謎に包まれた陸上自衛隊「別班」とは?…政府は「ない」と言うけれど TBSドラマ「VIVANT」で注目

2023年8月17日 12時00分

日曜劇場「VIVANT」の一場面(TBS提供)

 TBS系テレビドラマ「VIVANT(ヴィヴァン)」に登場する陸上自衛隊の秘密情報部隊「別班べっぱん」が注目されている。ドラマでは「美しき我が国を汚す者は何人なんぴとたりとも許さない」とうたい、世界で暗躍する組織として描かれるが、日本政府は一貫して存在を否定してきた。明らかにならない幻の組織とは—。(安藤恭子)

◆その存在は報道や陸自OBの著作でたびたび浮上

 東京駅地下「東京駅一番街」のTBSストア。ドラマに登場する「別班饅頭まんじゅう」やTシャツなどの番組グッズは軒並み売り切れていた。都内でのイベント帰りという福島県の女性会社員(38)は「ドラマの考察や、嵐の二宮(和也)くんの交流サイト(SNS)配信を楽しみながら毎週見てる」と笑顔。「ところで、別班は知っているか」と尋ねると、「謎の自衛隊部隊があるとは聞いたことがあるけど…」と首をかしげた。
 ドラマの別班は、警視庁公安部もあざむく陸自の組織。堺雅人さん演じる主人公の商社マン・乃木がその一人であると分かり、日本を標的とするテロ組織・テントの全容を暴こうとする姿が展開される。
 近年はマンガ化もされる別班だが、現実はどうか。これまでも、報道や陸自OBの著作の中でたびたび、その存在は浮上してきた。

◆石井暁氏「相手の心を透視するかのような、冷徹なまなざし」

 その一つが2013年11月に配信された共同通信の記事だ。「陸上幕僚監部運用支援・情報部別班(別班)が、冷戦時代から首相や防衛相(防衛庁長官)に知らせず、独断でロシア、中国、韓国、東欧などに拠点を設け、身分を偽装した自衛官に情報活動をさせてきたことが分かった」と報じた。

石井暁・共同通信専任編集委員

 記事を書いた石井ぎょう・共同通信専任編集委員によると、別班は主にロシア、中国、朝鮮半島の情報収集を国内外で行う。旧陸軍中野学校の流れをくむ「心理戦防護課程」なる特殊訓練を受けていて「妻子にも心の中で壁をつくってしまう」「どんな時も自然な笑顔をつくれる」といった証言を得たという。
 「スパイ養成のために洗脳し、違法な活動をおかしても人を籠絡し、必ず情報をとるという人間へと育てていく。相手の心の中を透視でもするかのような、冷徹なまなざしをもつ」と元班員らの印象を語る。

◆黒井文太郎氏「組織としては既にない」

 一方、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏の見方はこうだ。別班のルーツは、1950年代に埼玉県と東京都にまたがるキャンプ・ドレイクを拠点に、米陸軍が自衛官を研修した軍事情報特別訓練。61年に「陸幕2部情報1班特別勤務班」として極秘裏に創設された。「ムサシ」「MIST」とも呼ばれ、73年に当時韓国の野党指導者だった金大中元大統領が東京で拉致された事件でも、別班の関与が取りざたされた。ただし、別班の海外展開については「取材でそういう話はない」とし、組織としては既にないとみる。
 共同通信記事の配信後、菅義偉官房長官(当時)は記者会見で、即座にその存在を否定。「こちら特報部」の取材に対し、防衛省は「ご指摘の陸上自衛隊の『別班』といったような組織は、これまで存在しておらず、また、現在も存在していません」とあらためて回答した。

◆問題は「文民統制の逸脱と別班員の人権」

 石井氏は別班は今もあるとみて取材を続ける。自著も参考とされたVIVANTについて「別班がテロから日本を守る組織として美化されるのか、それとも暴力もいとわない非道な組織ととらえられるのか。描かれ方によっては、実際と異なるイメージが増幅されるかもしれない」と、今後の展開を気にかける。
 その上で「OBたちもドラマに注目している。文民統制の逸脱と非人間的な訓練を受けてきた別班員の人権。別班が抱えるこの二つの問題に着目し、見ていきたい」と話した。

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