【英総選挙2019】 与党・保守党が大勝 ブレグジットに「新たな信任」と首相
イギリス総選挙は12日午後10時(日本時間13日午前7時)に投票が締め切られ、与党・保守党が下院(定数650)で過半数議席を獲得した。来年1月31日までのブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)を目指すボリス・ジョンソン英首相は、「我々の『ひとつの国』保守政権は今夜、ブレグジット実現へ強力な信任を得たようだ」と述べた。保守党にとって1987年以来の大勝となった。
「回復が始まるように」
エリザベス女王から新しい組閣の許可を得た後、ジョンソン首相は首相官邸前で演説。今回初めて保守党に投票した長年の労働党支持者に感謝し、来年1月31日にイギリスをEUから離脱させるという約束を果たすと強調した。
ジョンソン氏は「皆さんが私たちを信頼してくださったことに感謝します。我々は昼夜を問わず働き、皆さんの信頼に応え、皆さんのために働く議会と共に、皆さんの優先事項について対策を実現します」と述べた。
さらに、「この『ひとつの国』保守政権の我々は、皆さんが他の欧州諸国に抱く、前向きで温かい好意や共感の気持ちを、決して無視したりしません」と話した。
加えて、イギリス国民には「休憩が必要です。駆け引きや政治から。ブレグジットの話はもうきっぱり終わらせるべきです」と述べ、「誰もが区切りをつけて、回復が始まるようにするべきです」と呼びかけた。
1987年以来の大勝
13日中に650議席が全て確定した。保守党は365議席(47増)を獲得。労働党は203議席(59減)となった。 スコットランド国民党(SNP)は48議席(13増)、自由民主党は11議席(1減)、北アイルランドの民主統一党(DUP)は8議席(2減)、北アイルランドのシン・フェインは7議席(増減なし)、ウェールズのプライド・カムリは4議席(同)、緑の党は1議席(同)、北アイルランド同盟党が1議席(1増)、北アイルランドの社会民主労働党(SDLP)が2議席(2増)になった。
今年5月の欧州議会選挙で躍進したブレグジット党は、下院の議席を獲得できなかった。
これによって保守党は全野党より80議席多い、1987年以来最大の過半数を占めることになった。
全国の投票率は67.3%。前回の2017年選挙から1.5ポイント下がった。
保守党の得票率は43.6%(1.2ポイント増)、労働党の得票率は32.1%(7.9ポイント減)、自由民主党は11%(4.2ポイント増)、SNPは3.9%(0.8ポイント増)だった。
1935年以来の大敗を喫した労働党のジェレミー・コービン党首は、「労働党にとっては残念な夜」だと敗北を認め、次の総選挙で党を率いることはないと述べた。年明けにも党首を退く方針という。
一方で、議席を伸ばしたSNPのニコラ・スタージョン党首は13日朝、「スコットランドは実にはっきりと意思表示をした。私たちはボリス・ジョンソンの政府など欲しくないし、私たちはEUを出たくない」と演説し、2014年に続く、2度目の独立住民投票を実施したい意向をあらためて強く示した。
自由民主党は、第1党となればEU離脱を中止すると約束していたが、出口調査の結果では1議席増にとどまった。ジョー・スウィンソン党首は、スコットランドのダンバートン・イースト選挙区で、スコットランド国民党(SNP)の候補に149票差で敗れ、党首辞任を発表した。
イギリスでは通常、5年に1度総選挙が行われるが、今回は2015年と2017年に続き過去5年で3度目となる。また、12月に総選挙が実施されるのは1923年以来で初めて。
ブレグジット効果
保守党は、2016年の国民投票でEU離脱を支持した多くの地域で票を伸ばした。2016年に過半数が離脱を支持した選挙区では、保守党が圧倒的な強さを見せ、その75%で勝った。対照的に、スコットランドやロンドンなどEU残留派が多い地域では、票を失った。
明確な離脱派や残留派とは、2016年国民投票で6割以上がいずれかに投票した選挙区を意味する。
選挙分析の専門家、サー・ジョン・カーティスによると、国民投票で6割以上がブレグジットを支持した選挙区では、保守党の得票率は平均6ポイント上昇した。55%以上がEU残留を支持した選挙区では、保守党の得票率は3ポイント下がった。
