している他の全球団に分配され、各球団への分配金額は均等とする。

そもそも,この
野球協約36条の6というのは

この「参加球団の加盟料」という条項は、バブルの時代の遺物にすぎない。バブル全盛のころ、あらゆる業種の企業が球団経営に食指を動かしていた。それだけに、「女性、子供ファンにも愛される国民的なスポーツであるプロ野球界に、一般的になじまない業種の企業が進出されては困る」という、防衛策として新球団参入60億円、買収した球団参加30億円という高いハードルが作られたのだ。「具体的なターゲットもあった。88年に阪急を買収したオリックスが、オリエンタル・リースから社名変更した狙い通りの成果があったので、いつ身売りするかわからない。それを阻止するための条項だった」と、球界関係者が言い切る。いわゆる“球団転がし”を封じ込める切り札が、60億円、30億円という条項だったのだ。神経過敏とは笑えない。未遂に終わったが、73年の1シーズンだけで身売りした日拓ホームフライヤーズの例があった。4、5社の若手財界グループの間に「企業名を売るために、1年ごとに球団経営を回していこう」という計画が練られ、実現一歩手前までいったことがあるからだ。(12月5日夕刊フジ)

という経緯で1991年の協約改正でできたものです。

今回のマルハからニッポン放送へのオーナー企業の変更は,11月15日の実行委員会では,コミッショナー事務局の「弁護士の見解として『譲渡ではなく,保有株の比率変更』と判断し,30億円の加盟料は発生しない」こととされました。しかし,読売ジャイアンツの渡辺オーナーは「30億円はどうなるんだ。株主の移動によって処理しようと思ったけど名義のいかんにかかわらず実質的な保有者が代われば30億円はかかるんだ」(11月22日スポニチ)と異議を唱えていましたし,29日の承認撤回後も「今後、横浜が実際上の保有者を変更しようとするときは、新たな保有者は加盟料を払わなければ協約違反になると思われる。協約解釈を新たに確定する必要がある」との見解を示していました(11月30日日刊スポーツ)。また,協約改正の動きもありますが「協約委員会の中日・伊藤修取締役連盟担当は『適用されるのは次回から。横浜を助けるためでは…』とした。来年3月29日まで延期された経営権譲渡の承認期限内に同条項が撤廃されても、横浜株を買収する企業には30億円が必要になるとの認識を示した。」(12月1日スポニチ)ともいわれています。とにかく,この36条の6が今後のオーナー企業の変更に大きな障害になってると思われます。

横浜球団の方とされても「コミッショナー事務局から12球団に送付された野球協約の問題点についての意見調査書について『今週中に球団で叩き台をつくって本社の意見と擦り合わせる』と話した。球団で原案を作成し、中部オーナーに提出する予定。内容については「(加盟料)30億が球界にとってプラスなのかマイナスなのか考える。」(12月6日スポニチ)ということでだいぶ検討されているようですが,私はそもそも「株式譲渡による保有者の変更」では,36条の6にいう加盟料は発生しないものと考えています。以下に詳細したいと思います。

2 私見

協約36条の6を検討する前に,31条について見てみたいと思います。私は,今回のような株式の譲渡であっても当然に31条の保有者の変更には該当すると思っています。

◆第31条 (参加球団の変更) この組織に参加する球団は,その参加資格を他に譲渡しようとするとき,または名義の如何を問わずその球団の保有者を変更しようとするときは,新しい球団が参加しようとする年度連盟選手権試合の行われる年の前年の11月30日までに実行委員会の承認を得なければならない。(略)

31条というのは参加球団の変更について規定しています。そして,参加球団の変更として@参加資格を他に譲渡しようとするとき,A名義の如何を問わずその球団の保有者を変更しようとするときの2つを挙げています。このことは,逆にいうとAの球団の保有者の変更は@の参加資格の譲渡ではないことを示している,ということができます。

