「プランB」設立のきっかけは、元妻ジェニファー・アニストン !?
「プランBエンターテインメント」が設立されたのは2001年。ブラッドと当時の妻ジェニファー・アニストンが、映画プロデューサーのブラッド・グレイと組んで3人でスタートさせた。
最初にクレジットされた作品はブラッドが2004年に主演した『トロイ』。続いてティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演の『チャーリーとチョコレート工場』(06)を経て、3本目の『ディパーテッド』(06)で早くもアカデミー賞作品賞を受賞。こちらはマーティン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ主演作。両作ともブラッドとジェニファーは俳優としてタッチせず、早い段階でプランBが、彼らの主演作の企画・製作を目的とする会社ではないことが明確になった。
2005年にブラッドと離婚したジェニファーはプランBを離れて新たに製作会社を作り、グレイもパラマウント・ピクチャーズCEOに就任、2006年からはブラッドがCEOに。現在は『ムーンライト』の製作を手がけたデデ・ガードナーとジェレミー・クライナーが共同社長を務めている。
2012年に『ツリー・オブ・ライフ』がアカデミー賞作品賞にノミネートされ、14年からは毎年、作品賞に候補入り。14年には『それでも夜は明ける』、今年は『ムーンライト』が見事受賞している。15年の候補作『グローリー/明日への行進』は主題歌賞を、16年の『マネー・ショート 華麗なる大逆転』は脚色賞を受賞し、毎年必ず何らかの賞を勝ち取り、会社設立から15年余りで堂々たる実績を上げている。
プロデューサーとしてのブラッド・ピットの功績。
『それでも夜は明ける』(14)がオスカー作品賞を受賞した際、スティーヴ・マックイーン監督は受賞スピーチで「彼がいなければ、この映画が作られることはなかったでしょう」とブラッドを讃えた。出演者の1人としてではなく、プロデューサーとして。
「プランB」は創業当初こそブロックバスター大作を中心に手がけたが、2006年にブラッドが単独のオーナーになり、デデが参加して以来、インディーズ色の濃い作品が増え、パートナーだったアンジェリーナ・ジョリーの監督作も製作していた。「キック・アス」シリーズやブラッド主演の『ワールド・ウォーZ』(13)などでヒットを飛ばし、その一方で寡作で知られる名匠、テレンス・マリック監督の『ツリー・オブ・ライフ』(11)をブラッド主演で製作。同作はカンヌ国際映画祭で最高賞であるパルムドールを受賞した。
メジャーなヒット作の主演スターであると同時に、映画という芸術に思い入れの深いブラッド。誰もが見たくなるようなエンタメ作にも、才能ある逸材の発見とサポートにも自らのポテンシャルをフル稼働させる。映画の作り手にとっては頼りになる敏腕プロデューサーだ。
「プランB」成功の秘訣は、頼りになる目利きの右腕デデ・ガードナーにあり。
現在、「プランB」の共同社長であるデデ・ガードナーは『ムーンライト』の作品賞受賞により、史上初めてオスカーを二度受賞した女性プロデューサーになった。
「プランB」の実務を担うべく、途中から参加したデデはコロンビア大学で英文学の学位を取得した後、映画界でフリーランスのスタッフとして働き始めた。「プランB」入りするに前はパラマウント・ピクチャーズでSVPを務め、新しい人材と良い脚本を見つける目利きとして知られていたデデは、プロデューサーの仕事を「お母さんクマみたいな役割。映画作りに横やりを入れようとする人々を遠ざけるために堀を作ること」と語っている。信念は「ビジネスだけではなく、これを作らないと自分自身の意味がないと思うものを作り続けていくこと」。
「プランB」のもう一つの得意分野は女性映画。『食べて、祈って、恋をして』(10)や『50歳の恋愛白書』(10)など、ヒロインが若い女性ではなく、中年女性の物語というのもポイント。自分が信じたストーリーなら、他社が尻込みする企画でも進める決断力が成功への鍵なのかも。
『ムーンライト』がオスカーを受賞するまで。
常に良作を探すアンテナを張りめぐらし、「これは」と思った才能の持ち主には有名無名を問わず、一緒に映画作りをしないかと持ちかけるのが「プランB」のスタイル。
バリー・ジェンキンスについても、2008年の長編デビュー作『Medicine for Melancoly(原題)』を見たブラッドたちからコンタクトを取り、新作についてアイディアを交換した。残念ながらこの時は企画が実現することは叶わなかったが、両者は2013年、テルライド映画祭で再会。『それでも夜は明ける』上映後のQ&Aにジェンキンスが登壇し、それをきっかけに再び交流が復活し、バリーは「プランB」側に『ムーンライト』の脚本を持ち込んだ。一読した「プランB」側はすぐに契約が成立。ソフィア・コッポラ監督の『ブリングリング』(13)やブリー・ラーソン主演の『ルーム』(16)などを手がける新興の配給会社も加わり、強固なバックアップ体制ができた。
バリーはこの展開を「本当に素早かった」と振り返っている。無名の監督とキャストに複雑なテーマの作品は製作費150万ドル、撮影期間25日という厳しい条件ながら、完成。彼らにとって思い出の場所であるテルライド映画祭でお披露目されるや、注目の的になり、そのままオスカーレースのトップを走り続けた。
ブラピだけじゃない、今後に注目の俳優兼プロデューサー。
ハリウッドには、演じるだけではなくプロデューサーとして自ら作品をコントロールするスターは少なくない。トム・クルーズやウィル・スミス、ドリュー・バリモアなど、自分の出演映画製作を中心とする場合も多いが、ブラッドのように出演の有無に関わらず、プロデュースするスターたちは以下のような顔ぶれ。
ジョージ・クルーニーは、ベン・アフレック監督・主演の『アルゴ』(12)がアカデミー賞作品賞を受賞したほか、メリル・ストリープやジュリア・ロバーツなど実力派の共演でオスカー候補にもなった『8月の家族たち』(14)などをプロデュース。製作に加えて自ら監督・脚本・主演を兼ねることもあり、まさにオールラウンドの映画人だ。ジョージと「オーシャンズ」シリーズなど共演作も多いマット・デイモンも、今年のオスカーで脚本賞、主演男優賞を受賞した『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(16)のプロデューサー。本来は自身の主演作だったが、親友ベン・アフレックの弟ケイシーに譲り、ケイシーはオスカーに輝いた。
同様に、自身の主演作として企画を立ち上げながらも、よりふさわしい女優を見つけると、潔くプロデューサーに回ったのは『ゴーン・ガール』(14)のリース・ウィザースプーン。その代わり、同時期に『わたしに会うまでの1600キロ』を製作・主演。『ゴーン・ガール』のロザムンド・パイクとともに第87回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。
Text: Yuki Tominaga