一方で、労働党が今回失ったイングランド北部と中部、ウェールズの選挙区のほとんどは、2016年の国民投票でブレグジットを支持していた。加えて労働党は、明確な離脱派の選挙区だけでなく、明確に残留派が多い選挙区でも、4割しか議席を得られず、得票率を6.4ポイント落とした。
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まずは朝食を
大勝で明けた13日朝、ロンドンで集会を開いた保守党は、壇上に「The People's Government(国民の政府)」とスローガンを掲げた。
最初に登壇したマイケル・ゴーヴ氏は、「英国民の勝利」を祝い、国民がコービン労働党党首の「分断と過激主義と反ユダヤ主義」を拒絶したのだと強調し、「イギリスのユダヤ人コミュニティーはもうこれ以上、恐怖の中で過ごす必要はありません」と述べた。
その後に登壇したジョンソン首相は、「やった、膠着(こうちゃく)を破った」と宣言。「議論の余地のない国民の決定」として「ブレグジットを実現する」と強調し、支持者の「信頼を裏切らない」と約束した。
首相は初めて保守党に投票したかもしれない労働党支持者に感謝し、自分は「国民の政府」を率いて、自分に託された「神聖な信任」に応えると約束した。
「皆さんは次回、労働党側に戻るかもしれない。もしそうなら、皆さんが今回は私を信じてくださったことに身が引き締まる思いです。皆さんの支持が当たり前のものと、決してたかをくくったりしません」
「私は昼夜を問わず働き、皆さんが今回、私に投票してくれたのは正しかったと必死になって証明し、将来的にも皆さんの支持を得ようと思います」
首相はさらに、国民健康サービス(NHS)の充実が優先課題だと強調したほか、環境重視を表明し、有権者が求めた炭素中立を実現すると約束した。
首相は最後に「Let's get Brexit done(ブレグジットを実現しよう)」と繰り返した後、「その前にlet's get breakfast done(朝ごはんを実現しよう)」と結んだ。
ジョンソン氏はこの後、バッキンガム宮殿を訪れエリザベス女王と面会。選挙結果を報告し、新しい組閣の許可を女王から得た後、官邸前での演説に臨んだ。
スコットランドの住民は
スコットランドで得票率45%、48議席を達成し、前回選挙から13議席を増やしたSNPのニコラ・スタージョン党首は13日朝に演説し、「スコットランドに住む人は、出身がどこかを問わず」、今回あらためて明確にEU残留を支持し、保守党を拒絶し、「スコットランドは自分たちの将来を自分たちで決める権利がある」と明確に意思表示したと言明した。
スタージョン氏は、スコットランドはEU残留を圧倒的に支持しており、そのスコットランドでジョンソン首相は「敗退した党の党首なのだから、あなたに住民投票を阻止する権限はない」と断言。「首相は残念ながらイングランドでは、ブレグジットについて信任を得たものの、スコットランドをEUから離脱させるための信任はまったく得ていない」と主張した。
「ボリス・ジョンソンはイングランドをEUから離脱させる信任は得たが、私はスコットランドに別の未来を選ぶ機会を与えるための信任を得た」と、スタージョン氏は強調した。
労働党の牙城で保守党勝利
保守党にとっては1987年以来の大勝利となったが、イングランド北部や中部の伝統的な支持基盤を次々と失った労働党は、4回連続で政権を奪取できず、1935年以来最悪の結果となった。
労働党の得票率は2017年の前回総選挙から8ポイント下がり、保守党は1ポイント上がった。
実際の開票結果は午後11時半ごろに、イングランド北東部ニューカッスル・セントラル選挙区が最初に発表した。労働党現職のチ・オヌラ議員が得票率58%で圧勝した。続いて結果を発表したイングランド北東部サンダーランドでも労働党現職が再選したが、得票率は13ポイント下がった。
一方で、1950年代から労働党が勝ち続けたかつての炭鉱町、イングランド北東部ブライズ・ヴァリーでは保守党候補が勝った。労働党は得票率を15ポイント減らした。
クンスバーグBBC政治編集長は、ブライズ・ヴァリーで保守党が勝った瞬間について、「この夜を象徴するもの」と呼んだ。
クンスバーグ編集長は「勝った候補が当選演説で、ボリス・ジョンソンの名前を口にしたのも興味深い。ジョンソン氏は何度も何度も北東部を訪れた。ジョンソン氏は、他の保守党が影響力を発揮できなかった地域にも訴えかけることのできる保守党党首だったのかもしれない」と話している。
