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ステージレビュー

名作復活・凰稀かなめの魅力光る 宝塚バウ公演開幕

2010年5月7日

  • 文・さかせがわ猫丸、写真・岸隆子

写真宝塚バウホール公演「リラの壁の囚人たち」より=撮影・岸隆子

写真拡大宝塚バウホール公演「リラの壁の囚人たち」より=撮影・岸隆子

写真拡大宝塚バウホール公演「リラの壁の囚人たち」より=撮影・岸隆子

 星組公演「リラの壁の囚人たち」が、バウホールで5月7日に初日を迎えました。22年前、涼風真世(すずかぜ・まよ)さん主演で人気を呼んだ作品の再演です。

 主演は、星組2番手の凰稀かなめ(おうき・かなめ)さん。ユニットAQUA5のメンバーとしてテレビやCMなどでも活躍し、人気急上昇中で、その端正なルックスにもますます磨きがかかってきました。さらに紅ゆずる(くれない・ゆずる)さん、美弥るりか(みや・るりか)さんと、星組自慢の「イケメン」がそろい踏みで、これはかなりの眼福公演となりそう。ヒロインは花組から移籍したばかりの白華れみ(しらはな・れみ)さんという美しい実力派が寄り添い、これで夢の世界に浸れるのは確実だわと思わず胸が高鳴ります。

 オープニングは、凰稀さんが客席に降りてしっとりと歌うシーンから。帽子を目深にかぶり、ひげをたくわえ、ロングコートに身を包んだワケあり風の年配男性で、かつての思い出が染み込んだパリの街を訪れているようです。おそらく彼が過ごしたであろう当時と何も変わらない風景…でもそこにはもう知らない人たちが住んでいました。

 1944年、ドイツ占領下のパリの街。夜には外出禁止令がしかれ、リラの花咲く袋小路に住む人々も閉塞感の中で暮らしていた。ある日、そこへ負傷した英国情報部員エドワード(凰稀)を連れたレジスタンスの男たちが、ゲシュタポに追われ逃げ込んできた。ドイツ軍の目を恐れる住人達は困惑するが、警官のモラン(美城れん/みしろ・れん)や医師レーモン(にしき愛/にしき・あい)の厚意もあり、結局、彼らをかくまうことになる。看護婦でもあるモランの娘ポーラ(白華)は、エドワードたちが不自由のないよう気を配るが、その様子が彼女の婚約者でレーモンの息子ジョルジュ(紅)を苛立たせる。ジョルジュは戦傷によって車椅子での生活を余儀なくされていた。

 エドワード演じる凰稀さんは、極小の顔に長い脚でスタイル抜群。スーツの後ろ姿は男役の美を完璧に完成させ、まさに少女マンガの主人公のよう。抑えた役柄の中にも優しさと強さをにじませ、女性たちが次々惹かれて行くのには十分納得させられます。白華さんが演じるポーラは儚げで優しく、あらゆることに耐え忍ぶ姿が切なさを誘います。そして注目していただきたいのが紅さんです。狂気を帯びるがごとくやり場のない憤りを、献身的に尽くすポーラにぶつけ、内面の苦悩を表現する難しい役どころ。彼女にとって、ここで一気に殻を打ち破るターニングポイント的な公演となるかもしれません。

 袋小路にあるキャバレー「パラディ」は、ドイツ軍人たちでにぎわっていた。将校のギュンター(美弥)が、ここで働くマリー(音波みのり/おとは・みのり)を気に入り、便宜を図っていたからで、女将のラルダ(万里柚美/まり・ゆずみ)も大喜びだ。店を辞めさせ面倒をみたいというギュンターからの申し出に戸惑うマリーだったが、エドワードから「自分の気持ちを偽ることはない」と諭され、その優しさに心を動かされていく。

 ギュンターはいけすかない男ですが、これを美弥さんが見事に演じていています。ドイツ軍将校の制服と、白に見えそうなほどの金髪が冷酷さをさらに演出し、独特の低い声もあいまって、本当にあの愛らしい美弥さん!?と、なかなかの衝撃を受けました。マリーを演じる音波さんもとても可愛らしく、曖昧な態度には観ているこちらも翻弄されてしまうなど、一人一人のキャラクターも個性的です。

 仲間たちが戦う中、自分だけが壁の中に囚われているような状況に、エドワードは焦燥感を募らせていた。ポーラもまた、ジョルジュからの優しい言葉を待ち続ける日々だった。知らず知らずのうちに惹かれあう2人。やがて、連合軍のノルマンディ上陸という知らせが飛び込み人々は沸き立つが、そこへ突然ゲシュタポがエドワードの身元を調べにやってきた。そこでモランがある事実を打ち明け窮地を救うのだが、その内容はエドワードにとって思いもかけない皮肉なものだった…。

 物語は、人々が住む袋小路の中庭のみで展開されますが、時間がゆっくりと静かに流れるようで、だけどドキドキハラハラするという、不思議な感覚を味わわせてくれます。主人公エドワードは派手ではないけれど、大人の男の魅力に満ちていて、結ばれることが許されないポーラとの恋は切なく、もどかしい思いに胸が締め付けられました。凰稀さんがぐっと頼もしくなり、スターらしくなったのを始め、星組の若手たちの充実ぶりが目を見張ります。登場人物の個性をそれぞれに生かし、じっくりと物語に浸ることのできるバウホール公演の良さが十分に堪能できるこの作品。名作は22年の時を超えても健在なのだと実感させてくれました。

◆バウ・ミュージカル「リラの壁の囚人たち」

《宝塚バウホール公演》5月7日(金)〜5月18日(火)
詳しくは、宝塚歌劇団公演案内へ
《日本青年館大ホール公演》5月24日(月)〜5月31日(月)
詳しくは、宝塚歌劇団公演案内へ

スター★ファイル

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筆者プロフィール

さかせがわ猫丸
大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コムに「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

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