女性蔑視と同調圧力が生んだ魔女狩り スコットランド謝罪の背景

英スコットランド自治政府のスタージョン首相=エディンバラで2022年7月14日、ロイター
英スコットランド自治政府のスタージョン首相=エディンバラで2022年7月14日、ロイター

 英国のスコットランドで、中世以降の「魔女狩り」の犠牲となった人々の名誉回復を図る動きが進んでいる。スコットランド自治政府のスタージョン首相は今年3月、議会で正式に謝罪した。何が起きているのか。現地を訪ねた。【ダンディー(英スコットランド)で篠田航一】

今につながる歴史

 「私は恐ろしい歴史的な不正義を認め、処刑された全ての故人に謝罪します」。スタージョン氏は議会でそう演説し、処刑された人々は魔女ではなく人間だったと強調。さらに「動機の一部にはミソジニー(女性嫌悪)があった」と述べた。演説は3月8日の国際女性デーに行われた。

 冤罪(えんざい)を晴らすため議会への請願活動などを続けてきたスコットランドの女性弁護士クレア・ミッチェル氏(51)はこう話す。「今さら数百年前の故人の名誉回復をしても意味がない。そういう声もありました。しかし歴史に学ばない者は、また同じ歴史を繰り返します。これは今につながる話なのです」

 中世以降、欧州では魔女狩りの嵐が吹き荒れた。背景にはキリスト教信仰を中心とした共同体の中、異端や悪魔的な存在を極度に恐れた人々の心理がある。住民の病気や穀物の不作などが村で起きれば、その「はけ口」として主に女性が攻撃され、一種の集団ヒステリー状態となった。むしろ宗教改革が始まった16世紀以降に激しくなり、教会の腐敗を批判したドイツの改革者ルターでさえ魔女の存在を信じていたとされる。カトリック、プロテスタント地域を問わず魔女狩りは広く浸透し、15~18世紀に4万~6万人が処刑されたとみられる。この風習は新大陸の米国にも広がった。

 スコットランドで魔女狩りを正当化した「魔術禁止法」は1563年に制定され、1736年まで施行された。ミッチェル氏によれば、スコットランドでは16~18世紀に少なくとも4000人が告発され、2500人以上が処刑された。人口比で考えた場合、この割合は他の地域に比べて高いという。男性も処刑されたが、8割以上は女性で、本人が否定しても最終的に自白を強要された。「当時、女性は…

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