Vol.1 カットアウト・アニメーション

カットアウト・アニメーションは、切り紙アニメーションとも呼ばれ、非常に古い歴史がある。その誕生のきっかけには、作業の効率化があった。たとえば、初期のアニメーションを代表する、ウィンザー・マッケイ(Winsor McCay)の『恐竜ガーティ(Gertie the Dinosaur)』(1914)などは、すべての要素が同一の紙に描かれている。そのため動いていない背景も1コマずつ描き直さねばならないという、非常に手間のかかる手法となっていた。この問題を解決するために考案されたのが、背景画の上にキャラクターを描いた紙を切り抜いて置くという手法で、すでにエミール・コール(Emile Cohl)の『ボンヘッド教授の難船(Professor Bonehead is Shipwrecked)』(1912)などで確立されていた。

1914年には、アール・ハード(Earl Hurd)によってセル・アニメーション技法が考案され、カットアウトは一気に古い手法となる。だが、ジョン・ランドルフ・ブレイ(John Randolph Bray)がハードと組み、セルアニメ技法の高額なパテント使用料を要求する会社を設立した。そのため、個人作家や、セルの入手が困難な地域の人々の間で、切り紙手法は生き残ることになった。たとえば旧ソ連では、『ソビエトのおもちゃ(Soviet Toys)』(1924)や『惑星間革命(Interplanetary Revolution)』(1924)といった作品が制作された。ドイツでも、ロッテ・ライニガー(Lotte Reiniger)が影絵風の長編アニメ『アクメッド王子の冒険(The Adventures of Prince Achmed)』(1927)をつくり上げている。日本でも、村田安司や政岡憲三などが切り紙作品をつくっていた。

ロッテ・ライニガー作品集 DVDコレクション【3枚組】

ロッテ・ライニガー作品集 DVDコレクション【3枚組】
¥12,600(税込)
発売:アスミック
販売:角川エンタテインメント
© Primrose Productions
"Licenced by British Film
Institute on behalf of
Primfose Productions"

このように歴史のあるカットアウトであるが、けっして古びた手法というわけではない。すべてが均質な質感になってしまうセルアニメと違い、切り紙なら画材のマチエールを活かしたキャラクター表現が可能になる。例えば、ルネ・ラルー(Rene Laloux)の『ファンタスティック・プラネット(Fantastic Planet)』(1973)は、ペン画のタッチがそのまま反映されている。

また、ロシアのユーリ・ノルシュテイン(Yuri Norstein)は、キャラクターのパーツとなるセルの表面を傷付け、そこにインクを染み込ませて着色し、細かく裁断して何重にも重ねていくという方法を採っている。これによって微妙な表情変化など、繊細な演技が可能になった。さらに、中国の上海美術電影製片廠でつくられた『シギと烏貝が争う(鷸蚌相争)』(1983)は、キャラクターの素材に和紙を選び、エッジの繊維をほぐすことで水墨画のようなソフトな質感を得ることに成功した。

CGが全盛となった現在でも、スキャナーで素材の質感を取り込むことで、カットアウトのテイストをデジタルアニメに活かすことが可能なのである。

PICK UP

ファンタスティック・プラネット

ファンタスティック・
プラネット

¥4,935(税込)
発売元:IMAGICA
販売元:ジェネオン エンタテインメント

■『ファンタスティック・プラネット』
(La Planète sauvage/Fantastic Planet,1973年)

巨大なドラーグ人に支配され、人間が虫けらのように扱われている惑星を描いた、ルネ・ラルー監督の長編SFアニメーション。

ステファン・ウルの小説『オム族がいっぱい』を原作とし、脚本と美術にクレジットされている(実際は途中降板)ローラン・トポールのデザイン画を、そのままのタッチでアニメートすることに成功している。
フランスの作品だが、長編アニメを制作する環境がなかったため、チェコスロバキア(当時)のトルンカ・スタジオで制作された。カンヌ映画祭でアニメ作品初となる審査員特別賞を受賞している。

日本での初公開はアニドウ主催の自主上映会「奇想天外シネマテーク」(1980)で、その会場には宮崎駿氏も参加されており、「日本のアニメには美術が不在だ」という感想を述べられている。時期的に考えて、奇妙な巨大生物の描写などが『風の谷のナウシカ』に影響を与えたかもしれない。ジェネオン エンタテインメントからDVDが発売されている。

上海美術電影作品集 Vol.2

上海美術電影作品集 Vol.2
¥3,990(税込)
発売元・販売元:ジェネオン エンタテインメント

■『シギと烏貝が争う』
(鷸蚌相争,1983年)

「カラスガイ(ドブガイ)が日向ぼっこをしていると、シギがやって来てその肉を食べようとする。しかし貝が殻を閉じたので、シギのくちばしが挟まり取れなくなってしまう。それを見ていた漁師が、カラスガイとシギを同時に捕まえてしまった」という中国のことわざ「漁夫の利」の元になったストーリーを、水墨画調で描いた短編アニメーション。

和紙を素材としているが、シギの首などは複雑な関節がしかけられており、クネクネと動かすことが可能になっていた。ジェネオン エンタテインメントのDVD『上海美術電影作品集 Vol.2』に収録されている。