保守党はこの後も、伝統的に労働党が押さえてきた北東部や北西部の選挙区で次々と労働党から議席を奪った。
ブレグジット総選挙
ジョンソン首相はブレグジットを最大の公約に掲げ、2020年1月31日の離脱期限までに協定を可決するため、過半数獲得を目指していた。
出口調査が発表されると、首相は「私たちの偉大な国の各地で投票した人、ボランティアをした人、候補として出馬した人、皆さんどうもありがとうございます。私たちは世界最高の民主主義の国に暮らしている」とツイートした。
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Twitter の投稿の終わり, 1
首相官邸は、ジョンソン首相がEUとまとめた離脱協定案を法制化する法案を、20日にも下院で審議する方針を示した。
また、週明け16日に最低限の人事を行うにとどめ、本格的な内閣改造は来年1月31日のEU離脱後に実施するとしている。
ジョンソン氏自身は、ロンドン西郊の選挙区で苦戦が予想され、落選の可能性さえ取りざたされていたが、実際には労働党候補に7210票差をつけて再選を果たした。開票所での勝利スピーチでは、「我々の『ひとつの国』保守政権は今夜、ブレグジット実現へ強力な信任を得たようだ。それに加えて、この国を団結させ、国民健康サービスなど国民の優先事項に集中するため、信任を得た」と述べた。
コービン党首「次の総選挙では党を率いない」
一方の労働党のコービン党首は、ブレグジットについて2度目の国民投票を行い、離脱協定の再交渉かEU残留を選んでもらうと約束していた。それと同時に、労働党は公共サービスや国民保健サービス(NHS)への投資拡大にも焦点を当てていた。
コービン氏自身はロンドン北部のイズリントン・ノース選挙区で2万6000票差をつけて圧勝した。家族や支持者に感謝した上で、「もちろん労働党にとっては残念な夜」だと敗北を認め、次の総選挙で党を率いることはないと述べた。今後の党の方向性は自分が先頭に立ち、党内で検討するという。
コービン氏は、ブレグジットがあまりに国内の議論を分断したため、正常な政策議論ができなくなったと指摘。社会正義や国民が必要とするものの問題は、ジョンソン氏が望むブレグジットが実現してもなくならないと苦言を呈した。その一方で、下院議員として地元選挙区を代表し続けることを誇りに思うと強調した。
責任はコービン党首かブレグジットか
労働党のイアン・レイヴァリー委員長は、出口調査の結果を「非常に、非常に残念に思う」と話した。
また、ブレグジットに対する立場によって、「労働党の中心地」だったイングランド北部で「非常に苦戦」したと述べた。
「1740万人がEU離脱を支持した中、彼らにとって無視されるのは良いことではなかった」
この敗北がコービン党首によるものかという質問には、公約に掲げた2度目の国民投票が国民の支持を得られたなかったことが原因だと指摘。
「それが問題だ。ジェレミー・コービンではない。ブレグジットと、民主主義を無視したことが原因だ」と話した。
一方、元労働党の大物議員ケン・リヴィングストン氏はAP通信の取材に対し、コービン党首が党内の反ユダヤ主義問題などに対処しなかったことが敗北の一因だと述べた。
出口調査速報でポンド高騰
投票締め切りと同時に発表された12日午後10時の出口調査では、保守党は前回選挙から50増の368議席を獲得する見込みだった。一方、労働党は191議席(71減)に議席を減らすとみられた。
この出口調査の結果を受け、英ポンドは一時147円93銭の高値を記録。対ドルでも3%近く上昇し、1.35ドルとなった。
出口調査はBBCと英民放ITVおよびスカイテレビのため、NOP・イプソスモリが全国144カ所の投票所で2万2790人から回答を得た。
<解説>ローラ・クンスバーグ政治編集長
ジョンソン首相は2020年1月にEUを離脱するのに十分な議席を下院で得た。
これはこの国の歴史にとって、大きな分岐点だ。世界におけるイギリスの立ち位置が書き換えられる瞬間だ。
だがそれだけではない。保守党政権がもう5年続き、10年の壁を越える可能性がある。
一方、労働党は4回連続、総選挙で敗れた。ここ数年で左傾化が進んだ中で、これは深刻な、そして歴史的な敗北だ。
スコットランド独立を目指すSNPはスコットランドでの影響力を拡大し、保守党からも議席を奪っている。
自由民主党は、大きな希望を持って選挙活動を始めたものの、結果は思わしくなかった。