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日経ものづくり

「プロジェクトX 挑戦者たち」の後継番組を一足先に見てきました

2005/12/13
荻原 博之=日経ものづくり

 NHKの「プロジェクトX 挑戦者たち」のレギュラー放送が今日12月13日に終了します(12月28日には最終回スペシャルが予定されています)。5年半にわたって放送されてきたプロジェクトXはご承知の通り,戦後の日本のエポック・メーキングな出来事の舞台裏で活躍した無名の日本人たちにスポットライトを当て,一躍NHKの看板番組へと成長しました。その後を引き継ぐのは「プロフェッショナル 仕事の流儀」。「さまざまな分野の第一線で活躍する一流のプロの『仕事』を徹底的に掘り下げる」(NHK)ドキュメンタリー番組です。プロジェクトXからプロフェッショナルへ。これは「過去の業績」と「組織」から「現在の仕事」と「個人」へ,と舵を切ることにほかなりません。さて先日,プロフェッショナルの試写会に行ってきました。来年1月10日放送分の,その第一回目とは


図1◎「プロジェクトX 挑戦者たち」の後継番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」
 
図2◎第一回目は「『信じる力』が人を動かす 〜リゾート再生請負人・星野佳路〜」


 「『信じる力』が人を動かす 〜リゾート再生請負人・星野佳路〜」。主人公の星野さんは,長野県・軽井沢町でホテルや温泉,協会などを運営する星野リゾートの社長です。不況が続くリゾート業界では,破綻したリゾートの再建に乗り出しては次々と蘇生させる再生請負人として知られています。例えば,147億円の負債を抱えて破綻した山梨県のリゾート施設「リゾナーレ小淵沢」は3年で黒字化し,同じく破綻した福島県の東北最大級のスキー場「アルツ磐梯リゾート」では2003〜2004シーズンの来場者が前年104%と8年ぶりにプラス転換しました。ほかにも,北海道「アルファリゾート・トマム」をはじめ,多くの施設で再建事業の陣頭指揮を執っています。

 第一回目では,この星野さんの仕事の現場にカメラが入ります。リゾナーレ小淵沢の再建に当たる星野さんはそこで,破綻の憂き目に遭って肩を落とす社員を「主人公は君たちだ」と鼓舞します。石川県の名湯,加賀山代温泉の「白銀屋」の再建現場では,やはり従業員に対し「ここでの職場の主役はみなさん」と勇気付けます。そして,従業員の不満も愚痴も心の声をすべて聞き,彼らの不安を払拭していく星野さんが映し出されていきます。「言いたいことは言いたい人に直接言え。責任は私が取る」と,従業員をサポートする姿も。

 「主人公は社員」の底流には,「社長は偉くない」という考えがあります。「社長が偉そうにしていたら,社員がやる気にならない」。事実,星野リゾートでは,星野さんは自分の部屋,すなわち偉そうな社長室というものを持ちません。ですので,空いている席を探しては仕事をします。番組の中では,電話予約センターの席がちょうど一つ空いていたので,そこでノートパソコンを立ち上げて仕事をする様子が紹介されていました。

 それだけではありません。「主人公は社員」なので,社員はどんな重要な会議であろうと出席できます。映像は,ホテルの宿泊料金を巡る会議。その場で,星野さんは「どうしますか」と問いかける役回り。社員が議論を進め,判断を下していくのです。「会議には一つだけ約束がある。それは『決めるのは社員』であるということ」。星野さんは意思決定のプロセスを社員に委ねる代わりに,議論のプロセスを注視し論理的に進んでいることを確認します。その上で「自分たちで決めた結論なら社員は納得する」と信じているのです。星野さんの下で働く,ある従業員はインタビューに答えて「星野さんは,手柄を私のものにしてくれる。やらなきゃ,と思う」と言います。「主人公は社員」という考えは,社員のやる気を見事に引き出していました。

 

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■プロジェクトXは,困難なことを可能にする部分がクローズアップされ,上司から「プロジェクトXのようにやれ」と言われそうなので,上司に見せたくない番組であったのでは? 一方,新番組の第1回目はその逆であり,上司に見せたい番組かなと期待します。(2005/12/14)
■45分でひとつの話題をまとめる構成の場合,軸になるストーリーを強調することは手法としてアリと思います。それを鵜呑みにしないことは大切だとは思いますが…(2005/12/14)
■プロジェクトXは,初期の番組はミスターVHSや本田宗一郎など,本当に感動的な話がいくつかあったが,その後,物語の本質よりもいかに泣けるかと言うところばかりに重心を置いた「お涙ちょうだい番組」になった。正直,やっと終わったかという感じ。
次の番組は,ぜひプロジェクトX初期のような質の高い内容に立ち返ってくれることを望む。(2005/12/14)
■5年半続いたと聞き,この番組に触発されて経済再建に日本人が培ってきた努力に感慨を禁じえない。
再生の兆しが見え始めて番組もその使命を終えたといえますが,これだけ良質の番組を作りながら,なぜNHK自身の経営改革が一向に進まないのかを考えると,非常に残念でなりません。(2005/12/14)
■「主人公は社員」…いい言葉です。いつでもどこでも,忘れてはいけない言葉ですね。とても参考になりました。(2005/12/14)
■製造業の場合,「プロフェッショナル = 卓越した技」と考えた場合,「流儀 = 考え方 = 技術そのもの」となり,掘り下げにくいところがあるかもしれませんね。(2005/12/14)
■“やらせ”や“誇張”を入れ込まない番組を期待します
過去の栄光ではなく,今現在を切り拓いている人々ですので,圧力はその人の門を叩く人々へのマイナスになってしまいます。ひいては,これからのものづくり日本の行く手を曇らせることとなってしまいます。NHKの倫理観が問われる番組となると思います。(2005/12/14)
■プロジェクトXのフィクション性は,マスメディア全体に言えることです。「ものづくり」の真実の記事をお願いします。(2005/12/14)
■組織は大きくなるとなかなかうまくいかないものですが,個人のスキルを上げるには,こうありたいと考えます。(2005/12/14)

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