流星バースト通信


1.通信の概要

 地球に向って大気圏に侵入する流星の経路に沿って、せいぜい数秒間という短い時間ですが、電離気体が発生し、電波の反射体となります。この反射体(流星バースト)を利用することによって図-1のように通信距離が1,600km程度以内の離れた2点間の無線通信を行うことができます。これを「流星バースト通信」(Meteor Burst Communication, MBC)と呼んでおり、必ずしもリアルタイムの通信を必要としない自然環境データの収集、遠隔地への連絡通報などに利用できます。流星バーストは、高度80〜120kmに発生するため、このような通信距離の制限がありますが、連続して利用することで2,000km以上に延長することも可能です。また、流星バーストによる反射効率の良い40〜50MHzの電波が選ばれます。
 図-1においてリモート局は自然環境データの観測地に設置され、無線送信機で観測データを発信します。リモート局より発信された電波は流星バーストによって反射され、マスター局の無線受信機で受信されます。マスター局は各地のリモート局からの観測データの収集地に設置されます。
 なお、通信距離が200km程度以内ですと、流星バーストを経由せず、直接電波を送受信する見通し距離(Line Of Sight, LOS)通信に自動的になります。これはリアルタイムの通信です。

流星バースト通信

図-1 流星バースト通信

2.通信の特徴

 遠隔地の通信には、短波通信、人工衛星通信もありますが、流星バースト通信には表-1aのような特徴及び表-1bの留意事項があります。

表-1a 流星バースト通信の特徴
1.通信システムが比較的安価に構築でき、運用も安上がりです。
2.システムが専用、或いは共用者が少ないので運用調整の必要がありません。
3.デジタル通信による伝送データの信頼性については実証されています。
4.流星バーストの反射体は永久に発生、消滅を繰返しています。
5.傍受が殆ど不可能で通信内容の秘守性が確実です
6.多地点からのデータ、通報を収集するテレメトリに適切です。

表-1b 流星バースト通信の留意事項
7.数秒から数十分の情報伝送の遅れを容認する必要があります。
8.大量、高速のリアルタイム情報伝送には不向きです。
9.瞬間的(0.1秒以内)ですが比較的大きい送信パワー(約100W)を必要とします。

3.装置の仕様

 流星バースト通信システムを構成するマスター局及びリモート局の主な仕様は表-2の通りです。

表-2 装置の仕様
マスター局リモート局
項  目仕  様項  目仕  様
周波数:
変調方式:
送信出力:
受信感度:
電源:
寸法:
重量:
アンテナ:
40〜50MHz
BPSK
250W〜300W
-123dBM
100/200VAC
56W×81D×147cmH
180kg
5素子八木型・7素子八木型
周波数:
変調方式:
送信出力:
受信感度:
電源:
寸法:
重量:
アンテナ:
40〜50MHz
BPSK
100W
-123dBM
12VDC
25W×4D×38cmH
3kg
単一型、ダイポール型、八木型

4.流星バースト通信の適用事例

 流星バースト通信は、その特徴を生かして環境観測などに適用することができますが、環境データの収集システム、船舶等の運航管理に次のような事例があります。

(海外)
 米国MCC社が実施したプロジェクトに次の事例があります。

  • 積雪観測(米国農務省プロジェクトSNOTEL)
     ロッキー山中600地点の積雪データの収集に流星バースト通信を適用しています。
  • 運行管理
     流星バースト通信と見通し距離通信を組み合わせた運行管理システムとして沿海の船舶航行管理、長距離トラックの運行管理の事例があります。

    (国内)
     ハイテクリサーチ株式会社が実施したプロジェクトに次の事例があります。

  • 気象観測(財団法人エンジニアリング振興協会新素材曝露試験研究)
     沖ノ鳥島では財団法人エンジニアリング振興協会が新素材の暴露試験を行っています。その暴露試験の設置場所での気象データ(毎正時観測値)を流星バースト通信で、ハイテクリサーチ株式会社松戸事業所(千葉県松戸市)へテレメトリします。

    沖ノ鳥島に設置のリモート局から日射量、紫外線放射量、気温、湿度、雨量、風向・風速等の気象観測データを送信、茨城県常総市のマスター局で受信、千葉県松戸市のモニター局で観測データを収集しています。通信経路として北大東島経路で、前者ではほぼ100%のデータ収集を達成の実績(暴露試験フェーズU)があります。