会社は勉強の場ではない カルビーの松本晃会長
カルビーの松本晃会長兼最高経営責任者(CEO)は「プロ経営者」の代表的な存在で語られることが多い。「会社のトップでないと面白くない」「もうけないと何もできない」と断言し、医療や食品など渡り歩いた各社で結果を出してきた。自分を磨いて成果を出せと説く。(聞き手は日経産業新聞編集長 野沢正憲)
――伊藤忠商事から社会人のキャリアが始まりました。
「大学時代は安保闘争で授業がありませんでした。こんなに面白い生活はないなぁと大学院にも進みましたが、周りは頭のいい人ばかり。居場所じゃないと感じ、仕事を探しました。伊藤忠のリクルーターが学校に来ていたので手を挙げて採用してもらいましたが、商社が何をやっているかは入ってから知りました」
「配属された部署はクレーンやフォークリフトを扱っていましたが、何でも売っていました。向こうが求めるものは全部売る、お客様ありきのビジネスです。土地なども売って会社に怒られもしましたが、お客様には好かれました。人は買いたいモノを買うのではなく、買いたい人から買うのだと学びました」
――医療機器を扱う子会社にも出向しましたが、大赤字でしたね。
「つぶしてもいいよ、と言われて出向しました。肩書は取締役営業本部長でしたが、社長が任せてくれたので社員の採用の仕方から給与体系までガラリと変えました。子会社では細かいことも分かって経営の勉強になりました。会社は立て直しましたが、難しいことはしていません。もうからないものを切って取扱品目を10分の1に絞り込んだのがスタート。いいことはやる、悪いことはやめるという基本です」
――その後、今のジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)に転じ、社長も務めます。経営に興味があったのですか。
「というか、偉くなることに興味がありましたね。会社はトップじゃないと面白くない。伊藤忠で社長になることはないなと思っていたので、45歳の時にグループを辞める決断をしました」
「23社からオファーがあり、J&Jに決めました。理由の一つが同社の『クレド(信条)』です。企業の責任の所在を明確にしていて1番は顧客、2番は社員と家族、3番は地域社会、最後が株主だと。創業者の息子がつくったもので、70年以上、ほとんど変わっていません。日本企業にも社是が色々ありますが、読んでも分からないものが多い。J&Jは簡潔明瞭で、社員が本気で実践していた。ここがしっかりしていると何かあっても全員が立ち返れます」
――カルビーでも経営を担い、プロ経営者にも取り上げられます。
「会長は4年しかやらないつもりでしたが、踏ん切りが難しいですね。自分でやらなければ気が済まないくらい面白い仕事もあります。今はシリアルの『フルグラ』。最初から自分で戦略を立てていて、面白くてなかなかやめられません」
――働き方改革が叫ばれていますが、もともと「残業なんてするな」という考えですね。
「長きをもって貴しとなさない、とよく言っています。長く働いたら成果が出る時代は1990年に終わりました。会社が求めるのは時間ではなく成果。ロボットや人工知能(AI)も出てくるなか、人にできる仕事は頭を使うこと。どこで仕事をしようが何をしようが、どうすれば一番成果が出るかを考えることが大事です」
「人材のダイバーシティー(多様化)を進めるのもやらないと成果が出ないからです。今日(3日)も入社式がありましたが、4月に一斉に入ってくる必要があるのかな、初任給も同じでいいのかなと思います」
――仕事って何でしょうか。
「会社は勉強する場所ではなく、社員が学んだことを使って貢献する場所です。基本をたたき込まれたら、あとは自分で上がっていくしかありません。社員は育てるのではなく、自分で育つもの。だからこそ若い人には学べ、と言いたいです」
「仕事の意味は2つ。1つは世のため人のため。J&Jで考えが変わりました。ヘルスケアのビジネスに携わり、自分が販売した機器で患者が助かり、感謝される。『こんなに良いこともあるんだ』と実感を持ってやれるのは大事ですね。あとはもうけることです。もうけないと何もできないですし、もうけることで社員や世の中の人にもいいことがあるのです」
■ ■私のこだわり■ ■
学ぶことに貪欲で、「生きている限りは」と話す。あらゆる情報源に触れ、自分の成長に役立つものは取り入れ、気づきは社員と共有する。
最近、読んだ本からこんなフレーズを社内のブログに載せた。ソニーの共同創業者の盛田昭夫氏の「出る杭(くい)を求む」。平均的な社員を求める会社もあるなか、「カルビーを含む今の会社に本当に大事な言葉です」
(湯前宗太郎)
[日経産業新聞 4月11日付]