では,36条の6はどう規定されているのでしょうか。この36条の6では「この組織に加盟している球団から参加資格を譲り受けた球団は、(略)加盟料を支払うものとする。」とされています。つまり,参加資格を譲り受けた球団とは,参加資格を譲渡された球団のことであり,参加資格を譲渡されたとき加盟料の30億円が発生するということを意味しています。そして31条の規定からすれば,単なる保有者の変更のときは,参加資格の譲渡に当たらないことから,36条の6には該当しないことになります。つまり,単なる保有者の変更では30億円の加盟料は発生しない,ということです。

もし,保有者の変更でも36条の6に該当するとなるとおかしな話になります。単なる保有者の変更であれば,保有者が変更されても,36条の6でいう「この組織に加盟している球団」と「参加資格を譲り受けた球団」はどちらも同じ法人格を持った球団です。今回のケースであれば,どちらも,株式会社横浜ベイスターズです。ですから条文を読み替えると「この組織に加盟している株式会社横浜ベイスターズから参加資格を譲り受けた株式会社横浜ベイスターズは、参加する連盟選手権試合年度の1月末日までに加盟料を支払うものとする。」というおかしな文章になります。しかも,加盟料を支払うのは球団ですから「株式会社横浜ベイスターズ」が30億円を支払うことになります。決してニッポン放送が支払うわけではありません。

なぜ,「この組織に加盟している球団」がなぜ,筆頭株主が替わっただけで加盟料を支払わなければならないのか。これが個人株主だったら株式を相続するだけで30億円が発生してしまうことになります。こんなことは常識では考えられないと思います。もし,保有者の変更においても,36条の6に該当するとなると,商法上も問題が出てくると思います。株式会社は,法人格が認められ例え株主が替わろうとも法人格は継承され同一性が保証されます。筆頭株主が替わっても法人格は替わらないのですから。

ですから,36条の6は,最初から保有者の変更の場合は除かれていると考えた方が矛盾がないと思います。36条の6に該当するのは,参加資格の譲渡だけです。つまり,A球団からB球団に参加資格を譲渡した場合です。もちろん,この場合のA球団とB球団は法人格が異なります。この場合は,B球団は新たに日本プロフェッショナル野球組織に加盟するわけですから加盟料が発生してもおかしくはありません。そして,B球団が加盟料を支払う分けですから何等矛盾はありません。保有者の変更だけでは,30億円の加盟料が発生しないと解釈した方が,協約文上も,商法上も問題がないと言えます。問題になるのは,今の協約文で「保有者が変更するのであれば,36条の6に該当し,30億円の加盟料を支払う必要がある」という主張のほうです。

通常,球団の買収は参加資格の譲渡ではなく,株式の譲渡によって行われると思います。つまり,球団の買収は,株式の譲渡に伴う保有者の変更という形で行われるのではないでしょうか。そもそも,野球協約では,プロ野球にとって相応しくない者に,球団が買収されないないように31条と32条で制限しています。32条で株式譲渡を制限し,31条では「実質的な保有者の変更」という言葉を使ってそれを制限しています。つまり,二重のチェック機能があるわけです。30億円という加盟料は,さらにこの上に,制限を加えようというものでした。

しかし,単なる株主の変更に伴う保有者の変更だけでは,球団の法人格の権利は継承されますから,既に球団が保有している参加資格とそれに伴う権利(地域権,選手契約権,選手保留権)も当然に継承されます。つまり,日本プロフェッショナル野球組織は,「保有者の変更による参加球団の変更」では,加盟料を課すことができないはずです。既に加盟している球団に,加盟料は発生しないのです。通常の球団買収のケースでは36条の6に該当しないと思いますから,球団買収を制限しようとした本来の機能はこの36条の6にはもともとなかったと言っていいでしょう。趣旨はそうではなかったかもしれませんが,そもそも36条の6には,通常の球団買収を制限することができなかったのです。否,制限しようにも制限できなかったと言った方がいいかもしれません。

以上,拙文ですが,少しでもご参考になればと思い,送らせていただきました。

B_wind
tk1136@nn.iij4u.or.jp
http://www.geocities.co.jp/Athlete-Crete/4031/

2001/12/09