よみがえれ 初代ロードスター!町の修理工場の挑戦

よみがえれ 初代ロードスター!町の修理工場の挑戦
憧れていた往年のスポーツカーに乗ってドライブしたい。そんな願いをかなえてくれる会社が広島市にあります。従業員3人を率いる町の修理工場の社長の新たな挑戦を取材しました。(広島放送局記者 渡邊貴大)

根強い人気! 往年のスポーツカー

自動運転や電気自動車といった最新の技術が注目される自動車業界。その一方で、20年、30年以上前に発売された往年の人気車に乗りたいというニーズが根強くあります。こうした車に乗り続けるのはなぜなのか。
3か月前に広島に赴任した私は、その理由を探ろうと、地元の自動車メーカー「マツダ」のロードスターに乗り続ける愛好者たちが集まるイベントに参加しました。

2人乗りのスポーツカー・ロードスターは、1989年に発売されて以降、4代にわたってモデルチェンジがされ、現行モデルは今も販売されています。会場で目にしたのは、旧型モデルばかり。愛好家たちはその魅力を熱心に語ってくれました。
オーナーの声
「手間がかかるアナログ感が好きで、41万キロ走ってます。人生の半分以上を一緒に過ごしてきた車なので、1日でも長く乗り続けたいですね」(40代 男性)

「曲線の美しさ。これがたまりませんね」(70代 男性)

「運転操作がダイレクトに伝わる感じやシンプルな見た目が好きです」(20代 女性)

車を生まれ変わらせる

こうした往年の車を生まれ変わらせたい。

技術者が手作業でエンジンを分解し、壊れた部品を修理したり交換したり。塗装も塗り直して車を再び長く乗れるよう、いわば出荷当時の状態に近づける「レストア」に乗り出した人がいます。広島市安芸区にある従業員3人の自動車修理会社の社長、清金誠司さん(54)です。
清金さんの会社は、10年ほど前には年間の売り上げが1億円余りありました。しかし、年々、仕事は減少。さらに、新型コロナウイルスの影響で修理に持ち込まれる車が激減。ことしの売り上げはピーク時の半分ほどに落ち込み、清金さんは強い危機感を持っていました。
清金社長
「運転支援技術が搭載された、いわゆる“ぶつからない”車が増えて、事故が減ってきています。事故が減ることはいいことなのですが、それにともなって私たちの仕事も減っています。会社の経営に、常に危機感や恐怖感を持ち続けていました」
自動車の整備に加えて、溶接や研磨の経験が豊富な3人の従業員。彼らの技術力を生かした、新たな事業に取り組めないか。行き着いたのがレストアでした。

注目したのは、今も根強い人気のロードスター。
中でも、1989年から98年にかけて生産された初代のロードスターは、これまで毎年のように修理の依頼があり、1000台近く修理した経験があることから、ターゲットを「初代ロードスター」に絞りました。

初めての顧客は…なんと元エンジニア

初めての作業に不安を抱えながらも3年前に手探り状態で始めた事業。まず、インターネットで見つけた中古の初代ロードスターを30万円で購入。エンジンはかかるものの、走り出すと数分で止まってしまう、程度がいいとは言えない状態でした。仕入れた車をすべて分解して、点検することから始めました。

エンジンでは、制御装置のコンピューターに不具合が見つかり、はんだ付けなどで修復。
さらに、ドアやボンネットなどには数十か所のへこみがありました。通常の修理では、パテと呼ばれる補修剤を多く使いますが、長い時間がたつとゆがみの元になることもあるため、この会社では必要最小限しか使いません。
数日かけてハンマーでたたいたり研磨したりして手作業でへこみを直しました。塗装も1度剥がしてさび止めの処理も施し、発売された頃のような深い緑色に塗り直しました。
3か月かけてようやく1台のロードスターを生まれ変わらせました。

しかし、インターネットの中古車販売サイトで売りに出したものの、1年以上買い手は現れませんでした。そこで作業工程の写真を80枚以上載せ、販売価格を100万円に設定したところ、買いたいという人が現れました。
工場を訪れたのは、なんと、この車のボンネットの開発に関わった元マツダのエンジニアの村上哲也さん(57)でした。村上さんは思い入れのある車に、もう一度乗ってみたいと探し求めていました。

実物を見た村上さんは、塗装の仕上がりをみて、すぐに購入を決めたといいます。塗装前の下処理まで一手間かけて丁寧に行っている清金さんたちの仕事ぶりや技術力を高く評価したのです。
村上さん
「きれいにして長く乗れるように、しっかり取り組んでくれていて、とてもうれしいです。こうした取り組みは設計した先輩方もみんな喜ぶと思います」
清金社長
「開発に関わった人に太鼓判を押してもらえたことで、前向きな気持ちになれました。確信とまではいっていないが、これで一歩踏み出してみよう、やってみようかという気にはなりました」
清金さんは、開発に関わった人に技術力を評価されたことで、この事業に手応えと将来性を感じました。作業に時間がかかることや分解には広いスペースが必要なことから、今までの車の修理と並行していくことは難しいと考え、この夏、レストア事業に専念することを決断しました。

強みは培った技術力

清金さんは事業の幅を広げようと、愛好家が集まるイベントに参加して、どんなサービスを求めているかヒアリングを始めました。いずれはオーナーからのレストアの注文も受けていきたいと考えています。
さらに、日本政策金融公庫から事業転換を図るための融資を受けて、工場にレストア専用のリフトを導入。合わせて5台の中古の初代ロードスターを仕入れて、本格的に事業に乗り出しています。
清金社長
「新型コロナウイルスの中で、新しいものが求められていると思うが、ずっと30年間愛されている車もあることがよくわかった。私たちも厳しい経営環境の中で、もっと新しい事をやらなきゃいけない、もっと変わったことをやらなきゃいけないとばかり思っていました。でも、自分たちの培ってきた技術を生かせることがわかったので、これを大切にしながら新しい道を進んでいきたい」
レストア事業にはここ数年、大手自動車メーカーや正規販売店も参入し、注目が集まっています。新型コロナウイルスの影響で会社が厳しい状況に追い込まれた今だからこそ、自分たちの積み重ねてきた経験と技術力で勝負したい。新たな事業を切り開いていこうとする町の修理工場の挑戦が始まりました。
広島放送局記者
渡邊 貴大
平成25年入局
福島放送局、
鳥取放送局を経て、
広島局では経済を担当